スクランブルデート!(乃梨子と志摩子) 「乃梨子」 「んー?なに、菫子さん」 「貰い物なんだけど、これいるかい?」 「なになに・・・動物園の割引チケット?」 「ああ、私はいらないし、あんたにあげるよ」 「ん、ありがとう」 「まぁあんたの事だから志摩子ちゃんを誘うんだろ?」 そう言ってニヤリと笑う。確かにその通りだけど、なんかムカツク。 「いいでしょー、別に。ほっといてよ」 「はいはい、まぁ愛しのお姉さまと楽しんでくるんだね」 まだ言うか。しかも笑い方がどっかの誰かに似ていて更にムカツク。 「ほっといてってば、もぉー」 ・・・なんてことがあった翌日、私はさっそく行動に移した。 「志摩子さん、動物園行かない?」 「動物園?いいけれど・・・・急にどうしたの?」 「いや、菫子さんが割引チケットくれたからさ、どうかなと思って」 「そう、じゃあ今度のお休みにでも行きましょうか」 「うん♪」 やった、志摩子さんとデートだ♪ 「・・・・・二人とも、今はまだ仕事中よ」 ・・・・なんて浮かれててすっかり忘れてたんだけど、 ここは薔薇の館の二階で、さらに言えばまだちょこっと仕事が残っているのだった。
ごめんなさい祥子さま、待ちきれなかったんです。 「その・・・すみません・・・・・」 「まぁまぁ、たまにはいいじゃない祥子。今日はこの辺で切り上げようよ」 「・・・・そうね、もうそれほど仕事も残ってないし」 結局、祥子さまのその一言でその日はお開きになった。 話を再開できてうれしいけど、若干の残務がでてしまった。ちょっと反省。 「乃梨子ちゃん」 「あ、はい。なんでしょう祐巳さま」 「動物園ってどこに行くの?」 「××動物園ですけど・・・・・」 「そっか、私も日曜日そこに行くんだ♪」 「そうなんですか?」 「うん♪」 「まぁ、じゃあ祐巳さんと園内で会えるかもしれないわね」 「そうだね♪あ、でも二人の邪魔はしないから安心してね?」 「ゆ、祐巳さま!?」 「もぅ、祐巳さんったら・・・・・」 「えへへ・・・・」 「祐巳、帰るわよ」 「あ、はーい。それじゃあ二人ともまた明日、ごきげんよう」 「ごきげんよう祐巳さん」 「ごきげんよう祐巳さま」 私達から離れた祐巳さまは、跳ねるようにして祥子さまの元へ行く。 喜びを全身で表現している。 なんとも小動物的なのが祐巳さまらしかった。 「うふふ、祐巳さんったら。よっぽど楽しみなのね」 「そうですね・・・・」 「私達も帰りましょうか」 「うん、志摩子さん♪」 そうしてその日は、志摩子さんと当日の予定をたてながら、手を繋いで帰った。 だからその時、幸せ一杯!な状態だった私は気がつかなかったのだ。 茂みから私達の様子を伺っていた白い悪魔に・・・・・ そして待ちに待った日曜日。 私は一心不乱に走っていた。 神様仏様マリア様、哀れな子羊にどうかお慈悲を! ・・・・・いや、まぁ、ただ単に寝坊しただけなんだけどさ。 「うあぁぁー!!なんでこんな時に限って更新されてるのよぉーー!?」 そう、昨日の夜久しぶりに更新されていた『世界は仏像の為にある!第30話』を、 結局1話目から通しで読んでしまったのだ。 大作を読み終え、一仕事やりとげた感を胸に私はベッドに潜り込んだ。 よりにもよって目覚ましをかけずに。 それでも全力疾走のかいあって、なんとか5分程度の遅刻ですんだのだか・・・・ 「なに、これ・・・・?」 死屍累々、そんな形容詞がぴったり当てはまりそうなありさまだ。 「あ、乃梨子!」 「志摩子さん!」 そして屍達の中心に志摩子さんを見つけ、一目散に駆け寄る。 訳の分からない状況に置かれ不安だったのだろう、志摩子さんの瞳にはうっすらと涙がにじんでいた。 「ごめん志摩子さん!私が遅れたばっかりに!」 たまらず志摩子さんを抱き締める。 「の、乃梨子・・・・私は大丈夫だから」 「うん・・・・・」 いや、泣きそうな顔で言われても説得力ないですってば。 でも、とりあえずここから離れた方がいいか。 「じゃあ志摩子さん、とりあえず移動を・・・・ムッ!?」 殺気!? 志摩子さん目当てのハイエナの気配を感じ、咄嗟に臨戦態勢に入る。 来るなら来い!志摩子さんには指一本触れさせない!! トスッ・・・・・バタッ!! ・・・・あれ? 気合い虚しく、ハイエナはあっと言う間に屍と化した。 つーかさぁ・・・・ 「いったいどうなってるのよ・・・・・」 ・ ・ ・ ・ ・ ・
「乃梨子、大丈夫・・・・?」 「うん・・・・ごめんね、志摩子さん」 さて・・・・ハイエナの屍を越え、とりあえず動物園までやってきた私たち。 序盤はさんざんだったし、ここから仕切り直し!の、はずだったんだけど・・・・・ 「私は平気だから、ゆっくり休んでから行きましょう?」 「はい・・・・」 先ほどの緊張と寝不足のせいか、行きの電車で思いっきり酔ってしまったのだ。 情けない・・・・・ 「ほんとにごめん志摩子さん。遅刻したうえにこんな状態で・・・・」 「もう・・・乃梨子は気にしすぎよ。それよりほら、早く横になって」 うん、そうだね・・・って、ちょっと待って。 どうしてぽんぽんと腿を叩くの志摩子さん。 それはいわゆるアレですか、アレなんですか?膝枕ってやつなんですか!? 「乃梨子?」 カムヒヤァ膝枕に固まった私を見て、嫌なのかしら・・・とでも言うかのように志摩子さんが目を伏せる。 いや、そんな、滅相もない。 私は慌ててぶんぶんと首を振り、そのままコテンと横になった。 あああぁぁ、やーわーらーかーいーーー!! 神様仏様マリア様!・・・とりあえずいろんな物にありがとうーーー!! と、心の中で叫んだのは最初のうちだけ。 いや、これ自体はとてつもなく幸せなことには違いないんだけどね・・・・ ただ一つだけ、時間の経過とともに問題がでてきたのだ。 「あの・・・志摩子さん」 「なあに?」 「その、もう大丈夫だから、そろそろ中に入らない?」 「そうね・・・・でも、もう少しだけいいかしら?」 「あぅ・・・・」 ・・・・それは志摩子さんが膝枕を好きだった、ということ。 天国だけど、天国なんだけれども、だんだん生殺しの様相を呈してきているんです、志摩子さん。 襲えって言うんですか。 襲っていいって言うことなんですか、ねぇちょっと!?
なんて、頭の下のやわらか〜い感触に理性を破壊されつつも、耐え続けた私って偉いと思った。 ・ ・ ・ ・ ・
そんなこんなで、名残惜しそうな志摩子さんをなんとか宥めて園内に入ったのは、 家を出てからゆうに2時間は経過した後だった。 え、膝枕をしてた時間?・・・・・・秘密。 「ねぇ乃梨子、あれ、仏像に似てないかしら?」 そう言って志摩子さんが指差したのは一羽のフクロウ。 確かに目を閉じて佇んでいる姿は似ているかもしれない。 なにより自然の造形美が素晴らしい。あのなだらかな曲線が・・・うーん、美しい♪ ・・・・ちょっと丸すぎるけど。 ガシャーン!! 「うわっ!?」 うっとりしていたら、何かが金網に激突する音が聞こえた。 不埒なことを考えた罰かとも思ったのだけれど・・・・どうやら反対側の金網らしい。 なぜかは分からないけど、私達の前にいるのとは別のフクロウが、金網に強烈なアタックをかましている。 な、なにがあったんだろう・・・・・ 「乃梨子、次は向こうにいってみましょう?」 「う、うん・・・・」 気にはなるけど志摩子さんにそう言われては仕方ない。 いまだ強烈なアタックをかまし続ける後ろを気にしつつも、志摩子さんに手を 引かれ歩きだした。 その後も園内を見て回って、なぜか不思議な現象にもちょくちょく遭遇したのだけれど、 そろそろお昼にしようか、という話になった。 「この辺でいいかしら?」 「うん、ここなら暖かそうだし」 手近なベンチに腰をおろし、二人で少し遅めの昼食をとる。 これがまた美味しい! なにせ志摩子さんの手料理なんだから。 ふっふっふっふ、羨ましいだろう諸君。 「乃梨子?」 「え、あ、いや、志摩子さんの手料理をいつも食べられたら幸せだな〜って」 ニヤニヤしながらご飯を食べる私を、不思議そうに眺める志摩子さんに、つい本音がもれてしまった。 こここ、これじゃあまるで、ぷ、ぷろぽーず、じゃないのか私ーっ!? でもそんな私をよそに志摩子さんったら、
「まぁ乃梨子ったら・・・・私でよければ毎日でも作ってあげるわ」 なんて言ってくれた。 それって詰まるところ、プロポーズおっけーってことなんですかぁー・・・!? 巨大な爆弾を投下したことにも気づかず、のほほんと笑う志摩子さんの横で、 嬉しい悲鳴をあげつつも、私は頭を抱えたのだった。 ・ ・ ・ ・ ・
後日、志摩子さんは本当に私の分のお弁当も作ってきてくれた。 狂喜乱舞したくなるのをぐっとこらえて食していると、ぐったりとした表情の祐巳さまが入ってきた。
その目はただ一言「なにも聞いてくれるな」と語っていた。 昨日何があったんだろう・・・・・? 私が白い悪魔から真相を聞かされる少し前のことだった・・・・・。 Fin
あとがき(言い訳) 皆様ごきげんよ〜♪久々の更新でっすイェイッ♪(壊) うん、ごめん、最初から壊れてて。 いや〜、仕事を辞めてから早2ヶ月が過ぎたわけなんですが・・・・・・まだまだ本調子じゃないです(汗) 見通しが甘かったです・・・・。まぁそれでも最近は、SS書く気力が戻りつつあるんで、上り調子ではあります。 そんな感じで、ぐーたら生活まっしぐら!ではありますが、頑張って更新していきたいと思います♪ さてさて、今回のSSは現白薔薇姉妹が主役です♪いや、好きなんですよ、現白白。 一応のり×しま・・・・かな?うちの志摩子さんは誘い受け系だと思われるので(マテ) 花見のオフ会の時に、のり×しまのリクエストを受けたんで、書いてみました。いかがでしたでしょうか? キッドは黒オーラを背負ってない志摩子さんが書けてちょっと新鮮でした(をぃ) あと、本作品についてですが、もう1本のSSと対になってます。 って、まぁどう見てもそうだよね(笑) そんな訳で、もう1本の方も見てってくださいね〜♪ 2007/6/1著
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