特別な普通の日(美穂子)






 
 
 
 
きっと、深い意味はないのだと思う。




「困ったわ……」




台所で積まれた食材を前にして一つ溜息をつく。
レシピに不安はないのに、さっきから何一つとして料理の準備が進まない。




「何が、好きなのかしら……?」




それに嫌いな物が何かも知らない。
そんな状態でなぜお弁当を作っていきます、なんて言ってしまったのか、私は自分の浅慮に唇を噛んだ。
あの人に、上埜さんに喜んでほしいに、どうしたらいいのか分からない。




「なんて、あの人は気にしてなんていないかしら……」




だって、上埜さんにとってはきっと、何気ない一言だったのだから。




『ねぇ、じゃあ今度私とデートしてみない?』




交流のある他校の麻雀部、その中でも互いに部長のポジションにいる私とあの人。
いつも思う。
飄々としていて、軽やかで、頼りになるあの人はとても強い人で……そして、とても繊細な人なのだと。
上埜さんは私のことを気配り上手だとか、よく皆のことを見てるわね、なんて言ってくれるのだけど、本当にそうなのは私よりあの人の方で。
部長という立場は上埜さんにとてもよく似合うと思う。
……そんなあの人に、私の心も見透かしてほしいと思う私は酷くずるい人間かもしれない。
貴女にとってはきっといつもと変わらない普通の日。
だけど、私にとっては特別な日。
気がついたあの人は今の私みたいに少しは意識してくれるかしら、それともやっぱりいつも通りなのかしら。
不安と、ほんの少しの期待。




「どうしてなのかしら……」




眠っていたはずのそれは、再開を経て前よりもはっきりと色がついた。
興味や憧れは違う名前になってしまったのだと、そう気付くのに大した時間はかからなくて。
知ってほしい。
まだ知らないでほしい。
後者の方が大きいのは、きっとあの人の傍にいられる今の立ち位置を失うのが怖いから。
それでも前者を望んでしまうのは、きっと私が欲張りだから。




「だから今は……」




せめて、あの人に少しでも喜んでもらえるように。
好みも嫌いな物も分からないまま、想いだけは込めて作りましょう。


...Fin


あとがき(言い訳)

3/9SHT内りんしゃんかいほー8の新刊二冊目「君色ラプソディー」より抜粋☆
元々部長のだけがHPに存在してたんですが、ふと続きを書きたいなーと思ったら、
新刊のほぼ半数をこの続きが浸食しておりました(笑)
いちゃいちゃもいいけど、付き合う前の初々しさもいいですよね!(力説)w
全国編がきて部長かっこかわいいよー!と叫ぶ今日この頃ですw
こちらも会場持ちこみ&虎の穴で通販してますのでよろしくですよー♪
明日のスペースは「咲29」になりますん☆

2014/3/8著


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