ほしいもの






 
 
 
 
「クリスマス?」
「他に何があるん?」
 
 
 
 
冷え込みも厳しくなってきた12月、帰り道で怜に聞かれた「何が欲しい?」という一言に、
そういえばそんな時期だったな、と今更ながらにクリスマスのことを思い出した。
受験戦争まっただ中にいる私達にそんなことを話している余裕はあまりなく、言われるまですっかり失念していた。
 
 
 
 
「……珍しいな、竜華がそういうん」
「う……まぁ、その、そういう話は好きやけど……」
 
 
 
 
世間一般で言う女子高生ともなれば、12月と言えば確かにクリスマス……
それも出来るなら素敵な誰かとのクリスマスの話題に花が咲くのが普通だと思う。
ミーハーやのに、という怜の視線は心外やけど、普段なら間違いなく私もそうだ。
……普段なら。
何べんも言うけど普段なら。
 
 
 
 
「……怜が滑り止め受けてくれれば全部解決するのに……」
「奇遇やな、私も竜華の成績が上がってくれたら解決するて思っとったわ」
「うぅっ……」
 
 
 
 
ぐさぐさ、っと怜の言葉が容赦なく突き刺さる。
そう、問題はそこだった。
去年や一昨年ならきっと喜んでクリスマスに目を輝かせていただろうし、実際にそうしてた記憶がある。
でも今年は受験生。
志望校に対してC判定を頂いてしまってはさすがに私と言えど、
勉強をほっぽってクリスマスーとはしゃぐわけにもいかないのだ。
……怜と同じとこ、行きたいし……
 
 
 
 
「……別に、クリスマスくらいはしゃいだって、問題無いと思うで……?」
「う、ぐす、それはA判定の怜やから言えることやねん……」
 
 
 
 
だいたい私がはしゃいだらクリスマス一日だけで済むわけないやん!
……そう言ったら怜は何とも言えないびみょーな顔をしてくれた。
いや、ちょぉ、そこは否定してほしかったとこなんやけど……
自分で言っておいて、地味にショックを受けてしまった。
 
 
 
 
「……それで、竜華は何が欲しいん?」
「うぅ……今はよっぽどフォローしてほしいわ……」
「やからまぁ、それはおいといて……」
「ぐす……うー……そやなぁ……?」
 
 
 
 
埒が明かないと見たのか、怜が最初の話題へと話を戻した。
フォローをしてくれる気は無いらしい。
いや、ええねん、分かってんねん、地道に勉強あるのみやて。
 
 
 
 
「あー……んんー……」
「……ちょぉ、何かないん?」
「欲しい物、欲しい物なぁ……あっ」
 
 
 
 
一生懸命考えるけど成績以外これと言って何も浮かばず、そんな自分に軽くまたショックを受ける。
私ってこんなキャラやったやろか!?と嘆いたところでC判定が余程堪えているようだった。
そうこうしているうちに頭を使いすぎたのか、なんとなくぼんやりとしてきてしまって……
……ふと、視界にその姿を収めた途端、すっと霧が晴れた様に私の焦点が定まった。
私の、ほしいもの。
 
 
 
 
「怜」
「え……?」
 
 
 
 
私……?と怜が自分を指差して首を傾げる。
その動作を見て私はようやく自分が今何を口にしたのか気がついた。
かぁぁぁ、っと顔どころか身体全体が熱くなる。
今ならきっと雪だって溶かせるに違いない。
……って、ほんまに何言うてるんや私!?
 
 
 
 
「う、あ、やっ、ちゃ、ちゃうんねん!いや違わへんけどちゃうねん!」
「あの、竜華……?」
「うぐ、とととと、とにかく、その……うにぁぁぁぁーーっ!!」
「ちょ、りゅ、竜華っ!?」
 
 
 
 
なんだかすごいことを言ってしまったとわかっているのに、取り消したくはなくて意味を成さない言葉がダダ漏れる。
だってその、好き、とか、大好き、とか、全然まだちゃんと言えてへんのに、すっ飛ばしてえらいことを言ってしまった。
告白の前に怜がほしいとか意味わからへん。
そして八方塞がりに陥った私は……あろうことかその場から脱兎のごとく逃げだすという選択にうってでた。
いや、ちゃうねん、ほんまちゃうねん……やらしい意味やなくてうちはただ大事なんもほしいんも怜だけや言うことで……うあぁぁぁっ!
 
 
 
 
「く……だ、だって好きなんやもーんっ!!」
 
 
 
 
うわぁぁんっ!……と走りながら叫んだところで置いてきた怜にそれが聞こえるはずもなく、私は家までの道を一人寂しく爆走した。
やから当然、怜がその時何を思っていたかなんて、錯乱して走り続ける私には分からなかった。
 
 
 
 
「……逃げたら返事もできひんやないか、竜華のあほ……」
 
 
 
 
……それは怜から手作りのマフラーを贈られ、お返しのプレゼントに私を要求される僅か二週間前の出来事だった。


...Fin


あとがき(言い訳)

メリー、クリマスース!☆
……ばりばり過ぎましたねごめんなさいwwていうかお久しぶりですm(_ _)m
そんな訳でクリスマスネタの竜怜一本目です。
ほんとは同じお題で怜Verを先に書いてたんだけど、なぜか先にこっちが書けたので竜華さんVerをUP☆
告ったらええねん、付き合ったらええねん、押し倒したら(ry
コミケも近いのにそっちのけで早く二人が公式でちゅーすればいいのにと思う毎日ですw

2012/12/28著


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