特別な普通の日(久)














「……むぅ」
 
 
 
 
クローゼットを全開にした体勢のまま、私は唸った。
時間は既に深夜と言って差し支えないような時刻。
明日の外出を控えているのに、眠るどころか一向にその状況から進歩が無い。
 
 
 
 
「……なんでこんなに悩んでるのかしら、私……」
 
 
 
 
そしてその理由となった記憶を反芻して、溜息をついた。
失言……では別になかったが、失態というか計算外のことにいつもなら頼れる頭脳がついてこない。
きっかけは、ただの気まぐれ。
 
 
 
 
『ねぇ、じゃあ今度私とデートしてみない?』
 
 
 
 
同級生らと遊びに出たりしたことがない、そう言った彼女に対して私が口にした言葉。
軽い気持ちで提案したはずだった。
慌てるようなら冗談よ、ってからかって、どこか行きたいと言うのなら、適当にぶらぶらしたって別にいい。
その程度の小さな気持ち。
 
 
 
 
『……はいっ……!』
 
 
 
 
……そう、本当にその程度だったはずなのに。
一拍間が空いた後に聞こえた弾んだ声。
はっとして振り向いた私の目に映ったのは彼女の笑顔。
 
 
 
 
「……そんなに特別なことじゃないでしょうに……」
 
 
 
 
彼女があんなに綺麗な笑顔で幸せそうに笑うから、その程度、なんてちっぽけな気持ちでは全然釣り合わなくなってしまった。
大誤算もいいとこだ。
……いや、違う、分かってる。
彼女にとっては特別なことだった、ただそれだけのこと。
 
 
 
 
「今頃向こうはどうしてるのかしらね……」
 
 
 
 
明日のことを考えて眠れない夜を過ごしているだろうか。
それとも私のように、着る物一つ決まらない――まるで初恋の時のような浮ついた気持ちでいるのだろうか。
もしくは……平然と既に眠りについているかもしれない。
それは悔しいから、出来れば前者のどちらかであってほしいとは思うのだけど。
 
 
 
 
「らしくないわね……」
 
 
 
 
……それもまたよし、か。
 
 
 
 
「とりあえず棚上げして寝ましょうか」
 
 
 
 
困った時の出たとこ勝負。
こんなところまで悪待ちなのはいかがなものかとは思うけど、必勝法なのだから仕方ない。
そんな言い訳をきっちりしてから床に就く。
きっと悪い目はでないだろうと、どこまでも楽天的な自分にも呆れつつ。
 
 
 
 
「お休みなさい、いい夢を」
 
 
 
 
明日は楽しい一日になるに違いないから。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

気が付いたら半年ぶりの部キャプSSです。
てか、
美穂子さん、ドコーwwwww
キャプテンを出し損ねましたwww
しかもなんか前編後編っぽい感じなので前編とつけましたが、続きが仕上がるかは例によって未定です、あっはっは。
とりあえず某部キャプの人の新刊がやばすぎて部キャプ熱が沸騰したので書いてみました。
でも言葉を重ねすぎると雰囲気を壊してしまいかねない感がある二人。
相変わらずイメージはあるのに書くのが難しくて大変ですwww

2011/2/21


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