ライオンヘッド


 
 
 
 
 
 
 
 
朝。
 
 
 
 
「……おや?」
 
 
 
 
目が覚めるとライオンになっていた。
 
 
 
 
 ◇
 
 
 
 
「あ、起きたのね久。おはよ……う?」
「あぁ、おはよう美穂子」
「……どうしたのそれ?」
「んー……」
 
 
 
 
洗濯物を取りに洗面所に入ってきた美穂子。
私の姿を一瞥すると、挨拶もそこそこに少し驚いた顔で私の頭を指差した。
同棲を始めてしばらくたつが、彼女にこんなに見事な頭を見せたことはない。
ぴんと立ったいつもの寝癖なんかの比じゃないくらい。
今の彼女の目の前には、私が鏡で目にしたのと同じもの……あっちこっち飛び回り、なんとも見事な鬣を形成した私の頭が見えるだろう。
……あれか、昨日ほとんど乾かさないで寝たせいか。
 
 
 
 
「……寝る前にちゃんと乾かさなかったの?」
「めんどくさくて」
「もぅ……」
 
 
 
 
あははーと笑うと見事に苦笑を返された。
昨日はあれだ、バイトが予想以上に遅くなって、帰ってきたのが零時を過ぎた頃だった。
それから軽くシャワーを浴びたのはよかったのだけど、疲れてて眠かったし、何よりめんどくさかったのでちゃんと乾かすのを放棄した。
タオルでサッとだけ髪を拭って、すでに眠りについていた美穂子の隣に滑り込んだのは7時間ほど前のことだった。
そして出来上がるライオンヘアー。
おーまいがー。
 
 
 
 
「これは……梳かしただけじゃダメそうね……待ってて、蒸しタオルか何か用意するから」
「んー、お願いねー」
 
 
 
 
のしっ。
 
 
 
 
「……久」
「なーに?」
「動けないわ」
「平気平気、ちゃんとついてくから」
 
 
 
 
私のライオンヘアーをいじった後、タオルの準備に向かおうとする美穂子にのしかかる。
もちろん体重はかけてないけど、動きづらくはあるようだ。
まぁ分かっててやってるんだけど。
ものはついでと後ろから抱きしめてすりすりしてたら、回した手を軽くつねられた。
つれないわね。
 
 
 
 
「ライオンじゃなくて猫みたいだわ」
「あら、ライオンは猫科の動物よ。だからこのまま美穂子のことを食べちゃうかもしれないわね」
 
 
 
 
こんなふうに、と美穂子の耳をパクリと食べる。
美穂子は小さく肩を震わせたけど、なかなかどうして、簡単には落ちてはくれない。
 
 
 
 
「んっ……ダメよ、ちゃんとその頭、直させて」
「……はぁーい」
 
 
 
 
しぶしぶ引き下がると、私をくっつけたまま濡らしたタオルをもって電子レンジに向かう美穂子。
一緒に電子レンジがチンと鳴るのを待つと、蒸しタオルが出来上がると同時にひっぺがされた。
台所の椅子に座らされると上からかけられる蒸しタオル。
 
 
 
 
「……て、あっつ!? ちょ、なんかかなり熱いわよ美穂子!?」
「まぁ、そうかしら?」
「さっきイタズラしたの怒って……あちっ!?」
 
 
 
 
うふふふふ、とにこやかに、美穂子は熱い蒸しタオルを私の頭に固定した。
……ふ、やるわね美穂子、中々に愛が熱いじゃない。
……ちょっと耳くわえるくらい、いいじゃないねぇ?
 
 
 
 
「くぅ……や、やってくれたわね美穂子」
「久がすぐ悪戯するからよ」
「あら、それこそ私の愛の証だわ。なのに美穂子ってば悪戯しない私の方がいいって言うの?」
「そうは言ってないけど……そういうところが意地悪なんだもの」
「意地悪な私は嫌い?」
「……バカ」
 
 
 
 
少し頬を染めた美穂子はそれでも好きとは言ってくれない。
あらら、ちょっとやりずぎかしら、拗ねちゃったわ。
それでも十分に蒸された私の頭のタオルを外して、髪の毛を整えてくれるあたりとても彼女らしい。
……こうやって私を甘やかす美穂子だから、こんなに簡単に火がついちゃうんだわ。
 
 
 
 
「……はい、これでいい大丈夫よ」
「ありがとう美穂子。じゃあこれはお礼ね」
「え……んっ、お礼っていうより、久がしたいだけじゃ……んんっ」
「そうとも言うわね」
「そうとしか言わな……あっ」
 
 
 
 
逃げようとする美穂子の腰を抱き寄せて口付けた。
小さな抵抗を続ける美穂子の首筋に唇を寄せると、美穂子の白い肌が赤く色付き染まっていく。
慣れてはきても、美穂子のこういうところは変わらず可愛い。
 
 
 
 
「……久、本当にライオンみたい」
「そうよ、だから美穂子のことも食べちゃうの」
 
 
 
 
がぉ、と一鳴きしてから唇を重ねる。
 
 
 
 
「ライオンの心に火をつけたのは貴女よ美穂子?」
 
 
 
 
無事に元に戻ったライオンヘアー。
でも髪の毛は簡単に戻せても、心まではリセット出来ない。
しっかりと美穂子に責任をとってもらいましょ。
 
 
 
 
「久……」
「愛してるわ美穂子」
 


...Fin


あとがき(言い訳)

先日、起きたらライオンヘアーになっていたキッドです、ごきげんよう。
こうね、鏡見たらえらいことに、って感じで(苦笑)
あそこまでいくと簡単には元に戻ってくれないんで、蒸しタオル君の出番です。
まぁ一般のご家庭様にはスチームなんとかみたいな寝癖直しがあるんかもですが、
我が家にそんな高尚な物はございません。
そういえばどこぞの部長さんも似たような髪形だったな、と思い出し、気がついたら部キャプになってました、あら不思議。
早く高校編も書き上げられるように頑張ります。

2009/12/12著


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