心ここに在らず。
そんな状態だったのだと思う。




「絵里ちゃん、はいお水」
「ありがとう」




じりじりと屋上を照り付ける炎天下の中で行われるいつもの練習。
その休憩時間、穂乃果が水を配って回るのをぼんやりと眺めていた。
ゆらゆらと揺れる視界は熱気が生む陽炎のせいだろうか。
それでも視界の端で光る金色に目を奪われる。

――あぁ、綺麗だな。

漠然と、けれどそれだけに私の意識は占められた。




「海未……?」




私を呼ぶ声がする。
揺れる金色。
引かれるように手を伸ばす。




「え、え……?」




指先が触れる。
するりとした感触で金糸が私の手の中から零れていく。
一度、二度、三度……。
繰り返す度に惹かれていく。
四度目にはそれだけでは物足りなくて、逃げる金糸を追いかけるように顔を寄せた。




「う、ううう海未!? ちょ、何、何なの!?」




すぐ近くでうろたえた声がする。
何かあったのだろうか。
分からない。
霞む意識の片隅で思うが漣にもならない些細なことだ。
触れる。
梳く。
飽きもせず繰り返す。
指先に金色を捉えたまま、首筋に顔を埋めればその香りが胸を満たした。
求めて止まない、何か。
それが何だったか、思い出せない。




「海未ってば!!」




響く、声。
……あぁそうだ、思い出した。
顔を上げる。
形のいい耳に唇を寄せる。




「……絵里」
「っ……!?」




名前を、呼んだ。
びくりっと金色が私の下で跳ねて。
湧き上がる愛しさにもう一度名前を呼んで顔を埋めた。

……そこで意識がふつりと途切れた。




「って、海未ちゃーん!?」
「水、誰か水ぅー!?」
「それより日陰、か保健室に運ぶわよ!!」
「う、海未ちゃんめっちゃ熱いにゃー!?」
「だから熱射病だってば!」
「ほ、保健の先生に話してきます〜っ!?」
「海未ちゃんしっかりーっ!?」
「いいから早く背中に乗せて!!」




わーわーきゃーきゃー。
ドタバタと下級生達が屋上からいなくなると、上級生達だけが屋上に残された。

沈黙。

立ち尽くす希とにこの間でうずくまり膝を抱える絵里。
希とにこの間で交わされる視線と言う名の無言のやり取り。
折れたのはやはり親友の方だった。
微動だにしない絵里のその背中に希がとりあえず声をかける。




「えりち、おーい、生きとるえりちー?」

「……死にそう」

「「……」」




端的な返答にまぁそやろな(でしょうね)、と二人の三年生は顔を見合わせた。
無意識って恐ろしい。




――なんでこいつら付き合ってないの。
知らんわそんなん――




意識らしい意識があったのか無かったのか。
そもそも海未がこのことを覚えているのかも分からない。




――どーするのよ、これ。
まぁ、なるようになるんちゃう?――




暑さとは全く違った熱で、耳まで赤くなった絵里がその日再起動を果たすことは遂に無かった。


...Fin


あとがき(言い訳)

はまらないだろうなーと思っていたら想像と180度違う燃えアニメでクリティカルをくらったキッドです、ごきげんよう。
萌えアニメだろうと見ないでいた一年前の自分を軽くぶっ飛ばしたい今日この頃。
それでもまだアニメと漫画しか見てないし、せめてブームが去ってからひっそりと書こう、と思っていたんですが、
イベント帰りの電車があまりにも眠くて眠くてとにかく眠くて、うとうとしてたら視界の向こうになんか見えたので、
ハシッと尻尾を掴んでみたら書き上がってました……眠い時のテンションて恐ろしい。
よし、寝ようおやすみなさい……zzZZ

2014/3/3著


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