薔薇の館の昼下がり、そこにはちょっと珍しい光景があった。
「・・・・で、ここがこうなるっと」
「なるほど〜」
ぽかぽか陽気で油断すると瞼が下りてくる今日この頃。
でもそんな気持ちは富士山の上にでも棚上げしておかなければならない。
でないと次のテストでも[脱平均点]は露と消えるだろう。
お姉さまの妹としてもう少し頑張らねば。
・・・・と言うわけで、
現在眠気をエべレストの上(あれ?富士山だっけ?)に棚上げし、勉強にいそしんでいるのです。
さて、それでは何が珍しいのかというと、(私が真面目に勉強してることじゃないよー)
今日は家庭教師がいるんです。
それが誰かと言うと・・・・・
「ま、だいたいこんなもんかしらね」
「ありがとうございます黄薔薇さま」
「いいのよ別に、暇だったし」
・・・・・そう、あの黄薔薇さまなんです。
全てにおいて平均的にトップクラスな黄薔薇さまは、やはり勉強もできるわけで・・・・・
全てにおいて普通に平均点な私は、こうして勉強を教えてもらっているのです。
まぁこの時期に3年生が来てることも珍しければ、
「やる気は宇宙の彼方」な黄薔薇さまが、こうして勉強をみてくれているのも珍しいわけですが。
いや、ものすごーくありがたいですよ、うん。
「あ、何か淹れますね。何がいいですか?」
「ありがとう、それじゃあダージリンにしようかしら」
「はい♪」
勉強を教えてもらった、せめてものお礼に美味しい紅茶をー・・・・・
と思ったのに・・・・・
「ふみゅうっ!!」
「あら、聖の時とは鳴き声が違うのね?というか誰にされても鳴くのね」
後ろから羽交い締め。
そりゃいきなり後方から襲撃されたら鳴き声くらいあげますよ。
・・・いや、由乃さんや志摩子さんなら可愛らしく
『きゃっ』
って、言いそうな気もしますが。
・・・あれ?・・・・・つまり怪獣なのって私だけ?
「なななな」
「納豆?」
違う。
「なにするんですか黄薔薇さま!!」
「聖みたく言えばスキンシップ?」
というよりこの行為自体が白薔薇さまそのものです。
「なんでこんなことするんですか!?」
そしてこの問いに対する答えは簡潔だった。
「暇だから」
「・・・・」
えっとぉ・・・・
「それだけ、ですか・・・・・?」
「それだけよ」
文句を言う気力も失せました。
・
・
・
・
[ガチャ]
なんかもー、どーでもよくなって、
黄薔薇さまを放置してたら・・・・誰か来たみたい。
「ごきげん・・・・」
[ピシッ]
あ、紅薔薇さまだー・・・・・ピシッ?
「ごっきげんよ〜♪なに、蓉子?なんで入り口で固まっ・・・・」
[ピキッ]
白薔薇さまも一緒だー・・・・
でもまたなにか、さっきとは少し違う音声が聞こえたような・・・・?
「あら、二人ともごきげんよう」
「ごきげんよう紅薔薇さま、白薔薇さま」
「・・・・どういうことかしら?」
[ゴゴゴゴッ]
・・・・へ?どういうことってなにがですか?
って、ゴゴゴゴッ・・・・?
「私も聞きたいな・・・・」
[ギリギリッ]
白薔薇さまも紅薔薇さまに同調する。
・・・・歯ぎしりだなんてはしたないですよー、白薔薇さまぁー?
「あら、なにを聞きたいのかしら?」
「何を」
「聞きたいかですって?」
「「この状況以外になにがあるって言う(んだ)のよ!!」
どっかーん!
・・・じゃなくて、状況って・・・・・あぁっ!?
「愚問ね」
黄薔薇さまはふっと笑ったあと言い放った。
「愛し合うもの同士の抱擁に決まってるじゃない」
そして勝利者の笑みを添えるのも忘れない。
そう、放置してたから、すっかり忘れてた(ある意味ひどい)けど、
今現在、黄薔薇さまのセクハラは継続中なわけでー・・・・
いや、断じて、愛し合うなんたらだのと、そういうことではない。
・・・・むしろ恋人が第一発見者である
・・・・マズすぎる。
「あ、あの!これには事情が・・・・・ふみゃぁぁ!!」
「うぅ〜ん・・・・ちょっと寂しいわね」
「ちょっ!どこ触ってるんですか黄薔薇さま!!」
あわてて弁明をしようとしたところに横やりが。
っていうか、寂しいと思うなら離してください!!
元祖セクハラおやじだって、ここまでしませんよ黄薔薇さま!!
「「・・・・」」
[ぷちっ]
あ、切れた。
[ガシッ!]
「え、ちょっと、なによ二人とも・・・・って、痛ったーっ!!ちょっ、肩にめり込んで痛いってばっ!」
紅薔薇さまと白薔薇さまが、それぞれ黄薔薇さまの肩をつかんで、私からひっぺがす。
「それじゃあ祐巳ちゃん、私達はこれで失礼するわね」
「放課後にまた来るからねー♪」
「ちょっと!いい加減離しなさ・・・・の前に引きずらないでよ!祐巳ちゃん助けてっ!!」
にこやかに黄薔薇さまの肩を掴んだまま、
ズリズリと引きずりながら出て行こうとするお二方。
そして激しく身の危険を感じたらしく、私に助けを求める黄薔薇さま。
でもってそれに対して私は・・・・
「はい、分かりました♪また放課後に、ごきげんよう♪」
極上の笑顔でスルーした。
ふんだ、寂しい胸ですみませんでしたね、黄薔薇さま。
「ごきげんよう」
「ごきげんよう祐巳ちゃん」
「ごきげん・・・・・よくなぁぁいっ!!いやぁぁーー!」
・
・
・
・
・
・
で、あっと言う間に放課後。
「祐〜巳ちゃん♪」
「ぎゃあっ!」
「白薔薇さま!私の妹に手出しは無用です!」
「やーだよ♪祐巳ちゃん抱き心地いいんだもん♪」
[スリスリ]
「お、お姉さまぁ〜」
「白薔薇さま!いい加減に・・・・・!」
「はい、そこまで。聖も祐巳ちゃんを離しなさい?」
「ちぇ〜、もっと抱っこしてたいのに〜」
「・・・・!聖さま!今日という今日は・・・・・・」
「さ、そろそろ会議を始めましょう」
「お姉さま!!」
「あら、どうかした、祥子?」
[ニッコリ]
「う、ぐ・・・な、なんでもありません」
白薔薇さまが私に抱きついて、
私がお姉さまに助けを求めて、
お姉さまが白薔薇さまと臨戦体勢にはいって、
白薔薇さまがさらに煽って、
最後に頃合いを見計らって紅薔薇さまが両者にトドメ。
とまぁ恐ろしいくらいに、いつも通りな放課後だったりします。
そう、たとえ黄薔薇さまがいなくても。
・・・・え?黄薔薇さまはどこに行ったのか、って?
んー、私も気になるから聞こうかとも思うんだけど・・・・
[チラ]
「あら、なにかしら祐巳ちゃん?」
「えっと、あのですね・・・・・・」
「・・・・」
[ニッコリ]
「あ、う、な、なんでもありません!」
「そう?さて、それじゃあこの議案についてだけど・・・・」
ごめんなさい、私も命は惜しいんです。
だって、紅薔薇さまですよ!?
絶対零度の微笑みを向けられて、私にどうしろって言うんですかぁっ!?
・・・・まぁ、今回も黄薔薇さまの自業自得だし。
大丈夫、あの人も(多分)不死身だから!
にしても、やっぱり寂しいのかな・・・・・はぁ。
・
・
・
・
・
・
・
「・・・・落ち込んでると思ったら、そんなこと考えてたの?」
「う、だって・・・・」
以上、回想終わり。
実は現在、蓉子さまのお部屋にいたりします。
え?前フリが長い?
知りません、作者に言ってください。
「江利子も余計なことを・・・、あのね祐巳ちゃん、こういうのは個人差があるし、大きければいいと言うものではないのよ?」
「・・・・はい」
分かってます。
分かってはいるんです。
でも、お姉さまだけでなく、
恋人まで大きいのに、気にするなって方が無理ですよぉ〜・・・・
「・・・祐巳ちゃん」
「はい?」
突然、真剣な顔つきになった蓉子さま。
いきなりどうしたんだろう?
戸惑いつつも、つられるように気を引き締め・・・・
「好きよ」
「はい、私もす・・・って、えぇっ!?」
なんですと!?
「あら、何をそんなに驚いているの?今更でしょう?」
私の反応にそう返しながら微笑む蓉子さま。
いえ、そういう問題じゃなくてですね・・・・・
「だ、だからって、突然言われたら驚きます!」
緩んだほっぺと一緒に心臓が固まりそうです。
「あら、せっかく落ち込んだ気分を吹き飛ばしてあげようと思ったのに」
吹き飛びましたよ、そりゃあ。ブラックホールの向こうまで。
「・・・・で?」
「・・・・は?」
「は?じゃないでしょう、祐巳ちゃんからは言ってくれないの?」
「・・・・え?えぇぇっ!?」
「ほら早く♪」
うぅ、正面きって言うんですか?
でも、言わないかぎり解放してくれなさそうだし・・・・
「よ、蓉子さまの事が好きです・・・・」
「聞こえなーい」
「うぐっ、・・・・蓉子さまの事が好きです」
「Once more♪」
「っ!!ですから!」
「ですから?」
「蓉子さまの事が!・・・って、聞こえてるでしょ、蓉子さま」
「さぁ?どうかしら♪」
楽しんでる、絶っ対に、楽しんでるーっ!!
割と、結構、素敵な性格してらっしゃるな〜、と、思う今日この頃。
「祐巳ちゃん、今なにか失礼なこと考えなかった?」
「イエ、べツニ。ナンデモナイデスヨ?」
ここにもエスパーがいる。
・・・・いや、私が分かりやすいだけなのかもしれないけど。
「ふぅ〜ん?」
う、疑いの眼差しが痛い。
「そ、それより蓉子さま、その、そろそろですね、脚線美光るおみ足、のひざの上から解放してほしいかな〜・・・・なんて」
「却下」
「あぅ。で、でも、そろそろ小母さまが帰宅されるのでは・・・・?」
「それは無いわね」
「・・・・無い?」
「無いわよ。母は今日から出張でしばらく帰らないから」
「じゃ、じゃあ小父さ「父は二日前から。帰ってくるのは三日後よ」
仕事熱心でお忙しい小父さまと小母さま。
間違いなくお二人は蓉子さまのご両親である、っと。
「つまり、今日は時間を気にせず、二人っきりを満喫できるのよ♪」
そして、必然的に、私は当分このままなんですね・・・・
こう、おひざの上で向かい合ったまま『ぎゅー』、みたいな。
それはもう、さっきの鬱憤を晴らすかのように・・・・
「それに」
「・・・それに?」
「聖や江利子にばかり、堪能させるのもしゃくだしね」
額をコツン、とくっつけて楽しそうに蓉子さまは笑う。
それは私にだけ見せてくれる顔で・・・・・
・・・・きゅ〜。
「え?ちょ、祐巳ちゃん!?」
[結論]
のぼせました。お風呂でもないのに。
そして驚いている蓉子さまの声を、遠くなる意識の向こうで聞いた。
ごめんなさい、蓉子さま。
祐巳はまだまだ、修行が足りないみたいです・・・・ばた。
愛する人の微笑みに免疫が出来るのが先か、
それとも心臓が止まるのが先か、
とてつもなく、分の悪い賭けであることは間違い無いだろう。
けれども、願わずにはいられない。
二人の未来が、笑顔で満ち溢れたものであれ、と・・・・・
―おまけ―
皆が薔薇の館で仕事をしていたその頃・・・・・
行方不明の黄薔薇さまは、リリアンの片隅にお姿がございました。
(なぜか志摩子さんも一緒です)
「ちょっと、またこれなの・・・って、臭っ!」
いやー生きてたんですね〜、よかったよかった。
「ちっともよくない・・・銀杏臭っ!」
「?とっても素敵だと思いますが?」
「志摩子、いくら貴女が銀杏を好きだからって、首から下を余すとこなく銀杏に埋められて、嬉しいわけ!?」
「はい、私は埋まっていませんから♪」
そりゃそうだ。
そう、お二方に連行された黄薔薇さまは、
地面の一角に掘られた、
銀杏の池
に、首から下を埋められているのでした。
さらし首です。
そして悪夢再び(キッド作・ほのぼの〜後編を参照)
「大体前回といい今回といい、なんでこの季節に銀杏があるのよ!!」
「小笠原家の力でしょう?」
「そういう問題!?」
そういう問題です。
「くっ、銀杏の出所はどうでもいいとして」
いや、話をふったのは黄薔薇さまですって。
「いいかげんここから出してよ志摩子!!」
「・・・後2時間はダメです」
「2時間!?」
「えぇ、3時間、黄薔薇さま監視すれば、この銀杏を「一粒残らず」私のものにしていいそうですから♪」
ごきげんです、志摩子さん。
この時期の銀杏は貴重ですもんね。
「・・・(くっ、さすがは銀杏姫。むしろここまでくると亡者かしら?)」
「・・・・・」
「ちょっ、志摩子、何扇いで・・・って、寒ぅっ!!臭ぁっ!!」
「銀杏を侮辱した報いです」
「心の中の独白に報復するな!・・・・寒っ!」
「(パタパタ)」
「それに侮辱したわけじゃな・・・・臭っ!」
「ふふふ、後1時間と48分3秒でこの銀杏が私のものに・・・」
「お願い・・・もう勘弁して・・・・・」
......fin
あとがき(言い訳)
ごきげんよ〜♪
(ごきげんよろしくない方もいらっしゃいますが→(江TT)
いやいや、構想を練り出してから今日までが長かったです。
ま、そんなこと言ったら1年以上滞ってるSSも山程あるけど。
・・・・たはは〜(汗)
まぁなんにしても、今回のお話はいかがだったでしょうか?
友人からは聖さまは便乗して蓉子さまに雷を落とされるのでは?
との指摘を受けたのですが、それだと毎度の如く聖さまが可愛そうなので・・・
それに江利子さまがマジで襲いかけなのに反応したためだと思われます。
という訳で今日のオチ担当は江利子さまでした(笑)
後は例によって祐巳ちゃんがぶっ倒れてますけど・・・・またか、と思った貴方、
眼前に迫る蓉子さまの笑顔を想像してみてください。きっと祐巳ちゃんみたいに天国(違)へ行けますから。にしても、文の書き方で掲載時期は一緒でも、書いた時期が違うのが丸分かりですね・・・
できれば文章は後退するより進歩してたいと思いますが(^^;)
ジャンルは現在ネギま!にも手を出し始めましたので(現在この刹オンリー)
どちらものんびり頑張って書いて行きたいと思います。
あとは・・・・ストパニ、がとにかく書きたい。
ただ時間と精神的余裕が少なめなので、まったり更新が続きそうなのが目下の悩みですかね・・・(^^;)
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