だって傍にいるんやもん






 
 
 
 
前略。
怜が可愛いです。
 
 
 
 
「そやから勉強なんてしてる場合やないと思うんよ」
「何言うてんの?」
 
 
 
 
そんな素直な気持ちを口に出したら心底呆れた顔をされてしまった。
だってほんとに怜は可愛い。
ちっちゃくてやらかくてええにおいで……そばにいるとなんか色々あかんねん。
 
 
 
 
「だから、その、ちょっと今色々危ない言うか、な?」
「いや意味分からんし……ええからはよその問題解いてみい?」
「う、うぅぅ……」
 
 
 
 
だというのに、怜はそんな私の状況にはまったく、これっぽっちも気づいてくれていないわけで。
おかげで私は、さっきから怜の隣でほぼ無意味と言っていい受験勉強をさせられていた。
数学?英語?
……頭に入るわけないやんか!
 
 
 
 
「ここはこうなって……って、聞いとる竜華?」
「う、ぐす、聞いとるよ、聞いとるけど……」
 
 
 
 
右から左へすっぽぬけとります、間違いなく。
 
 
 
 
「……ちょぉ休憩しよか……?」
「えぐ……うん……ぐす」
 
 
 
 
程なくして私の状況を見かねたのか、怜がそう提案してくれた。
理由は分かってくれていないけど、とりあえず私が勉強出来るような状態ではないということにはようやっと気がついてくれたらしい。
 
 
 
 
「ほな飲み物とお菓子でも持ってくるわ」
「ん……ありがとう……」
 
 
 
 
そう言って部屋を出て行く怜を見送る。
 
 
 
 
「……はぁ〜……」
 
 
 
 
そしてバタン、とドアが閉まって数秒後、私は深々と溜息をついた。
ようやくまともに息が出来る様なそんな状態。
いや別に怜といると息が詰まるとかもちろんそういうことではない。
……可愛いのだ。
とにもかくにも怜が可愛くて仕方がないのだ。
 
 
 
 
「……だってかわええし……」
 
 
 
 
理由なんてあるはずがない。
いやなくもないけど理屈ではないのだ本当に。
 
 
 
 
「……怜は全然気づいてくれへんけどな……」
 
 
 
 
事の発端は返ってきた小テストの点数だった。
苦手に思っていた部分がばっちり出てしまったテストの点数は、平均から見てもあちゃーな点数で、これはまずいと思った私は当然私より成績のいい怜に泣きついた。
そこまではいい。
問題はそのあとだ。
じゃあ今日のうちにやってしまおう、ということで怜の家に寄って躓いた部分を片付けてしまうはずだった。
そしてさあやるぞ、と教科書と問題集を出した私の隣に怜が腰を下ろしたのだ。
擦れる肩、触れる指先、聞こえる吐息……一度意識してしまうともうダメだった。
 
 
 
 
「やー……だって好きなんやもん……うぅぅ……」
 
 
 
 
いわゆる『お付き合い』というものを私と怜が始めてから早数ヶ月。
しばらく経てば色々と慣れるだろう、と思っていたのにちっとも慣れない。
いや、むしろ最近悪化している気がするのは私の気のせいやないと思う。
付き合い始めてからの方がもっと好きすぎるてどういうことだ。
なんかもう普段の自分はどうやって膝枕とかしているのだろうかと本気で思う。
平常心って恐ろしい。
 
 
 
 
「てか何で怜は平気なんやろ……」
 
 
 
 
思い返してみれば勉強を始めてからの怜にこれといった変化は無かった。
いつもどおり怜の教え方は丁寧で分かりやすかった(と思うが私の頭には残っていない)し、私の隣に座っていた怜は至っていつも通りだったと思う。
……それって恋人としてはどうなのだろう。
いやたしかに隣に怜がいるだけであかんくなる私もあれやと思うけど……!!
 
 
 
 
「……何一人で百面相してるんよ」
「うひゃぁっ!? と、とととと……」
 
 
 
 
なんて、あーだこーだとふて腐れ始めた私だったが、それより少しばかり早く怜が戻ってきていたらしい。
も、もっと早く声かけてくれてもええんちゃうかな!?
 
 
 
 
「お茶淹れてきたでー……って言うたのに、なんや一人でぶちぶち言うてたん竜華やんか」
「はぅっ……す、すんません……」
 
 
 
 
まったくもぅ……と、お決まりの言葉を口にしながらお茶とお菓子をテーブルの上に乗せる怜。
うぅぅ、なんや今日は呆れられてばっかりな気がするわ……
勉強も手につかんし今日はもう帰ったほうがええんと違うやろか?
そんな風に、さめざめと自分の不甲斐なさに内心で涙する。
だけど……怜はそんな私でもお構いなしに、さっきと同じように隣に腰を下ろすとぴたっと肩をくっつけてきた。
……もしもし、怜さん、私今色々とあかんのやけど。
 
 
 
 
「……別に、平気なわけやないし……」
「え……あ、さっきの聞いて……」
「そんなん、私かていつもドキドキ、しとる、し……」
「うっ……」
 
 
 
 
そう言って俯く怜。
きゅっと僅かに触れあった小指が絡まる。
うわっ、うわっ……何これ、めっちゃ可愛い。
やばいやばい、あかんてほんま。
髪から覗く怜の耳が赤く色づいている、たぶん私の顔も似たような状況だ。
 
 
 
 
「やけど、その、一緒の大学がええから……」
「と、怜……」
「わ、私やって……」
 
 
 
 
我慢、してるんやもん……。
……なんて、そんな事を言われてそれこそ私が我慢できると思っているんだろうかこの子は。
怜の努力を無に帰すのは忍びない。
でもそれは私が受験まで頑張ればいいことであって、今は目の前の怜の方がずっとずっと大事なことだった。
 
 
 
 
「怜……」
「あっ……」
 
 
 
 
ぎゅうっと怜の小さな身体を抱き締める。
私の腕の中に収まる怜。
その小ささも急ぎ足で跳ねる鼓動も、何もかもが愛おしい。
そっとカーペットの上に押し倒せば、怜の小さな手が私の服をきゅっと掴んだ。
いやや言うても、放さへんから。
 
 
 
 
「……竜華の、あほ……」
「うん、ごめんな怜……愛しとぅよ……」
「あほ……んっ……」
 
 
 
 
ごめんな怜。
後でちゃんと勉強も頑張るから……
そうして僅かばかりの罪悪感は胸にしまうと、私は怜の唇の感触にうっとりと眼を閉じたのだった……。


...Fin


あとがき(言い訳)

どもども、軽くお久しぶりのキッドです。
ちょっと体調不良だったり精神不良だったり(ぇ)でぐったりな日々を過ごしてました。
ようやくちょっと活動出来る感じに戻ってきたのでPCに向かったら、なんか竜華さんが怜さんLOVEなだけのSSが出来ました。
違う展開で違うタイトルのを書いていたはずなのにどうしてこうなったww
いつになったら溜まってる季節物SSを消化できるのか見当もつかないです本当に(苦笑)

2013/2/23著


咲-saki-SS館に戻る

inserted by FC2 system