HappyMagic






 
 
 
 
怜の身体は私より一回り小さい。
低い背、細い肩や腰は華奢と表現するのが適している。
可愛らしい、と思う。
たぶんこういうんを女の子らしいって言うんやろうな、って。
 
 
 
 
「竜華」
「ん?」
「パンツ見えんで?」
「黙っときそういうことはっ!?」
 
 
 
 
ただし、喋らなければ、だ。
 
 
 
 
「ここ階段やし」
「知ってるわ!」
「隠してへんし」
「ちょ、ちょっと忘れてただけやんか!」
「……いややったらスカート長くしたらええやん」
「ぐ、う、うちはこの長さがええんやからほっといてやもぉっ!!」
「それやったら気をつけんとな、レースのパンツ」
「って、見とったのあんたやん!?」
 
 
 
 
見た目はいかにも可愛らしい女の子、なのに中身は時々おっさんになる。
あかんやろ、それ。
どう考えても詐欺や。
こういう瞬間は怜に女の子を見ている私のトキメキを返してほしいっていつも思う。
 
 
 
 
「まったく……怜はそういうこと言わんかったら可愛い女の子で通るのに……」
「別に……可愛いと思われても得なわけやなし」
「何言うてるん、せっかく見た目それなんやからそのほうがええやん」
「そやなぁ……具体的には?」
「え? ……えーっと……見てて可愛えなぁ〜、ってほっこりする……から?」
「……それ私やなくて竜華のためやん」
「あぅ……」
 
 
 
 
冷めた目で怜の言葉は正鵠を射ぬく。
言われてみれば確かに怜のため言うより私のためか。
 
 
 
 
「だって怜が可愛いんやもん……」
「……あんたの方が可愛いわ」
「何が?」
「……いや、ええわ……」
 
 
 
 
これだから竜華はたちが悪い、そう言って怜は溜息をついてそっぽを向いた。
いやなんで私がたち悪いとか言われなあかんの?
可愛らしい怜が悪いんであって私はなんも悪ないやん。
 
 
 
 
「全然よくないわ。ええか怜、あんなぁ……」
「あ、竜華の好きなブランド新作出てるで?」
「えっ、どこ? あ、ほんまやー♪ 見て見て怜ー、あのスカートむっちゃ可愛えやんなぁ〜♪」
「……」
「……いやちゃうで、今のはほらそこにあるんが分かったら反応せなあかんかっただけで……」
「……やっぱあんたの方が可愛いわ、竜華」
「ぅ……」
 
 
 
 
思わず店のディスプレイに飛びついてしまった私に対して、怜の冷たい目が注がれる……かと思いきや、
そんなことは全然なくて、怜は苦笑とも微笑みともつかない曖昧な顔をしていた。
普段と違うトーンの声にドキッとする。

……いやいや、何ドキッとかしとるんよ私。
頬っぺた熱いし赤くなってそうなんやけど。
おかしい、いかに怜が可愛いか怜自身に分かってもらおうと思っただけなのに。
 
 
 
 
「……ちゃう、それでもやっぱうちにとって一番可愛いんは怜や!」
「ちょぉ、まだ続くんこの話?」
 
 
 
 
いやそーな顔をする怜には悪いけど、ここで引き下がるんは負けたみたいで悔しいやん。
大体怜が私を可愛い言うてくれるんは嬉しいけど、怜はもうちょい自覚ってものをもつべきなんや。
 
 
 
 
「当たり前や!ええか怜、あんなぁ……」

『あのっ!』

「「は?」」
 
 
 
 
これは腰を据えてじっくりと言ってきかせなければならない。
なぜならうっかり誘拐でもされやしないかってくらいに怜は可愛いからだ、うん。
怜に熱弁を振るおうと向き直る。
……その私と怜の横合いから闖入者は現れた。
『これ読んでください!』と怜に手紙を押しつけて走りさっていった制服は近くの男子高のものだっただろうか。

……って、ちょぉぉぉぉーーーーっ!?
 
 
 
 
「……」
「……」
「えーっと……怜?」
「……竜華」
「それはえっと……ラブレター、なん……?」
「……さぁ?」
 
 
 
 
怜の手の中に残った手紙。
宛名も書いてないところを見れば帰宅する怜を見ていてとかそんなところか。
ハートマークなんて物ももちろん存在しない四角い封筒を、怜は大した感情も表さずにじっと見ている。
開けてみないことには内容は分からないが状況からみてほぼ間違いないだろう。
見てみぃ、やっぱり他の人から見ても怜は可愛いってことなんや。
うんうんと一人頷く。
そして街灯のそばのゴミ箱に向けられる怜の視線。
 
 
 
 
「…………」
 
 
 
 
……ちょぉ待ちぃぃぃーーっ!?
 
 
 
 
「ストップや怜! そ、それは人としてしたらアカンやろ!?」
「……でも興味ないし」
「興味のあるなしちゃうわっ!?」
「……せやけど竜華やったらどうするん?いきなり知らん人からもらった物やで?」
「……あー……んー……まぁ、そうやけ、ど……」
 
 
 
 
知らない人からもらった手紙。
覚えがないわけじゃない。
確かにちょっと、いやかなり処分に困る。
 
 
 
 
「そやけど、その、人の気持ちのこもった物やし……」
「……そやな」
「せやからとりあえず中見てからつっ返す……え?」
「ほな、私は今日病院寄ってくから」
「え、ちょ、怜? 怜ぃーっ?」
 
 
 
 
また明日、と怜はあっさり踵を返しさっさと歩いていってしまった。
……あれ、なんやろ、私ひょっとして地雷踏んだんちゃう?
今日は一緒に帰ろう言うてたよな?
いやでもいらんもんでも開けもしないでゴミ箱いきとかそれはさすが可哀相とか以前に人としてやな……
 
 
 
 
「…………」
 
 
 
 
……怜に、ラブレター…………
 
 
 
 
「……あーもぉ、なんや分からんわぁ……」
 
 
 
 
間違ったことは言っていない、はず。
それなのになんでこんなに胸の中や頭の中がぐるぐるするんだろう。
ついさっきまでどっちが可愛いとか怜が可愛いとか、文句を言いながらも楽しく過ごしていたはずなのに。

私が止めたからやけど、怜はラブレターを持って帰った。
……怜は可愛い。
そんなん誰よりも私が一番よぉ知っとる。

……それなのにどうしてだか、胸の奥がツキンと痛んだ。


...Fin


あとがき(言い訳)

7/16の咲祭三にて発行予定のぺらーいコピー本のサンプルです☆
たぶんT〜W構成くらいでTの部分になります。
……間に合うかしらあうあぅ(苦笑)
一応12か16ページ(最長20)の100円予定……8ページだったらいつも通り無料配布。
……うん、とりあえず間に合うように頑張るね;;
ちなみに表紙はkimiさんに依頼中、仕上がりが楽しみ♪
あ、配置は「咲06」TheEarth〜この大地を踏みしめて〜、です。よろすくー☆

2012/7/14著


咲-saki-SS館に戻る

inserted by FC2 system