ええなぁ






 
 
 
 
「ええなぁ……」
「……は?」
「何が?」
「いや、ええなぁ……って」




いや、だから何が?
と、?マークを飛ばす竜華とセーラを見ながら、ベッドに寝そべった怜はまた、ええなぁと言った。
そのまま枕代わりのクッションを抱え込み、ゴロゴロとベッドの上を転がる。
可愛い。
可愛いけど何が言いたいのか分からない。
竜華とセーラは揃って顔を見合わせた。




「怜、何がええの?」
「教えてくれんと気になるわ」
「んー……?」




なおもゴロゴロと転がるばかりで、答えようとしない怜。
二人の様子を面白がっているのか、それとも何かしら照れくさい部分でもあるのか。
あるいはその両方かもしれないが答えてもらわないことには、竜華とセーラは気になって仕方がない。




「わっ」
「よい、しょ……と」
「もう逃げられへんでー、白状しいや怜」
「……むぅ」




転がり続けるだけで答えない怜に対し、竜華とセーラは実力行使にでることにした。
竜華が怜を背中から抱きあげ、自分の膝の上に降ろすと、脇の下から通した腕をお腹のあたりでしっかりとホールドした。
前からはセーラが詰め寄り、身動きの取れない怜に選択肢はない。
せめてもの抵抗にとクッションを強めに抱えてだんまりを通してみるが、前後からの圧力は諦める気配がない。
怜が白旗を上げるまでにそう時間はかからなかった。




「……髪」
「髪?」
「俺らの?」
「ん……ええな、って思って」




その言葉にまたも竜華とセーラは二人で顔を見合わせる。
誤魔化したり嘘をついたりしている様子はない。
それは、だからもうええやろ、と少し照れくさそうにクッションを抱える怜を見れば分かる。
分かるのだけれど、内容の方はよく分からない。




「怜の髪やって綺麗やん。柔らかくて私は好きやで?」
「てゆか竜華は分かるけど俺のは固いだけやで?」
「ん、や……そいうことやなくて……二人の髪は、そのまんまやな、って……」
「そのまま……?」
「うん……竜華の髪は綺麗でまっすぐで……」




抱えられたまま頭上の竜華を振り仰ぎ、伸ばした手で怜が竜華の髪に触れる。
綺麗でまっすぐ、と怜が評した竜華の髪はその指通りを邪魔することもなく手の平を滑り落ちる。




「……ほんでセーラの髪は固くてしっかりしてるやん?」




そして竜華の髪に触れていた手が今度はセーラの髪に伸ばされ、ワシャっと少し固めのその髪を撫でつけた。




「なんや、二人の性格そのもの言うか……そう思ったら、なんやええなぁ……って」




そんな風に思ってしもただけなんよ?
……そう微笑む怜は、とても愛おしそうにもう一度二人の髪を撫でた。
含みはない。
本当にただそれだけのことだけど、嬉しい様な愛おしい様な、怜はそんな風に感じていた。
そしてそれが分かるから、ボッと火がついた様になっている二人の頬の熱が簡単には下がらないのだ。




「う、や、ぉ……」
「えー……あー……」
「そんな赤くなられたら私まで照れるやないか……なんやもぅ、あんたら可愛えなぁ……」




そう言って赤くなった頬を隠すように抱えたクッションに顔を埋めてしまう怜。
可愛えんはあんた(おまえ)やっ……!!
喉元まで出かかったそんな二人の心の声も当の怜には届かない。
言ってしまうともう収拾がつかなくなりそうな気がすると、二人がギリギリで飲み込んだ結果だ。




「〜〜〜、そうや怜、お風呂そろそろ出来るで!」
「お、おぅ、そやな! 入ってきたらええわ!」




そのため随分と挙動不審、というか強引な話題転換になってしまったが今の二人にそれ以上の対応は出来そうもなかった。




「ええの? 竜華の家やんか?」
「え、ええで、れでぃふぁーすと……やなかった、怜ふぁーすとっちゅーことで」
「そやで、家主がええて言うてるんやから、行ってきぃ」
「……ほな、いただくわ」




そうだそうだそれがいい、と声を揃える竜華とセーラに促されて、トトトッとドアの向こうへ怜は消えていった。
あははーという二人の朗らかな笑みもバタンとドアが閉じられるとぴたりとやんだ。
微妙な、間。




「……ちょおセーラ、あんた何ニヤけとるん?」
「そういう竜華こそ、何がお風呂出来るで、や」
「し、仕方ないやんか、怜が可愛いんやから!」
「そんなん知ってるわ! 自分家の風呂なんやから一番に入ってきたらよかったやないか!」
「く、ぬ、賛成したくせになんで……あ、まさか怜と二人っきりにとか!」
「そそそそ、そんなん思ってないわ!」
「ど、どこ、見て言うん!? こっち見いや!」




じわりじわりとヒートアップしていく場の空気。
それを突き崩したのは事実を認めたとも取れるセーラの一言だった。




「しゃ、しゃーないやろ! その……可愛えなって思ったんやから!」
「なぁっ! と……怜はうちのもんやぁー!」
「いって!? 何するんやこらぁー!」
「いたっ、そ、そっちこそー!」




ぶんっ、と竜華が放った枕がセーラの顔を綺麗に捉えた。
お返しにと投げられたさっきまで怜がふにふにしてた少し硬めのクッションも、これまた狙い違わず竜華に当たる。
後はもう、想像に難くない――




「あかん、着替え忘れてしもたわ……ん?」




とたとた、と階段を上がって戻ってきた怜が目にしたのは枕やクッションを投げ合いながら言い争う、そんな二人の姿だった。




「くっ、この、いつまでも告白もできんヘタレのくせに!」
「なっ、じ、時期ってもんがあるんやこういうことには!」
「はん! 日が暮れるどころかあっちゅーまに皺だらけやな!」
「だ、誰が……じ、自分かて安地でうまうましとるくせにー!」
「し、してへんわー!」




右へ左へ飛びかう枕(とクッション)。
なんで急に枕投げ?
と、疑問符を飛ばす怜に至って真剣な二人は気がつかないのか、即席の枕投げはもうしばらく続くらしい。
何やら喧嘩しているようだけど……




「なんやもう……あんたらほんま、仲ええなぁ」




喧嘩するほど仲がいい。
きっとそういうことなのだろう。
そしてまた怜はそれを見て、ええなぁ、と笑うのだった。


...Fin


あとがき(言い訳)

ご無沙汰してますキッドです☆
とりあえず怜さん可愛いな新刊より抜粋の一本です。
三年生トリオちょーたのしいというお話w

2013/7/29著


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