笑っとってくれ






 
 
 
 
雪だ。
セーラがそう気がついた時、真っ先に思ったのは保健室で横になっているはずの親友は雪に気がついているだろうかということだった。
暖房の効いている保健室内にいれば寒いということもないだろうし、積っていく雪を見れば怜もきっと喜ぶと思う。
いやいやそれともずっと黙っていて、積ってから教えたほうが驚くかもしれない。
その方がいいだろうか、と首をかしげたセーラを見て同じ教室にいた竜華は怪訝な顔をしていたが、とりあえず笑ってごまかしておいた。
雪が降って一番わくわくしているのは自分だとセーラは自覚していたが、なんだかんだいって怜も嫌ではないだろうと確信していた。
寒い、とか、動きとうない、とか言いつつも、怜が雪遊びを嫌いでないことをセーラは知っていた。
ゆえに放課後になると同時、竜華よりも早く保健室に突撃したセーラがベッドから立ち上がっていた怜を引っ張って、部室に荷物を置かせると即校庭へ飛び出していったこともある意味では当然の結果といえた。
案の定コートは慌てて追いかけてきた竜華が怜に着せていたし問題はないだろう。
ただそこからの流れはセーラも失敗だったと認めざるを得ない。
なんとはなしに丸めて放った雪玉が、怜にコートを着せ終わり身体ごと振り向いた竜華の顔面にクリーンヒットしてしまったのだ。
セーラとしては竜華の横を抜けて着地するはずだったのだが、竜華が急に動いたためこれは仕方のない出来事だった……とセーラは思ったのだけれど、竜華にその言い訳が通じるはずもない。
あっという間に竜華との間に雪合戦が始まり、そこに泉が合流してからはなぜか三年生VS泉の構図になり、全力で校庭を駆け回っていた。
それはそれで楽しいに違いはないが、本当なら自分で走り回るのは難しい怜を背負ってやろうと思っていたのに、当初の目的をすっかり忘れていた。
我ながらこれはあかんで俺、と気がついたのは竜華が作った雪玉を泉に向けて十六連射した後だった。




「わっ、たっ、とぅっ」
「器用やな泉……竜華ぁー、玉切れたでー?」
「ちょぉ、少しは自分で作ったらどうなんセーラ!」
「ええやん、竜華のが早いし」
「私かて普通に雪合戦したいわっ!」




とか言いつつもせっせと追加の雪玉を作る竜華は相変わらずチョロかった。
こんなに人がよくてこいつの将来は大丈夫だろうかとセーラは思わないでもなかったが、まぁベクトルの大半は怜だから大丈夫だろうと自己完結した。
考えても不毛なことというのは存在するものだ。




「なぁ、そう思うやろ怜?」
「……何が?」
「竜華がチョロい」
「……竜華やもん」
「むくれんなって」




カラカラと笑いながらセーラは少しばだけ膨らんだ怜の頬を突っついた。
怜もチョロいから竜華とセットでちょうどええな、と。




「ちょぉ、竜華と一緒にせんとって?」
「似たもの同士ってことでえーやんか?」




竜華に負けず劣らず地味に怜も竜華のことが好きだとか。




「同棲始めるてほんまですか?」
「船Q……」
「マジで!? えーなー、俺も混ぜてや〜?」
「それはもう同棲ちゃいますわ……」
「ただのシェアメイトやん……」




そういえば竜華がせっせと賃貸雑誌と睨めっこしていたな、と今さらのように思い出す。
竜華にしては随分と頑張ったものだ。




「一人暮らしの条件が見てくれる人が傍におることやったやもん……」
「一人暮らしやないやんか、それ」
「自立は大事やで、セーラ。自炊とか自炊とか自炊とか」
「お、俺は実家暮らしやからええんや!!」
「仕込みますから安心しとってください」
「任せたで船Q」
「おぃぃぃぃっ!?」




さらっと言う浩子に、仕込むてなんや! とか、俺かて自分の飯くらい炊けるわ! とか叫ぶセーラ。
炊けるのはいいが、米以外はどうするつもりだと怜と浩子は胸中でため息をついた。
コンビニの総菜が重宝されるに違いない。




「うううううるさいわっ! 食べれるんやったらなんでもええやんか!?」




人はそれを開き直りという。




「……ていうか竜華はいつまで雪玉作っとるんや!」
「はぁっ!? セーラが作れて言うからやん!」




あげくまったく関係のないところに矛先を持っていくといういささか卑怯手段に出たセーラ。
どうやら何が何でも自炊の話はしたくないらしい。




「俺はこれから怜と雪だるま作るんや!」
「ちょぉ何それ! そんなん私かて混じりt」




ドスッ




「あ」
「あっ」
「……南無」
「……」




少し離れたところでせっせと雪玉を作っていた竜華。
なぜ竜華が雪玉を作っていたか。
それは当然雪合戦の最中だったからで。
だから別に泉の投げた玉が背を向けて立ち上がった竜華の後頭部に炸裂したとしても間違いでない、はずで。




「あ、あの……ひっ!?」
「……い〜ず〜みぃ〜〜っ!!」
「ちゃ、ちゃいます、今のはわざとやのうて……ゆ、許してくださ……うわぁぁぁーーっ!?」
「待ちぃやぁぁーーっ!!」
「無理ですぅぅーーっ!?」




うわぁーんと半泣きで逃げていく泉をいったい誰が責められようか。
もちろん鬼の形相で追いかけていく竜華のことも。
どうして二人揃ってこうも間が悪いのか。




「……あれはまたしばらく戻ってきそうにありませんね」
「無理やろなぁ……」
「半分はセーラのせいやん」
「あれはもう体質やろ」




竜華の頭は何かをぶつけられるようにできているらしい。
おもに仲間内限定で。




「まったく……しゃーないなぁほんま」




おっ。




「……」
「何、セーラ?」
「んー……なんもないで」
「そう?」
「おぅ」




くすくす笑う怜に自然とセーラの瞳も緩く弧を描く。
他愛ないやりとり。
どうやったら笑ってくれるかなんて、気を張らなくて怜はこうして自分たちといると笑ってくれる。
それが嬉しい。
どうあがいても怜が笑っていてくれないと自分達はダメなんだってとうの昔に知っているけど。




「中毒ちゃいますか?」
「おまえもやろ」
「皆ですわ」




なぁに? と首をかしげる怜になんもない、と苦笑する。
五人がいい。
その真ん中で怜が笑っててくれるのが一番いい。
三人のままだったら気付かなかったこと。
竜華が怜を掴まえてくれなければ知らなかったこと。




「うっかり二年後にはまた一緒かもしれませんし」
「うっかりおまえらが受験失敗とかせんかったらな」
「誰かさんがうっかり留年して同学年になんてことならあるかもしれませんね」
「必修落とさんかったらええんやろ!? ノートあてにしとるからな怜!」
「1ページ千円な」
「高っ!?」




まけてー、いややー、そんなやり取りでまた笑顔が増える。




「しゃーないなー、そんなら肉体労働で払ったるわ!」




手始めにでっかい雪だるまでその笑顔の上積みを。
そう決めると猛然と雪玉を転がし始めるセーラだった。


...Fin


あとがき(言い訳)

相変わらず更新が前日になっちゃいましたごめんなさい;
3/9SHT内りんしゃんかいほー8での竜怜千里山新刊「SilverSnow」より抜粋です☆
うちの千里山メンツの怜さん愛は相変わらずw
実際は進路はばらばらになるのかなーとも思うんですが、夏の「ユメノツヅキ」と若干リンクしてるので、
全員進学という路線で書いてます。推薦枠をセーラにとられた竜華さんは泣く泣く勉強しておりますw
会場売りと虎の穴さんでも通販してますのでよろしくどうぞです〜☆

2014/3/8著


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