HappyMagic4






 
 
 
 
「……あかん、結局日が暮れてきてしもた……」
 
 
 
 
廊下から窓の外を見れば一面茜色に染まっている。
あー、夕焼け綺麗やなー。
……現実逃避くらいさせて、お願い。
 
 
 
 
「う、しかも課題プリントがこんなに……」
 
 
 
 
結局ほぼ丸一日保健室で過ごした分、ごっそり先生達からプリントという名の課題をもらった。
ありがたいけど嬉しない。
怜は普段こんな苦労をしてるんやな……
 
 
 
 
「部活、行かんと……」
 
 
 
 
重たい足を動かして昇降口へと歩いて行く。
出来ることなら今日はこのまま帰りたい……気もするけど、やっぱり怜の顔を見たいとか重症だと自分でも思う。
 
 
 
 
「……だって好きなんやもん……」
 
 
 
 
絶賛片思いが判明したとこやけど。
そういえば早速試すとか言うてたけど、怜は部活出てるんかな?それとも今日は病院やから、とかってもう渡しに行ってるんやろか……
あかん、想像するとかなりのショックや。
 
 
 
 
「くぅっ……誰か知らんけど怜からラブレターもらえるとかうらやましいわ……そうこんな風に……は?」
 
 
 
 
はぁ〜……と深い溜息をつきながら下駄箱を開けると、靴の上にちょこんと可愛らしい封筒が乗っていた。
……え、ちょ、ま。
 
 
 
 
「さすが女子校……でも確かにもらっても困るわ……」
 
 
 
 
くれた人には悪いけどフリーならともかく、私の心には怜がいる。
もちろん麻雀部のファンレターやなんか、ということもありうるので、いずれにしろ中を確認した上で断るなり返事をしなければならない。
小さく溜息をついてその封筒を手にとった。
 
 
 
 
「……え?」
 
 
 
 
白地にピンクの装飾が入った小さな封筒。
女の子らしいその封筒の真ん中に書かれた『清水谷竜華様』の文字。
ありきたりなパターンの手紙で他にこれといった特徴はない。
――だけど。
 
 
 
 
「この字……まさか……」
 
 
 
 
丸みを帯びたそれは、私の好きな人の字にとてもよく似ていて――まさかとそんなはずは、という相反する想いに蹴飛ばされるように私は慌てて手紙の封を切る。
中から出てきたのはこれまた小ぶりな白いカードで。
 
 
 
 
「っ……」
 
 
 
 
さっと目を通した私はぐっと歯を食いしばって上を向く。
……そうしないとまた泣きそうだったから。
 
 
 
 
「これは、あかんな……」
 
 
 
 
思った以上の衝撃に視界がぐらつく。
そうだ、怜はさっきなんて言った?
確か『いつもお世話になってる人に感謝とか、その、色々伝えたいて思うんやけど』……そう言っていたはずだ。
……あれは、私に対してだったんだ。
 
 
 
 
「……うぅ〜〜っ!!」
 
 
 
 
嬉しかったり泣きそうだったり愛おしかったり、次から次へと感情が溢れてきて爆発しそうで、たまらず私は部室に向かって走りだす。
結論から言えば手紙はラブレターじゃなかった。
ただ純粋に怜の気持ちだけが込められたもの。
それでもいい、だって今の私はそれが何より嬉しいから。
 
 
 
 
「……あほ、怜のあほぉー!!」
 
 
 
 
カードを握ったまま疾走する。
――書かれていたのはたった一言。
 
 
 
 
『……ありがとう』
 
 
 
 
……それはきっと、幸せを呼ぶ魔法の言葉。
 
 
 
  ◇
 
 
 
「〜〜♪」
 
 
 
 
明けて翌日の土曜日。
部活もない今日、私は朝から上機嫌で部屋の掃除に勤しんでいた。
別に普段からそれなりに片づけてはいるので、これといってしなければならないことはないのだが、それでも念入りに掃除機をかけてテーブルの上も綺麗に拭いた。
例えるならピカピカとかペカペカとか。
 
 
 
 
「……ペカペカはなんや微妙、かも」
 
 
 
 
……でも構わない。
だって今私の機嫌はとてもいいから。
 
 
 
 
「くぅ、あかん、まだ二時間もあるのに待ちきれん……!!」
 
 
 
 
怜からあのカードをもらった昨日、部室に駆けこんだ私はそのまま眼前に捕捉した怜に飛びついた。
ついでに勢い余って一緒に倒れ込むように押し倒した。
どないしょこれ、めっちゃ嬉しい……ごほん、危険な体勢や……と思ってたらセーラと泉ひっぺがされて浩子にえらい説教くらったけど、私の下で驚いたように目を丸くしていた怜がもの凄く可愛かったから、全然まったく堪えなかった。
……いや、まぁ私の腕が間に合わんかったら怜は後頭部強打しとったわけやし、次から気をつけんとあかんけど。
 
 
 
 
「はぁ〜、怜早ぅ来てくれんかな……」
 
 
 
 
そんなわけで、朝から、正確には昨日からもう私はずっとハイテンションな状態だった。
そわそわ、とか、うきうき、とか♪
しかも、今日は怜がうちに遊びにくる日なんやから、浮かれるなっちゅーんは無理ってもんや。
 
 
 
 
「……はっ、あかん、部屋に二人っきりとか私我慢できるんやろか?」
 
 
 
 
首尾よくあの後、怜と今日の約束を取り付けたのはよかったけれど、現実を思い出すと途端に少し不安になる。
あかん、全力でかいぐり倒す自信しかない。
 
 
 
 
「……いや、べ、別になんもやましいことせんかったらええよな、うん」
 
 
 
 
そうだ、別にちょっと頭を撫でたり手を繋いだり膝枕をしたりはたまうっかり抱きついて押し倒したところでそれは至って普段と何も変わらない。
変わらないったら変わらない。
 
 
 
 
「……私、ほんまに大丈夫やろか……」
 
 
 
 
……なんか弱気になってきた。
 
 
 
 
「い、いや、びびったらあかん。私には怜からもろたあのカードがついてるんやから!」
 
 
 
 
くわっ、と机の上に置いたカードを振り仰いで自らを奮い立たせる。
怜からもらった目下私の一番の宝物。
そのカードが、開けた窓から吹き込んだ風に乗ってぴらっと飛んだ。
……いやぁぁぁーーーっ!?
 
 
 
 
「ちょ、まっ……取った!!」
 
 
 
 
窓から飛び出す寸前、届いた指先がカードをしっかりとキャッチする。
あ、あかん、心臓止まるかと思たわ……
 
 
 
 
「はー……びっくりした……ん? ……んんっ?」
 
 
 
 
安堵の息をつきながら手元に残ったカードをまじまじと見つめた。
それは何も書かれていないはずのカードの裏面。
表と同じくたった一言、それも隅っこの方に小さく小さく書かれた文字を私は見つけた。
『好きです』……て。
 
 
 
 
……え。……えぇ。……えぇぇぇぇぇ!?
 
 
 
 
「ちょ、いや、これ、と、〜〜〜っ!! 怜ぃぃぃーーっ!!」
 
 
 
 
鞄を取るのももどかしく、鍵だけもって家を飛び出した。
走り出せばぐんぐん近づく怜の家。
鉢植えに水をやっている怜を見つけて色々と爆発した。
 
 
 
 
「怜ぃっ!!」
「は? 竜華? ……って……ちょ、ちょぉ待っ……!?」
 
 
 
 
やられた、やられっぱなしだ。
でも怜にやったら構わない、悔しいけど。
だから代わりに私は思いっきり叫んだる!
 
 
 
 
「怜ぃぃぃっ!! 愛してるでぇぇぇぇーーーーっ!!」
「あ、あほ! 外でなんちゅー……ひょわぁぁっ!?」
 
 
 
 
抱きついた拍子にまた押し倒したとか頭から水をかぶったとかえらい怒られたとか……腕の中の怜がめっちゃ可愛かったやなんていうのはまた別のお話で。
……教えたらんけどなっ☆


...Fin


あとがき(言い訳)

そんな訳でノリと勢いで書いた竜怜の馴れ初めお手紙Verでしたw
竜華は普通にモテそうだけど、普通に怜もひっそり人気だと思うんです。
一番は一言の破壊力を書きたかっただけですが(笑)
余裕があれば後日談とかも書きたいですが、他にも書きたいのが多いからまた気がむいたらかなぁ…
怜は白糸台の制服も似合うと思うんだ(ぇw

2013/2/4著


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