ロマンなんです!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
今日は珍しく早く起きた。

満員のバスに揉まれることもなく、登校できた。

早起きは三文の得、といわんばかりに。

マリア様へのお祈りもいつも通りきちんとして、校舎へ向かった。

いつもと大差は無いけれど、きっと今日もいい一日に違いない。

そう思える朝だったのだ……終業のチャイムがなるまでは。
 
 
 
 
「どうした〜祐巳ちゃん、暗いぞ〜?」
「溜め息つくと幸せが逃げるわよ、祐巳ちゃん」
 
 
 
 
……このにこやかに笑う、二人の先輩に出会ったのが運のつきだった。
 
 
 
 

 
 
 
 
今日は特に会議も無いし、たまには早く帰ってのんびりしようか。
そう思いながら廊下を歩いていた時だった。
ふと見た窓の下に、見覚えのある陰が二つ。
前白薔薇さまの佐藤聖さまと、前黄薔薇さまの鳥居江利子さま。
その二人がなにやら真剣な顔で話し込んでいるようなのだ。
 
 
 
 
「どうしよう……」
 
 
 
 
現在は大学生とはいえ、元々お二人はここの卒業生。
聖さまにいたっては、すぐそこのリリアンの女子大に通っているくらいだから、
例え高等部の敷地内で見かけようと、さほど問題があるわけではない。
だがしかし、山百合会に所属して早一年。
その間に発達した、祐巳の危機感知レーダーはこれでもかというくらいに反応をしていた。
 
 
 
 
「うー……」
 
 
 
 
だって二人とも『真剣な顔』で、何事かを話し合っているのだ。
片方が蓉子さまであったならともかく、この二人が真剣な顔で話すことなんて、あまり良くないことに違いない。
いや、良くないどころかむしろ怖い。
出来ることなら、見なかったことにして放っておきたいくらいだ。
……むぅ、いっそ本当に見なかったことにしてしまおうか?
 
 
 
 
「えぅー…………あっ」
 
 
 
 
そうしよう、そうしてしまおうと天使と悪魔が同時に囁いた瞬間、
祐巳がその場から逃げ出すよりも早く聖さまが上を向くと、つられて江利子さまも上を向いた。
そこには逃げ遅れた哀れな子羊が一匹。
目が合った聖さまは、ニッと笑うと祐巳に向かっておいでおいでと手招きをしたのであった。
 
 
 
 

 
 
 
 
「元気ないぞ祐巳ちゃん、目指す場所はすぐそこだよ?」
 
 
 
 
朝とあまりにかけ離れた心境に、溜め息が止まらない祐巳を振り返って聖さまは言う。
その瞳たるや、イタズラを思いつき実行している子供そのものである。
 
 
 
 
「……そもそも何処に向かっているかなんて知りませんし、こんな格好をする意味が分かりません」
「そう?私は楽しいけど?」
「それは江利子さまだからですよ……」
「祐巳ちゃんも言うようになったわねぇ〜」
 
 
 
 
鍛えられてますから。
主に頭のネジが緩んでる先輩とか、スッポンみたいな先輩とかに。
 
 
 
 
「祐巳ちゃん」
「なんですか聖さま」
「匍匐前進って、ロマンだと思わない?」
「思いません」
 
 
 
 
目的地は相変わらず教えてくれないけど、どうして今こんな格好……つまり匍匐前進なのかは分かった。
藪の中をごそごそと匍匐前進で進んでるこの状況は、ロマンだから、らしい。
 
 
 
 
「だいたい学校はどうしたんですか、聖さま」
「サボった」
「今日は休講なの」
「はぁ〜…………」
 
 
 
 
大学生の講義なんて、日によって時間は違うだろうから、早めに終了したのかもと思えなくも無い。
だけど聖さまに関しては、堂々とサボりらしい。
江利子さまも休講だって言ってるけど、おそらく休講の前に『自主』がつくに違いない。
こんなことをするために、どうやら二人揃ってわざわざ大学を休んだらしい。
理解できない。
 
 
 
 
「おっと着いたね……」
「校内の藪を匍匐前進だなんて貴重な体験だったわ」
「でしょう、せっかくだから在学中にやり残したことを色々やろうかと思って」
「思い立たないでください、こんなこと……って、あれ?ここって……」
「ふっふっふ……そう、ここを抜ければ目の前には憧れの園……」
 
 
 
 
そうこうしている内に、聖さまの目的地へ着いたらしい。
一生忘れたことにした方がいいような経験を経て、辿り付いた場所は……
 
 
 
 
「ざ・じょしこーいしつぅぅぅっ♪♪♪」
 
 
 
 
アホだ、聖さまは激しくアホだ。
歓喜の声を上げながら、藪から飛び出す聖さま。
それを遮る者が約一名。
 
 
 
 
「いざ、この目にしかと焼付け……もげふぅっ!?」
「げっ」
「あ……」
 
 
 
 
藪の外にいた人物の一撃を受け、地面に激突する聖さま。
飛び出した聖さまを手刀で叩き落したのは、麗しの前紅薔薇さま、水野蓉子さまだった。
 
 
 
 
「いつつ……な、なんで蓉子がここに……」
「この子が教えてくれたのよ」
「にゃー」
「あ、ゴロンタ!裏切ったなー!」
「まったく、高等部まで来て何をしてるのよ貴方達は!!」
 
 
 
 
おそらく匍匐前進をしていた藪の外から、ついて来ていたであろうゴロンタ。
それを追って、蓉子さまもここまで来たらしい。
となるとあれだ、藪の中で移動しているすぐ横で、蓉子さまがそれを既に監視していたということなのだろう。
 
 
 
 
「えーっと、それより蓉子、なんで蓉子も高等部にいるのよ」
「そうだ!なんで私の楽しみを邪魔しに来たのよ!」
「だって、祐巳ちゃんから連絡をもらったんだもの」
「「えっ!?」」
 
 
 
 
驚いた様子で振り向く、聖さまと江利子さま。
まさか身内に裏切り者がいたとは思わなかったのだろう。
はいそうです、私が蓉子さまに連絡をとりました。
 
 
 
 
「え、ちょ、いつ連絡なんてしたの祐巳ちゃん!?」
「さっきお二人に見つかった後に。下駄箱に向かう前に職員室前の電話からです」
「で、幸いにして用事で近くまで来ていた私がここに急行、聖の行きそうな場所に辺りをつけたところでゴロンタを発見した」
「ぐぅ……裏切り者が二人もいたとは……」
「無理やり祐巳ちゃんまで巻き込んだくせに、何言ってるのよ」
「あぁ〜あ、せっかくここまで来たのに締めは蓉子かぁ……まぁ面白かったからいいけど」
「貴女のその癖もいい加減にしなさいよ、ほんと……」
 
 
 
 
そこからさっそくお説教タイムに突入したのを、ゴロンタと一緒にぼーっと眺める。
割と気にしてなさそうな江利子さまに対し、聖さまの落ち込みは凄い。
そんなに更衣室を覗きたかったんですか、聖さま。
……本気だったんだろうなぁ。
だって『ロマンだよ!』って言ったとき、目がキラキラしてたもん。
出来ればもう少し、まともな方向に情熱を注いでくれたらいいと思う。

……無理かなぁ、無理なんだろうなぁ…………
 
 
ビシバシと続くお説教を眺めながら、懲りない先輩達の背中に向かって溜め息をついた祐巳なのであった。
 
 
 


...Fin


あとがき(言い訳)

久しぶりのマリみてコメディ系SSです。
本当はいつものように、蓉祐で最後を締めようと思ったんですが、前回キリ番のお部屋でイチャイチャ書いたので、
ギャグとかコメディとか、そっち系で行こう、というわけでお説教ENDと相成りました。
おバカな聖さまと、面白ければやる江利子さまと、それに振り回される祐巳ちゃんとお説教モードな蓉子さまが書けて楽しかったです。
ちなみに、別に匍匐前進しなくてたどり着けると思うし、覗けると思います。
ただ聖さまなら、ロマンを求めてコレくらいやりそうだなぁ、って思ったものですから(笑)
なんとなく匍匐前進してる聖さまが思い浮かんだので、こんな形になりました♪

あー、次辺りはまたキリ番SS館で蓉祐SSかな?それとも別のかな?
でもその前にリリカルなのはの原稿……あとがき書いて入稿せねば……げふぅ。

2008/4/27著


→マリみてSSTOPへ

inserted by FC2 system