チョコより君が














「……はい?」
「だーかーらー」
 
 
 
 
任務からの帰還早々、執務室の机に積み上げられた物を見た私は何ごとかと身構えた。
別に書類が山の様に積まれていたとか、そんな悲しい話じゃない。
いや、もしかしたらそっちの方がよかったかもしれない。
事務処理は大変になったかもしれないが、この不気味な状況よりはマシかもしれない。
――帰ってきたら机の上がチョコだらけだったなんて状況よりは。
 
 
 
 
「バレンタインだ、って言ってるじゃないですか」
「……え?」
「そういえば今日は2月14日でしたね」
「だからこうしてフェイトさんの机がチョコまみれなんですよー」
「えぇぇぇ……」
 
 
 
 
バレンタイン=チョコでいっぱい。
なんて図式が成り立つのは地球での話だと思うし、そもそも男じゃないんだけどとか、
いつの間にミッドなのにバレンタインがとか、ここ数年ほんとに思うんだけどなぜだろう。
広まるにつれだんだん増えていくチョコの数にも納得できない。
 
 
 
 
「フェイトさんはいい加減モテることを自覚するべきだと思います」
「いや、そんなこと言われても……」
 
 
 
 
自覚をもて、といわれてもいちいち自分がモテることを意識してる人とかきっと微妙だと思うんだ。
まぁ確かに同じ台詞を私は何回なのはに言ったかそれこそ分からないけど、それはなのはがちょっと、
その、天然さんな部分があるだけであってそこがまた可愛いあぁいや今はそんな話じゃないのだけれど。
 
 
 
 
「フェイトさん百面相してますよ……」
「うぇっ、いや、あの……んと、私がその、自覚したところで、特にこの状況が変わるわけじゃ……」
「気苦労が減ります、主に私とティアナの」
「あぁ、それは確かに……」
「えぇっ!?」
 
 
 
 
そう言ってあっさり反旗を翻すティアナ。
いやいやあのね、モテる云々以前に、私にとってバレンタインで重要なのは主に愛するなのはの機嫌で……
 
 
 
 
「って、あぁぁぁっ!?」
「な、なんですか!?」
「あ、フェイトさんまさか……」
「ど、どどど、どうしよう……」
 
 
 
 
なのはの機嫌、の部分で私はとても大事なことを思い出した。
そう、ものすごく大事だ。
なのに私はすっかり失念していた。
 
 
 
 
「……はっ、そうだ、あそこなら……ごめんシャーリー、ティアナ、今日はこれで解散解散で!」
「えぇぇぇっ!? な、なに行ってるんですかフェイトさん!?」
「やたー、さぁ帰ろうよティアナ」
「シャーリーさんっ!? だってまだ仕事が……って、フェイトさーんっ!?」
 
 
 
 
平気平気急ぎじゃないから、あとはよろしく、と二人に笑顔を見せてから私はとある場所へと駆けだした。
まだ間に合う、たぶん間に合う、間に合わなくても間に合わせる。
自らの失点を取り戻すべく、私は局内の廊下を(なるべく目立たない様に)疾走した。
――待っててね、なのは!
 
 
 
 ◇
 
 
 
「……それで?」
「えっと……」
 
 
 
 
目的を果たし帰宅した私の前に立ちはだかるなのは。
ただいまーと喜びも現わに抱きつこうとする私を軽くいなし、
すたすたとリビングへ行ってしまう背中を追いかけてみれば、待っていたのはこの状況で。
どうやら帰宅が遅くなったことを怒っているらしいなのはに事のあらましを語って謝ったものの、
更に冷たく、というか呆れた視線を投げ掛けられて私は大きくたじろいだ。
普段のなのはであれば私の帰宅時間にとやかく言うようなことはまずないし、特に嘘をついているわけでもない。
ちょっとはやての家に寄り道をしたというただそれだけだ。
納得がいくものが出来るまで時間を要したので長めの滞在にはなっちゃったけど。
 
 
 
 
「はやてちゃんだって迷惑でしょ」
「でもはやてだよ?」
「でもじゃありません!」
「はひっ、ごごご、ごめんなさい……」
 
 
 
 
でもはやてだしだけどはやてだしそれでもはやてだし、と言い訳すると、くわっ、となのはに一喝された。
この間はやてになのはの胸を揉まれた迷惑料だと安心して長居してたのに、当のなのははその辺の貸し借りは計算外だ。
いや私だって好きでなのはの胸を貸してるわけじゃないけどさ。
 
 
 
 
「まったくもぅ……フェイトママにチョコ渡すまで起きてる!って、ヴィヴィオ頑張ってたんだからね。
 それなのにフェイトちゃん、少し遅くなるって連絡くれたっきり音沙汰なしでしかも結局こんな時間だし……」
「う、そうなんだ……ごめん……」
 
 
 
 
眠い目を擦りながら頑張っていただろうヴィヴィオを思う。途中でもう一度連絡を入れるべきだった。
まだ寝ない、と言いつつここで寝てしまったに違いない。
悪いことをしたと思う。
その半面、自分を待っていてくれた娘を思うとどうしても頬が緩んだ。
 
 
 
 
「……どうしてそこで嬉しそうな顔しちゃうかな、もぅ……」
「い、いひゃいよにゃのは……」
 
 
 
 
フェイトちゃんがいけないんだもん、と言いながら私の頬を引っ張るなのは。
怒ってるんだからね、とアピールしているのかもしれないが、そんな姿も可愛らしい。
 
 
 
 
「……反省、してないでしょフェイトちゃん」
「だって……」
 
 
 
 
反省は、してる。
娘に多少なりとも無理をさせてしまったわけだし、残念にも思わせてしまった。
きっとなのはに対しても。
そんな自分の不注意に関してはもう少し気をつけるつもりだ。
だけど、さ……
 
 
 
 
「……なのはは、どうしてそんなに拗ねてるの?」
「……拗ねてないもん」
「本当に?」
「それは、だって……フェイトちゃんが……」
「うん……私が……」
「っ……私、だって……早く、フェイトちゃんに……」
「……うん……遅くなって、ごめん」
「フェイトちゃ……んっ……」
 
 
 
 
そんな風に君に拗ねられて、それを私が可愛いと思わないはずがないのに。
重ねた唇の柔らかさに軽く目眩がする。
私のシャツを掴むなのはの力が僅かばかり強くなる。
薄く開いた視界の先でぎゅっと目を瞑って頬を染めるなのはがいる。
それだけで早鐘のように鳴り始める心臓に困ったものだと思いながらなのはを抱く腕に力をこめた。
 
 
 
 
「っは……なのは……」
「ん……フェイトちゃん……」
「……チョコレート、もらっていいかな……?」
 
 
 
 
本当は先に君を食べたいけれど。
そう言ったらフェイトちゃんのバカ、という言葉と共になのはのチョコが口の中へと放り込まれた。
舌の上で溶けて広がるチョコの香りとその甘さ。
でもきっと君の甘さには敵わない。
チョコも溶けきらないうちに私は再びなのはに口づけた。

――ほら、君の唇の方が甘いでしょ……?

もう一度バカと言われて、今度はぐっと引き寄せられた。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

完結させるのを忘れてたキッドです……ご、ごめんなさい(汗)
いえ違うんです、ある程度書いたり頭の中でお話が出来上がると書いた気になって次へ行ってしまう悪癖がですね;;
あ、はい、いい訳です、ごめんなさい……(-◇-;)
えー、そんな感じで二カ月も過ぎちゃいましたがバレンタインSS完結です☆
終始ギャグ調、で行こうと思ったんですがなぜか尻尾で勝手にいちゃついておりました。
もの凄く優しい目で愛おしそうになのはさんを見てるフェイトさんが大好きです。
そしてそんなフェイトさんを前に拗ねながらも甘えるなのはさんとかいたら萌え死にします。
最近なのは同人も縮小気味だしそんなフェイなのを皆もっと量産してくれぇー!と叫んで〆ておく(笑)
ま、もちろん私は今後も書くけどね!☆

2012/4/29


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