ほのぼの、初(?)デート!〜祐巳ちゃんをさらえ!!(ぇ)〜 2月28日(土)晴天
バレンタインイベントの副賞である半日デートから、1週間が経とうとする土曜日、 今日は快晴と呼べるほど素晴らしい青空が広がっている。 雲ひとつ無いとは正にこの事であろう。
今日の授業は午前中だけ、とはいえ一般は今日もきちんと登校、 3年生は受験の残っている人間を除いて完全に隠居状態だ。 紅薔薇さまこと水野蓉子さまも、受験が終わり完全に楽隠居状態の一人、といえるだろう。
さて、その蓉子さま。今日は私服姿でリリアンの校門前にたたずんでおります。
・・・・なんでかって?
そんなの人待ちに決まってるじゃありませんか。
・・・・誰を?
言うまでも無いでしょう、ツインテールな子狸だなんて他にいませんから。
マリア様が見守る学園は、素晴らしい天気のもと今日も平和です。 でもちょっと待って、今日は学園が舞台じゃないんです。 なぜならば、蓉子さまが祐巳ちゃんとのデート(まともな)、を実現させようとしているからです!
しかし、それならば日曜日に丸一日遊ぶ方がいいのでは? と思った皆さん、そんな危険な事ができますか? だってそうでしょう?事前にデート日の打ち合わせなんかしたら、 『必殺!百面相!』な祐巳ちゃんによって、そのデートの全容は、山百合会のメンバー全員に知れ渡る事でしょう。(前科数犯) そうなったらきっと、祥子さま・聖さま・江利子さまを筆頭に、 なんだかんだ言って他のメンバーも邪魔をしにくるに決まっています。
(・・・・冗談じゃないわ)
ふとその時の事を想像してしまい(または思い出して)、思わず身震いをする蓉子さま。 心の中の呟きはそのまま独り言に発展します。
「そうよ、なんと言っても祐巳ちゃんとの(何回目かの)初デート。(今日こそ)邪魔されてたまるもんですか・・・!」
付き合い始めて早数ヶ月、なのにこの二人、未だにデートらしいデートをしていなかったのだ。 いや、ちょこちょこと会ってはいたんですよ、 蓉子さまのお家にも祐巳ちゃんは行った事あるし、蓉子さまのお母様とも面識ありますし。 (チョコレートは誰が為に、のα版とβ版を参照してください)
がしかし、蓉子さまはついこの間まで受験生、お互い必然的に会うのは自粛するので、 普通にデートと呼べそうな事はいままで無かったのです。
・・・・というかもっと正確に言えば、忙しい合間をぬって時間を作り、いざ!『初デート』へ! ・・・・と気合を入れても結局いつもオマケ(邪魔者)付き。 だからデートや二人っきりの時間は、あっという間に山百合会の親睦会に早変わり。 その為、ひたすら『初デート』はおあずけをされていた、というわけなんです。
「お月見、クリスマス、お正月等の行事だけに限らず、テニス、釣り、 スキーにスケート、映画に動物園に遊園地、etc、その全てに邪魔が入るなんて・・・」
あげくの果てに『デート』に関しては、聖さまと祥子さまに先を越される始末。 (お泊りまでしちゃったし) 受験から開放されて自由の身となった蓉子さま。 祐巳ちゃんの恋人として、これ以上他のメンバーに遅れをとるわけにはいきません。 そしてついに今日、蓉子さまは強硬手段にでようとしているのです! 「とにかく!今日こそ祐巳ちゃんと『デート』してみせるわ!!」
・・・・というかついにキレちゃっただけかもしれないけど。
一方その頃、ターゲットである祐巳ちゃんはというと、今日はお茶会がないので帰り支度をすませ、 志摩子さんと由乃さんと銀杏並木をてくてくと歩いているのでした。
「はぁ〜いい天気だなぁ〜、もう少し暖かければ芝生の上でお昼寝したいくらい」 「まぁ、祐巳さんったら」 「風邪引くわよ」 「ん〜でも春になればきっと大丈夫だよ。こんな日に転がったら絶対気持ちいいって」
祐巳ちゃんの言葉に、志摩子さんが微笑み由乃さんが突っ込みを入れる。 いつも間にかそんな公式が出来上がっている。
(ただそれだけなんだけど、何となく嬉しかったり)
祐巳ちゃんはそう心の中で呟き、締まりのない顔でマリア様にお祈りします。
「祐巳さん、顔緩んでる」 「あぅ」 「ふふふふ」
そんなやり取りを繰り返しながら校門に向かって歩く。 それが三人の当たり前、そして当たり前って素晴らしい、って思える光景だったりする。
「・・・・あれ?ねぇあそこにいるのって紅薔薇さまじゃない?」 「・・・・へ?」 「まぁほんと、何をしていらっしゃるのかしら?」
校門前で(決意を固めて)たたずんでいる蓉子さまに気がついた由乃さん。 祐巳ちゃんはいつも通りの反応をしながらも、蓉子さまを確認すると駆け出しました。
「蓉子さま!」 「あら、祐巳ちゃん、ごきげんよう」 「ごきげよう、蓉子さま。こんなところでどうされたんですか?」 「祐巳ちゃんを待ってたのよ。今日この後暇かしら?暇なら私と出掛けない?」 「えっ?ええ、まぁ暇といえば暇ですが。でもそれなら事前に連絡してくだされば・・・」
わざわざこんなところで待ってなくても、というように首をかしげながら言うと・・・
「イヤよ」 「・・・・は?」 「そんな事したら、また邪魔が入るに決まってるじゃない」 「・・・・あぁ」
蓉子さまの即答に納得したように頷く祐巳ちゃん。 確かに、大抵誰かがついてくる。蓉子さまはそれが非常にご不満らしい。 皆でワイワイ騒ぐのも楽しいからいいかな〜、とか祐巳ちゃんは思ってたりするんだけど。 まぁ確かに、二人っきりって少ないよね〜、と納得する祐巳ちゃん。 その祐巳ちゃんにむかって蓉子さまが言った。
「と、いうわけだから。さぁ行きましょう、祐巳ちゃん」 「ひょっとして・・・今すぐですか?」 「そうよ」 「うっ、でも一回帰って着替えてからの方が・・・・」 「ダメよ、そんな事してる間に、聖や祥子に嗅ぎ付けられるかもしれないじゃない」 「でも・・・・」 「問答無用!」
できれば着替えてから出掛けたい祐巳ちゃん。 そんな祐巳ちゃんの目の前に、蓉子さまはあるものをチラつかせます。 もうお気づきの方もいらっしゃるでしょう、そのあるものとは・・・・!!
「うぅっ!!そ、それはっ!!」 「ふふふふ、これの存在を忘れたとは言わせないわよ、祐巳ちゃん」 「で、でも、無茶な使い方はしないって・・・・」 「ちっとも無茶じゃないわよ、だって時間はあるんでしょ?」 「そうですけど、着替える時間ぐらいくれてもいいじゃないですか。 それになにより・・・連れ去る気満々って感じでバイクに手をついてないでください!」 そう、今日の蓉子はバスを使って、ここまで来たわけではなかった。 蓉子さまが手をつき、もたれかかるようにしているのは、赤いバイク。 そして蓉子さまは、バイクに乗るためスカートではなくパンツスタイルだったりします。 珍しさも伴ない気をつけないと、ついつい見惚れてしまいそうな麗しさ。 ・・・いや、既に周りに紅薔薇さまの麗しさに惹かれて、歩みを止めた者達がいるのだが。
「よくわかってるじゃない、祐巳ちゃん」
と、満足そうに微笑む蓉子さま。
(そりゃあ・・・・・恋人ですから)
口に出すにはまだちょっと恥ずかしい(場所もまずい)ので、祐巳ちゃんは心の中で返答。
「(満面の笑み)」 「(真っ赤)」
・・・・・ばっちり伝わっているらしい。恐るべし百面相。
「とまぁお喋りはここまで、行くわよ祐巳ちゃん」 「ああもう、わかりました。行きますよ、行きますからそれを目の前で振らないでください」 「よろしい、それじゃあ後ろに乗って」 「はい。・・・あの、蓉子さま、できれば途中家に寄ってほしいなぁ〜・・・なんて?」 「却下」 「(泣)」
こうして祐巳ちゃんは、今日は聖さま達ではなく、蓉子さまに連れ去られたのでした。
「・・・・志摩子さん、今の見た?」 「ええ、この目でしかと」 「蓉子さまいつの間にあんな物を・・・・」 「ええ・・・・なんて羨ましい・・・・」 「これは皆に知らせないとね・・・・」
さっきまでかな〜り、存在を忘れられていた由乃さんと志摩子さん、 しっかりと蓉子さまが使った切り札を確認していたのでした。 それにはこう書かれていたのです。
そう、蓉子さまが使った切り札とは、 バレンタインに祐巳ちゃんが贈った、『貸切券』だったのです。 (記述漏れにより使用期限・回数、共に無制限の(笑)) 後にこのカードが一波乱巻き起こすのだが・・・・それはまだ先のお話。
....To be continued
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