穏やかな波に揺られて


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
平穏な日常というものは、時として有事への対処の際に弊害となって現れる。
暖かな波に身を委ねていると、冷たい刃の感触が薄れてしまう。
 
 
 
 
「……っ」
 
 
 
 
……ただし、今現在直面している問題はそんな殺伐とした世界の物とはまったく無縁で。
けれど、ある意味平穏な日常ゆえに発生した問題といえるかもしれなかった。
 
 
 
 
「う……」
 
 
 
 
寮の廊下をゆっくりと歩いていた刹那は小さな呻き声と共に、壁にその右手をついた。
いつもの彼女にしては珍しく夕凪も提げず、無防備な姿で廊下に佇んでいた。
もう一つ違うことと言えば、苦虫を噛み潰したかのようなその表情。
ここ最近、木乃香のおかげですっかり柔らかい表情を浮かべるになった彼女にしては珍しい表情。
何かしら敵と相対する時でもなければ浮かべることはほとんどない。
 
 
 
 
「……まいったな」
ポツリと漏らした言葉に苦悩がにじみ出る。
ある意味敵と表現してもいい『それ』をどうにかするには速やかに部屋に戻るべきだった。
ただ、それを実行するにはその敵の攻撃をだましだましかわしながら進まないといけないので、これまた難問だったりするのだが。
 
 
 
 
「さて、あともう少し……」
「……あれ、せっちゃん」
 
 
 
 
それでも歩き出そうとした刹那は、背後からかけられた声にびくっ、と肩を揺らした。
恐る恐る振り返ると思ったとおり、声の主の木乃香の少し驚いたような表情とぶつかった。
 
 
 
 
「……何してるん?」
「いえ、別に、何も……」
「……具合悪いん?」
「う……」
 
 
 
 
隠し通そうとしたところで、木乃香には全面的に素直な刹那のこと、その表情や態度で木乃香には全て筒抜けだった。
そもそも、最初に声をかけられた時点でバレバレだった気がする。
 
 
 
 
「た、たいしたことはありませ……」
「せっちゃん」
「……すみません」
「……ウチの部屋行こ? せっちゃんの部屋よりその方が近いやろ?」
「し、しかし、お嬢様にお手間を取らせるわけには……」
「……怒ってええかな?」
「あぅ……」
 
 
 
 
木乃香に迷惑をかける、ということに未だ抵抗のある刹那だが、怒らせては元も子もない。
木乃香が怒った時の怖さは身にしみて知っている。
何より、木乃香を想うなら甘えるべきところは甘えることでしかその想いに応えることは出来ない。
 
 
 
 
「ほな、行くえ〜」
「お、お嬢様、引っ張らないでください〜……」
 
 
 
 
ずるずると連行……もとい木乃香の部屋まで引きずられていく刹那。
冷静怜悧な木乃香の護衛……そんな刹那は木乃香に完膚なきまでに打ち砕かれていた。
 
 
 
 
「ほな、せっちゃんはとりあえずそっちな〜」
「え、いえ、お、お嬢様のベッドにだなんてそんな……」
 
 
 
 
さすがにそれは、と刹那が反論する前に、木乃香は問答無用でぽいっと刹那をベッドの中に放り込んだ。
押さえされていた首根っこは開放されたが、結局刹那は飼い主の意向には逆らえないらしい。
 
 
 
 
「う、お、お嬢様……」
「んと、薬はこっち……あった、せっちゃんはいお水」
「あ、ありがとう、ございます……」
「にしても……頭痛いんやったら、無理してうろついとったらあかんえ?」
「す、すみません、ちょっと学園長に呼ばれていたので……あ」
「……ほぅか〜……後で叱っとくな?」
「あ、う……」
 
 
 
 
仕事の話だから具合が良くなくても刹那は出かけたのだろう。
ある意味学園長に非はないのだが、口を滑らせてしまった以上もうどうしようもない。
すみません学園長……刹那は心の中でだけ詫びた。
 
 
 
 
「……お嬢様」
「ん?」
「ありがとうございます……」
「……ええよ、せっちゃんやもん」
 
 
 
 
迷惑をかけてごめんなさい。
優しくしてくれてありがとう。
いつもいつも、大切に想ってくれて嬉しい。
刹那の一言に込められた想いを木乃香は正確に感じ取っていた。
二人が二人である所以。
薬のおかげで訪れた睡魔にさらわれながら、刹那は確かな絆を感じていた。
 
 
 
 
 ◇
 
 
 
 
「……あれ、何してるんですか明日菜さん?」
「ぼさっとドアの前に突っ立って何してるんでぃ姐さん?」
「あーやー……ちょっとね」
「?」
「(は、入るに入れない状況なのよね……)」
 
 
 
 
「むにゃ……せっちゃん……」
「おじょ……さま……すぅ……」
 
 
 
 
いつの間にか刹那の隣に木乃香も滑り込んだらしく、部屋の中では二人が仲良く眠っていた。
部屋に入れず締め出された明日菜は、食堂までネギとカモを引きずっていくのであった。

 

  
 

...Fin


 


あとがき(言い訳)

ども、ネギま……もといこのせつ&せつこのファンの皆さん、お久しぶりです!
mixiでこのせつを〜と言われたのでなんとなく思いつくまま書いてしまいました☆
てか、原作できゃーきゃー言いながら見てるうちにSS全然書いてなかったんですが……
最終更新日が2年前とかマジすみません(汗)
この一年半お仕事忙しい反動がもろに出てますね(--;)
まぁ今後も気がついた時にこそっとUPしてたりするので、よろしくお願いします〜(笑)

2009/10/10著


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