「でね〜、令ちゃんったらね〜」
「あははは〜」
珍しく会議の無い放課後。
志摩子さんは委員会だし、お姉さまは職員室に用事があるとかで、今日は由乃さんと二人で帰るところだ。
特に何も無くすごした一日で、とりあえずこのまま何も無く帰るんだと思ってた。
張り出した枝に指を引っ掛けてしまわなければ……
「そうそう、さっきお姉さまが……いたっ!」
「祐巳さん?」
「つぅ〜……うぅ、引っ掛けちゃった……」
よそ見しながら道の端っこを歩いていたせいか、少しだけ張り出していた枝に指先を引っ掛けてしまった。
紙や刃物のようにするどくはないとはいえ、当たったら結構痛い。
しかもちょっと尖っていたので、指先からは血が滲み始めていた。
「大丈夫? 血がでちゃってるじゃない」
「うん…………」
「よし、わかった、こういう時は舐めておけば治るわよ!」
「へっ……?」
いやいや、確かにそうだけど、何がわかったの由乃さん。
そしてなんでガシっと私の手をつかんでるのかな?
そんないただきます的に口を空けてって…………えぇぇぇぇっ!?
「あー……ふぐぉっ!!」
「よ、由乃さんっ!?」
今にも私の指を口にふくもうとしていた由乃さん。
その側頭部に何かが飛んできて、直撃した。
「よ、由乃さん、大丈夫!? ……って、これ、聖書?」
「間に合ってよかったわ、祐巳さん」
「志摩子さん!? え、じゃあこれ投げたのって……」
「何のことかしら祐巳さん、全てはマリア様のお導きよ?」
由乃さんに直撃した聖書は、どうやら志摩子さんが投げたものらしい。
って、マリア様のお導きって……やだなぁ、聖書投げつけるマリア様なんて…………
「まぁ、祐巳さん指を怪我したの?」
「へ? あ、うん、まぁ……」
「それはいけないわ、すぐに消毒しないと……」
「ちょぉーっとまったぁーっ!!!!」
「祐巳に触れていいのは私だけよぉー!!!!」
「えぇぇぇぇっ!?」
私の怪我以前に、倒れてる由乃さんはどうでもいいの志摩子さん?
なんて思いつつも、志摩子さんが私の手をとるのをボーっと見てたら、聞き覚えのある声が二つ。
確かめるまでも無い、聖さまとお姉さまだ……
って、私がちょっと指先を怪我しただけなのに、なんで皆こんなに集まってくるの!?
「それはね祐巳ちゃん、皆君を愛しているからだよ〜♪」
「どさくさにまぎれて祐巳に触らないでください、聖さま」
「そうですお姉さま、祐巳さんが穢れます」
「ちょ、どういう扱いよ私!?」
「そういう扱いです」
そして気がつけば、私そっちのけで話が進んでる。
うぅぅ、当事者は私のはずなのに……
それに多分この人たちが集まるってことは……
「……蔦子さん」
「……………………いやー、隠れてたわけじゃないんだよ? ただ出損ねちゃっただけで〜」
「…………はぁ」
そしてやっぱりいました蔦子さん。
ほんと、どうやって嗅ぎ付けてくるんだろう。
蔦子さんの嗅覚恐るべし。
「まぁまぁ、私にお構いなく、あ、なんだったら決定的瞬間を撮らせてもらえれば……」
「あ、それだったら私と祐巳ちゃんで……」
「何を言ってるんですか聖さま! 祐巳と撮るのは私です!」
「いいえ、お二人とも間違ってますわ、祐巳さんと撮るのは私です!」
「あー……」
さらにそんな感じで蔦子さんがさらりと余計なことを言ってしまったので、今度は誰が一緒に撮るか、で案の定もめ始めてしまった。
「祐巳ちゃん、誰と撮るの!」
「私よね祐巳さん!」
「祐巳、もちろん私よね!!」
「えーっと……」
そして今度は誰と撮るのか、私に詰め寄ってくる始末。
いや、誰とって、ねぇ?
私の怪我を心配して皆集まってくれたんじゃなかったっけ?
「祐巳ちゃん!」
「祐巳さん!」
「祐巳!!」
「あー………………じゃ、そういうことで、ごきげんよう」
「「「えっ?」」」
選べって言われても、選んでなんかいられない。というか、誰選んでも修羅場が待ってそうだし……
身の危険をかなーり感じた私は、挨拶だけ済ませると、皆が唖然としているうちに脱兎のごとく逃げだしたのであった……
◇
「……で、薔薇の館に逃げ込んできたと…………」
「はい…………」
「祥子たちもまた、しょうがないわねぇ…………」
脱兎のごとく逃げ出したその先、あろうことか正門と反対方向に逃げてしまったドジな私。
我ながらさすがだなぁと思うけれど、捕まればどうなるかわからない。
とりあえず身を隠そうと薔薇の館に駆け込むと、そこには我らが最強の紅薔薇様、蓉子さまがいらっしゃったのだった。
「でも蓉子さまがいてくださって助かりました……」
「まぁ聖たちは追い払っておいたから、今日はもう来ないでしょう」
「はい、ありがとうございます……」
そうなのだ、逃げ込んだ先が薔薇の館だなんて、山百合会のメンバーにしてみれば、難なく踏み込める場所なわけで……
あたりをつけた聖さまたちがやってきたのだが、蓉子さまが私はいないと対応してくれたので、
こうして蓉子さまとのんびりお茶を飲んでいることができる、というわけなのだ。
「で、祐巳ちゃんが怪我したっていうのは?」
「あ、これです」
「ふむ…………」
「もともと大したことありませんし、なんかもうどうでも……おぉぉぉぉぉっ!?」
しげしげと私の指先を眺めていた蓉子さま。
そして何を思ったのか突然私の指をパクリと咥えた。
「はい、これでいいわよ祐巳ちゃん。帰ったらちゃんと消毒して絆創膏張っておくのよ?」
「は、はひ、わ、わふぁりまひたぁ〜……」
「祐巳ちゃん? 大丈夫?」
「ふぇ、ふぇいきれふ〜……」
「そう? じゃあそろそろ帰りましょうか」
さっと傷口だけ舐めると、鞄を持って立ち上がる蓉子さま。
対する私はあまりの出来事に頭も呂律もまわらない。
えぇぇぇぇ、なんですか、今の?
「祐巳ちゃん、本当に大丈夫? ちゃんと消毒するのよ?」
「あぅ、が、がんばります!!」
私の様子に心配そうな蓉子さま。
その蓉子さまに敬礼しながら答えたものの、あぁもうこの指洗えない、とか内心考えていたんだったり。
……そして後日、その指がしっかり化膿してしまったのは言うまでも無い。
...Fin
あとがき(言い訳)あれ、なんか予定より長いんですけど(^^;)
もっと短いはずだったんだけどなぁ……なんだろう、このシリーズ、予定外が起こりすぎ(笑)
えー、そんなわけで、消毒ですよシリーズパート2、美味しいところは我らが蓉子さまに進呈です♪
いや、だっ、うち蓉祐サイトだもん!(笑)
にしても、人数出すと、ちょっとのネタでも予想以上に長くなりますね、ほんと(^^;)
さてさて、15日はサンクリなんで、多分土日の更新は日記くらいだと思います。
うん、今一生懸命コピー本の製本中(笑)
いらっしゃる方はふらーっと遊びに来てくださいな〜♪
2008/6/13著
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