願い事






 
 
 
 
「……何、これ?」
 
 
 
 
開口一番、そう言った。
部室に入った途端、私を出迎えた巨大な笹。
 
 
 
 
「七夕やん」
「そや、七夕やからな」
「……」
 
 
 
 
そしてどやっ、と胸を張る竜華とセーラ。
……いや、意味が分からんし。
 
 
 
 
「まぁ突っ立っとらんで中入ったらええんやないですか」
「一応監督には許可とったらしいですし」
「船Qも泉も冷静やな……」
「部長たちやし」
「私も最初は驚いたんですけどね……」
 
 
 
 
順応力高いなぁうちの後輩たちは。
 
 
 
 
「……で、なんでそんなもんがここにあるん?」
「ちょぉ、今言うたやん」
「七夕なんやから笹があって当然やろ」
「……」
 
 
 
 
なんやったらもちょい詳しく話たるで、と竜華とセーラが頷く。
いや、もちろん私だって七夕の話くらい知ってるし、笹やテーブルに置かれた色紙を何に使うのかも分かってる。
……けどな、私らもう高校生やで?
だいたい、七夕やからって笹に短冊飾ったところで……
 
 
 
 
「そんなんで叶ったら苦労せえへんと思うけど?」
「ぐはっ」
「す、少しくらい浸ってもええやんか!?」
 
 
 
 
なんだかめんどくさくなってきて思わず直球を投げたらセーラが突っ伏して竜華が半泣きになった。
あかん、ちょぉ真っ直ぐすぎたわ。
……やけど、そんなに大事なことやったやろか、七夕て。
 
 
 
 
「だ、大事言うかちょっとくらい、こう……」
「ロマンがあってもええやないか!」
「そ、そや、そうやで怜!」
「ロマン、なぁ……」
「と、とにかく怜も参加すること!……部長命令や!」
「……まぁ、ええけど」
 
 
 
 
短冊飾ったところでなぁ、とは思うけど、別にやらん言うてるわけやないし。
それになんだかこれで嫌や言うたら竜華なんか泣きそうだ。
それはちょっと、いやかなり回避したい。
 
 
 
 
「よし、ほなこれ怜の分な♪」
「ん……」
 
 
 
 
私が素直に頷くと途端に竜華の顔がぱっと輝く。
現金なものだと思うけど、竜華が笑ってくれるならまぁええし。
だから短冊を受け取ってテーブルの前でペンを取り…………あかん、何書いたらええんやろ?
何も考えていなかったことに気がついた。
 
 
 
 
「なんでもええやん、夢とか願い事とか」
「……夢……」
 
 
 
 
……夢なら、ある。
竜華とセーラと一緒に全国の舞台で戦うこと。
……でもそれは書くまでもなくもうすぐ叶う。
それだったら他に私には何があるだろう?
そう考えた時、私は自然に短冊にそれを書いていた。
 
 
 
 
「…………」
 
 
 
 
……ってあかんやろ私。
恥ずいわこんなん。
思いっきり真面目に書いてしまった短冊をべしっと裏返して違う短冊を手にとった。
こう、なんや、もう少しあたりさわりのないもんにやな……
 
 
 
 
「怜?書けた?」
「ん……これでええわ」
「……って、これ思いっきり普通やん」
「そういう竜華も同じやな」
「んー、そりゃまぁ今はやっぱりなぁ……?」
 
 
 
 
ぺらっと手元で全国優勝の文字が躍る。
よく見ればセーラや船Q達も同じことを書いている。
皆考えることは同じらしい。
 
 
 
 
「ほな飾るで〜」
「お願いするわ」
「……にしても暑いですね」
「そう言うと思て休憩室の冷蔵庫にお茶冷やしてますねん」
「おぉ、さすが浩子」
「ほな短冊は竜華とセーラに任せるわ」
「えー、なんで私らだけ……」
「背高い方が楽やん。ちゃんと二人の分も持ってくるから頼んだわ」
 
 
 
 
不満そうな二人を宥めて船Qと泉と休憩室へと入っていく。
まぁ実際問題一番上とか私じゃ届かんし。
そういえば全国の他にも書くことあったな。
でも身長が欲しいなんてそれこそ書いても叶わんか。
 
 
 
 
「……絶対笑われるし」
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもないわ。はよお茶持って戻らんとな」
 
 
 
 
もうちょい竜華に近い方がよかったな、と思う。
でもこの歳になったらもう身長は望めそうにない。
……それになんや、竜華は私がこれくらいの方が嬉しいみたいやしな。
 
 
 
***
 
 
 
「よし、これで終わりっと」
 
 
 
 
出来上がった笹を見上げる。
上から下まで飾り付けも短冊もちゃんとつけた。
いい出来に一人頷いていると、セーラが何やらテーブルの上を物色しているのに気がついた。
……って、ちょぉ。
 
 
 
 
「何してるんセーラ?」
「いやなぁ、そういやさっき怜が違う短冊書いとったなぁって思って」
「ちょぉ、それで物色してるん?」
「人聞きの悪い言い方やなぁ。俺はそれも飾ったろうて思うだけやで?」
「で、でも怜が見せたくないんやったら……」
「じゃあ竜華は見なければええやんか」
「うっ……」
 
 
 
 
そっけなくそう言われて私は思わず返答に詰まる。
本音を言えばもちろん見たい。
めっちゃ見たい。
だってそやろ?
飾って叶うなら苦労せえへんって言うてた怜が何書いてたか気になるやん。
叶えられる事なら叶えてあげたい。
 
 
 
 
「まぁ身長とか胸て書いてあるかもやけどな」
「それは、叶えようがないなぁ……怜はちっさい方が可愛えし」
「胸が?」
「背や!」
「揉めばええやん」
「はたかれるわっ!?」
 
 
 
 
第一それで胸が大きくなるわけ……い、いや、分からへんけど……
それでも、やっぱり……
いやちゃう、ちゃうで、怜の胸に触りたないとかそういわけやなくて……ああぁぁぁ。
 
 
 
 
「……竜華が意外とむっつりなんはよう分かったわ……」
「ななな何言うてんの!?ほ、ほら、戻ってくる前に見るんやろ!」
「なんやもう……さっさと告ったらええねん……よっ、と……」
「あ…………」
 
 
 
 
なんか酷い事を言われた気がするけど今はとにかく怜のお願いの方が優先や。
そう決めてセーラの手元を凝視する。
ぴらっとセーラがひっくり返した短冊には、全然私達の予想と違うことが書いてあった。
 
 
 
 
「…………」
「…………」
 
 
 
 
それを見た瞬間、ピシッと彫像のように固まった私とセーラ。
まずい、これはあかん。
自分の中からわき上がってくる衝動を抑えようにも抑えられない。
あかんあかん、ほんと無理。
だって可愛い。
むっちゃ可愛い。
今すぐ怜を抱き締めて頬ずりしたい。
なんかもう絶対止まらん。
よし、しよう。
 
 
 
 
「〜〜〜〜っ!怜ぃーーーーっ!!」
「あぁっ!?ちょ、独り占めはあかん!俺も行くーーっ!!」
 
 
 
 
セーラもきたみたいやけどまぁええわ。
休憩室のドアを蹴破る勢いで乱暴に開けると私達は休憩室の中へと飛び込んだ。
 
 
 
***
 
 
 
さぁお茶も用意したしつまめる物も用意したから戻ろうか。
そう振り返ったところでガタン!とドアが部室側から開かれた。
 
 
 
 
「「怜ぃーーーーっ!!」」
 
 
 
 
あ、なんややな予感。
 
 
 
 
「いや二人ともどないしたん……ぶっ」
「先輩っ!?」
「ほほぅ、これはまた……」
「ちょ、なん……」
「あぁぁぁ怜ぃー!なんであんたそんなに可愛いんやぁー!!」
「反則やろ、くそぉーっ!!」
「な、何、が……?」
 
 
 
 
なんとなく危険な気がして手に持った茶菓子を泉の方にポイ捨てるのと同時、私はノンストップで突っ込んできた竜華とセーラにタックルされた。
いや、これは抱きついてきたんだろうか?
押し倒されるように頭から後ろのソファーにぼすっと落ちる。
……って、あんたら私を死なす気か。
ソファーなかったら後頭部強打やでほんまにもう。
 
 
 
 
「短冊や短冊!」
「何でそんなに可愛いん!」
「た、短冊て、何人の勝手に……」
「え、でも園城寺先輩の短冊てうちらと同じ……」
「これちゃいますか?『大会が終わっても皆と一緒にいられますように』て」
 
 
 
 
船Q−−−−−−−っ!!
 
 
 
 
「ぶつくさ言っとった割に真剣ですね」
「そ、そりゃ、自分だけじゃ叶わないもん書くのが普通やん……て、苦し……」
「叶えたる!何してでも叶えたる!!」
「大会どころか卒業しても一緒や!」
「嫁になったらええねん!うちがもろたる!!」
「ちょぉ、それ俺どおしたらええねん!」
「お姉ちゃんにでもなんでもなればええやろ!うちの嫁は渡さんけどな!」
「……なんやもう趣旨が違てません?」
「いつ幸せ家族計画になったんやろな」
「てことはうちらは妹ですかー」
 
 
 
 
そりゃ確かに書いたけどな、それでなんで竜華が旦那でセーラがお姉ちゃんになるんよ。
しかも泉と船Qまでなに?
混じりたいん?
ってそれどんな家族や。
嬉しいは嬉しいけど、どうせならもっと違う時に言ってほしい。
特に竜華とか竜華とか竜華とか。

でもまぁ、とりあえず……
 
 
 
 
「愛してるで怜ぃーーっ!!」
「俺らの友情は不滅やー!」
「愛が重いわぁ……」
 
 
 
 
七夕って、叶うもんなんやなぁ……


...Fin


あとがき(言い訳)

七夕ですわー!!……てことで滑り込みで7日に更新でふ。
うーむ、もうちょいがっつり怜竜で書こうと思ったらなぜか千里山編になった。
いや怜竜には違いないが(笑)
後になって何恥ずい事連発したんやろとかあたふたしながら一緒に帰ればいいと思うw
書けたらその辺は書きます。
公式でもプロポーズ済み(ぇ)だしそろそろちゅーの一つもあっていいげふんごふん。
そして誰か燃料をください。
需要はあるのに怜竜作家さんが少なくて私のMPががが。つか公式さん13話いつー!?

2012/7/7著


咲-saki-SS館に戻る

inserted by FC2 system