浴衣と花火と














「フェイトちゃんの髪って綺麗だよね」
「へ?」




突然後ろからかけられた声に振り向けば、なのははじっと私の髪を見つめていた。




「うー……やっぱり黒とか紺とか、似合うなぁ……」
「え、あ、う……?」




そう言って私の髪をいいなーいいなーと、なのははいじり始める。
確かに金色だから、暗色系の物に映えるけど、特に綺麗とかそういうんじゃないと思う……
とはなんだかんだ言いつつ、楽しそうに私の髪をいじっているなのはには言えなかった。
触れる口実がなんだっていいのは、私だって同じだし。




「でもそういうなのはの髪の方が、白とか明るい色に合うから、私はその方が羨ましいけどな?」
「えー、でもフェイトちゃんの髪の方が綺麗だよ」
「いや、なのはだよ」
 
 
 
 
それぞれに良さがあるんだから、とアリサとかにいつも怒られていたけれど、あれから十年以上たった今でも、時々こうしてお互いに譲らない。
現に白い浴衣に身を包んだなのはは、本当に可愛いし綺麗だし、亜麻色の髪がよく映える。
近年どちらかと言えば、綺麗の方に比重を置き始めたその姿に、出来れば他の人に見せたくないと思うのは、もう慣れっこの感情だった。
 
 
 
 
「他の誰にも見せたくないな……」
「う……それは私のセリフだもん」
「私は平気だよ、なのはしか見えないから」
 
 
 
 
にっこり笑って囁くと、いっそ面白いほどに顔を赤くするなのは。
こういうところは本当に昔と変わらない。
変わったのは、私が本心を照れずに言えるようになったことくらいだろうか?
……なのはの突飛な行動で、ドキドキすることは今も結構あるけれど。
 
 
 
 
「なのはママ、フェイトママー♪ 花火しようよー♪」
 
 
 
 
トコトコと花火を片手に、ヴィヴィオが私達のところへ駆けてくる。
さっきお祭りであれだけはしゃいできたのに、まだまだうちの娘は元気いっぱいだ。
 
 
 
 
「はやてちゃんが『おすそわけやー♪』って半分くれたの♪」
「そっか、はやてが」
「にゃはは、さすがはやてちゃん、ぬかりないね」
 
 
 
 
締めは花火やで!と笑うはやてが簡単に想像できる。
あっちも家族が増えて、毎日忙しいけど楽しそうだ。
アギトにして見ればめまぐるしい日々かもしれないけれど、きっとすぐに馴染むだろう。
 
 
 
 
「ロウソクどこだっけ?」
「食器棚の下の戸棚に入れてなかったっけ?」
「そうだったそうだった」
「……ねぇフェイトちゃん」
「つけないからね」
「むぅ……マッチかチャッカマン探してくる……」
 
 
 
 
ほんとに残念そうに火を探しに行くなのは。
お酒の席で貰うライターかマッチがあると思うけど、チャッカマンとかこっちに持ってきてただろうか。
というかチャッカマン懐かしい。
 
 
 
 
「……うん、でも私の資質は電気とか雷で炎じゃないって何度言えばいいのかな?」
 
 
 
 
私の魔力変換でバチっと火をつけちゃえばー、と割と本気で思ってるあたり、なのはは時々かなり怖い。
お手軽だし、火花出すことだってそりゃできるけど、飛び散ったら危ないって言ってるのにもぉ……
 
 
 
 
「……あ、ロウソクあった」
 
 
 
 
ごそごそと戸棚を漁ると白いロウソクが姿を現す。
非常用とこういう時用に常備はしてるけど、今度買い足しておこうかな。
 
 
 
 
「なのは、ロウソクあったよ。そっちは?」
「うん、こっちもあったよー」
「あ、水はヴィヴィオが用意してくれたのかな」
「うん、ちゃんとバケツにいれてきたよー♪」
 
 
 
 
はやくはやくー、と急かすヴィヴィオになのはと顔を見合わせて少し笑う。
最近学校に通い始めて随分しっかりしてきたけど、やっぱり子供だなーって、嬉しくなる。
まだずっと先のことなのは分かってるけど、出来るだけ長く子供でいてほしいと思うは、親ならではだろう。
 
 
 
 
「ねぇママ、この輪っかの花火はなに?」
「ん……あぁ、ねずみ花火だね。まだあるんだ」
「ふふ、フェイトちゃん最初どんな花火か分からなくて、火をつけたあと驚いて逃げ出したんだよねー?」
「うぁ、お、思い出させないでよ……」
 
 
 
 
そういえば海鳴で初めてこの花火を見た時、なんでこれがねずみ花火って言うんだろう、と近くでまじまじと眺めてしまったことがある。
地面に置いて火をつけるんだよー、とのことだったので、その通りにしたら、
勢いよく吹き出す火花で回りながら迫ってきたそれから、猛ダッシュで逃げたのはもうずっと前のことだった。
……よく覚えてるなぁなのは。
 
 
 
 
「だって、フェイトちゃんと初めて花火した時だもん」
「……うん、そうだね。あの時からなのはは可愛かった」
「フェイトちゃんだって可愛かったもん」
 
 
 
 
さっそく火をつけて、きゃーきゃー言いながら走り回る娘を見ながら、そっとなのはの肩を抱き寄せる。
あの頃は毎日が楽しくて幸せで、これ以上の幸せなんてきっと無いと思っていたのに、今の方がもっと幸せだなんて思わなかった。
 
 
 
 
「……こんなに幸せでいいのかな、ってたまに思うよ」
「ん……きっとヴィヴィオと、エリオやキャロが許してくれるよ? ……もちろん私も」
「……うん」
 
 
 
 
昔よりずっと増えた、たくさんの大切な物。
零さない様に抱き締めていて、と笑うなのはと出会えたことが、きっと一番の幸運だろう。
 
 
 
 
「ママ、次これしようー♪」
「ん、線香花火だね。普通は締めだけど……まぁいいか」
「よーし、じゃあ誰が一番長く持ってられるか勝負だよ」
「まけないよー?」
 
 
 
 
ほんとうにどうやって調達をしてきたのか、ねずみ花火だけじゃなくて、線香花火まで入っている。
案外ミッドにも売ってたりするんだろうか……今度売り場を覗いてみよう。
 
 
 
 
「……特大の打ち上げ花火! ……とかあっても買ってこないでねフェイトちゃん……」
「……はい……」
 
 
 
 
パチパチと燃える線香花火を片手に、こっちを見て苦笑するなのは。
口にしてないのに、どうして分かっちゃうのかな。
でもそれも愛だと思えば嬉しいから、別にいい。
 
 
 
 
「愛してるよ、なのは……」
 
 
 
 
だからそう囁いて、唇を優しく重ねた。
 
 
 
 
「やったー! ヴィヴィオのかちー♪」
「「あっ!!」」
 
 
 
 
その拍子にぽとりと落ちた二人の花火に、フェイトちゃんのバカー!と怒られた、三人で初めての夏の思い出。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

てことで夏コミコピー本に載せたSSを公開です。
後で公開してくれますよねー?……的なのをいただいたのでw

2011/9/4


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