HappyMagic2






 
 
 
 
『おはよー』
『おはよう、ねぇ昨日のドラマでさー……』
 
 
 
 
女子校、とはいってもそこは共学なんと変わらず普通に十代の女の子達が通っているので、朝からだろうと良くも悪くも姦しい。
むしろ女だけなんやから余計かな?
いや別に、普段だったら私も普通にその輪に加わるのだから、それが悪いなんてこれっぽっちも思わないけど。
 
 
 
 
「……」
 
 
 
 
けれど今日はそれを避ける様にふらふらと自分の机まで辿りつくと、座ると同時に私は机に突っ伏した。
 
 
 
 
「……あかん、寝れへんかった……」
 
 
 
 
昨日、怜と別れて帰ってから、何度もメールなり電話なりで連絡を入れようとしては挫折し、ベッドに入ってからは明日どうしようとそればっかり。
ぐるぐると回り続ける思考に変に目が冴えてしまい、気がついたら窓の外から朝日が差し込んでいた。
とりあえずうとうと、ぐらいはした。
でもそんなものは睡眠と呼べるはずもなく……もれなく徹夜もどきになったのだ。
 
 
 
 
「おはよーさん竜華、元気かぁー?」
「……そう見える?」
「んや、全然。どないしたん?」
「どないもこないも……」
 
 
 
 
理由が分かったら苦労せんわ。
 
 
 
 
「寝不足、って顔に書いてあるな」
「これでも誤魔化した方なんよ……」
「珍しいな、竜華がそういうん」
「ん、まぁちょっとな……」
「そうか……で、結局なんなん?」
「んー……」
 
 
 
 
どっからどう説明したものか。
そもそも私は何をこんなに気にしているのか。
いや、怜の機嫌を気にしているのは分かっている。
友達の機嫌一つで眠れなくなるんか、と言われればその通りなんやけど、なんで怜は機嫌が悪くなったんやろか。
一晩考えたけど結局それが分からない。
それが分からないのだから怜に連絡のしようもないし、教室で会ったところで何を話せばいいのか分からない。
怜にすごく会いたいのに会いたくないとかどう言うたらええんやろ。
 
 
 
 
「あーんー、怜のことなんやけど……」
「おぅ」
「……」
「……」
「いや、やっぱええわ」
「ってなんやねん!?」
 
 
 
 
言おうとしてやめんなや、と文句を言うセーラの手をぺしっと払う。
セーラには悪いけどまだ自分の考えもまとまってへんし、それにどうせ話すなら浩子や泉にも聞いてもらった方がええ結果になるかもしれん。
……いや、ちゃうで?
別にセーラやとあんま期待できそうにないとかやないからな、うん。
 
 
 
 
「……なんや酷い事考えてへんか?」
「何言うてるん、うちとセーラの仲やんか」
「ほんまかいな……あぁそうや、怜と言えば今日少し遅れるらしいな」
「うそっ!?」
「なんや知らんかったんか? さっき俺の携帯に連絡あったで?」
「え、ちょ……」
 
 
 
 
ほれ、と携帯のメール画面を見せてくれるセーラに、慌てて自分の携帯を確認する。

受信0件。
 
 
 
 
「……」
「ほー……珍しいな、怜が竜華やなくて俺優先とか」
「い、いや、なんか事情があったんかもしれんし……」
「どんな?」
「じ、重病で少しでも楽に送れるように『し』より『え』を優先した、とか……」
「……大丈夫か竜華?」
「う、うぅぅ……うそや、うそやぁー!」
 
 
 
 
そもそもここに少し具合が悪いだけって書いてあるやん、と言われてしまえば認めるしかない。
セーラの大丈夫の前に頭という文字がつくことも仕方がない。
……だってショックなんやからしゃーないやん!?
 
 
 
 
「喧嘩でもしたんか?」
「してない、と思う……」
「自信なさげやな」
「なんでか怜の機嫌が悪いんよ……」
「ふーん……怜がなぁ……?」
「何怒ってるんやろ……」
「直接聞いた方が早いんちゃうか? ……と、先生くるし席戻るわ」
「うん……」
 
 
 
 
あんま気にしたらあかんで、ってセーラは言うてくれたけど、気にせんですむならそもそも寝不足になんてならんわけで……
次から次へと零れていく先生の授業を前に、私はその日の勉強を放棄した。
 
 
 
 ◇
 
 
 
「……で、何で私ここにおるん?」
「それはぴくりとも動かんようになった竜華を俺が運んだからや……」
「マジすんません……」
 
 
 
 
ぱち、と瞳を開くと目の前には机や黒板……ではなく何故か白い天井だった。
なぜと問えばげんなりした様子のセーラが傍らにいた。
どうやら授業からは強制退去だったらしい……いやその前に寝落ちしとったわけやけど。
 
 
 
 
「失礼します」
「部長ー、生きとりますかー?」
 
 
 
 
怜の付き添いで保健室にくることは多いけど、そういえば自分で使うんは滅多にないな。
ちょっと新鮮やなー、とか思ってたら浩子と泉もやってきた。
ちょおセーラ、迷惑かけたんは謝るけどなんで二人にまで知らせてるん。
 
 
 
 
「怜と何があったか知らんけど、早いとこ解決した方がええやん」
「なんや、やっぱり園城寺先輩絡みですか」
「そやろと思いました」
 
 
 
 
……私の悩み=怜とか皆思うてへん?なぁ?
 
 
 
 
「さっき怜と喧嘩した言うてたやん」
「し、してへんもん」
「連絡もらえんかったけどな」
「ぐっ……」
「そらまた珍しいですね」
「何してしもうたんですか部長?」
「な、なんで私が何がした前提なん!?」
 
 
 
 
口を揃えてだって部長ですし、と言う浩子と泉。
セーラのはただの意地悪やて分かるけど、二人までそれってどういうことなん。
 
 
 
 
「じゃあ何があったん?」
「何て……昨日は、一緒に帰って……」
「うん」
「一緒に服なんかもチラ見して……」
「普通ですね」
「それでその、怜が私を置いて帰ってしもたいうか……」
「……どうやったらそこまで話飛びはるんですか」
「い、色々と事情があったんよ……」
 
 
 
 
あかん、色々端折ったら三行で終わってしもた。
でも怜がおらんのに勝手にべらべらしゃべる訳にもいかんし。
 
 
 
 
「なぁ、やっぱり私が怜を怒らせたんやろか……」
「んー、でもなぁ……」
「というか、いつもの部長の言動のパターンからすると、怒る言うより拗ねとる可能性の方が高いんちゃいますやろか?」
「ですね、私もそう思います」
 
 
 
 
……え、うちそんな怜を拗ねさせてるん?
 
 
 
 
「言うても詳細教えてもらえんことには、確かなことは言えませんわ」
「うっ……」
 
 
 
 
浩子のもっともな指摘に言葉に詰まる。
あれか、言うてもええんやろか。
でも怜がラブレターもらったとか、それは怜のプライバシーっちゅうもんがあるわけやし……やっぱ言えへん。
 
 
 
 
「おっと、予鈴やな。ほな俺らは授業いくわ」
「あ、私も……」
「何言うてるんですか」
「ちゃんと寝とってください」
「うぅ……そうさせてもらうわ……」
 
 
 
 
ちゃんと寝とれよー、とセーラ達に念を押されながら横になる。
若い、とはいっても圧倒的に足りない睡眠はうとうとした程度では足りないらしく、またすぐに睡魔がやってくる。
 
 
 
 
「……怜……」
 
 
 
 
うつらうつらと眠りに落ちようとする頭でも、思うのはやっぱり怜のこと。
そもそも私は何をこんなに気にしてるんやろ。
突然のことに驚いたから?
怜が私を置いて帰ってしまったから?
……怜がラブレターを持って帰ったから?
 
 
 
 
「……怜は、可愛えもん……」
 
 
 
 
だから怜を好きになる人がいるのはしょうがない。
ラブレターだって当然だ。
……だけど、もし怜がそんな誰かの手を取ったなら。
 
 
 
 
「……あっ……」
 
 
 
 
不意に、朝の教室で聞こえた雑談を思い出した。
 
 
 
 
『昨日のドラマでさー』
『見た見た、友達だと思ってたのに好きだって気がついてしまうんよなー』
 
 
 
 
ストン、とその答えが心に落ちた。
 
 
 
 
……聞けなかったのは怖かったからだ。
ラブレターの主に興味がなくても、怜に好きな人がいないという保証はどこにもない。
心配しているつもりで気軽に聞いて、その答えを私は聞きたくなかったんだ。
 
 
 
 
「友達面して、何してるんやろ……」
 
 
 
 
私達は、私は、友達なんかじゃなかった。
いつからかなんて知らない、分からない。
だって怜は最初から大事な女の子だったんだから。
好きの意味が変わっても、それは私の中で変わらない。
 
 
 
 
「最低や、私……」
 
 
 
 
いつかあわよくば、なんて考える自分が嫌になる。
怜の幸せを願えないのに、傍に居続けたい、好かれたい、愛されたい――友達面でこれからもそう思うのだ。
 
 
 
 
「……せめて男の子やったらよかったのに」
 
 
 
 
私か、怜、どちらかが男だったならスタートラインくらいには立てたのかな、今からやったらもうあかんかな?
どうにもならない現実に腕で覆った眦から涙が落ちた。


...Fin


あとがき(言い訳)

とりあえずコピー本も売り切れてしばらくたったので2を更新ですー。
ええはいまだまだ全力で生殺しですが何かw
のんびり3と4もそのうちUPしますねー。

2013/1/20著


咲-saki-SS館に戻る

inserted by FC2 system