ちゃっかり者

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「フェイトちゃ〜ん? コーヒーいる〜? ……って、あれ? いない……?」
 
 
 
 
庭の木々も色づき始めた秋、今日は久しぶりに私もフェイトちゃんもお休みで、
せっかくだからお家でのんびりしようねってことになっていた。
どこかに出かけてよかったんだけど、なんとなく今日はのんびりしたい気分だったから、二人でゆっくり過ごしていた。
 
 
 
 
「んー、さっき書斎に入って行ったはずなのにな……?」
 
 
 
 
そう言ってもう一度私は書斎を見回すけど、フェイトちゃんの姿はない。
特に隠れる様な場所もないし、どこかへ移動したらしい。
 
 
 
 
「はて、一階かな?」
 
 
 
 
主のいない書斎のドアを閉めて、私はフェイトちゃんの居場所に思いを巡らす。
二階は他にヴィヴィオの部屋と私達の部屋があるけれど、私達の部屋にはさっきまで私がいたわけだし、
そろそろ帰ってくるとはいえ、主不在のヴィヴィオの部屋を無断でうろついているとは考えにくい。
掃除に入ったりはするけど、思春期の娘の部屋を物色する父親の様な真似はしない……はず、たぶん。
 
 
 
 
「……ないと思う、きっと……うん」
 
 
 
 
……まぁあれだ、ヴィヴィオの年齢がもう少し上がって、それこそ誰かとお付き合い、
なんて話が出てくれば扉の前でウロウロするくらいはするかもしれないが、そういう無神経な事はフェイトちゃんはしないはずだ。
 
 
 
 
「……てことでヴィヴィオの部屋は置いといて……」
 
 
 
 
なんだか微妙に脱線してきた思考を修正する。
書斎にも私達の部屋にもフェイトちゃんがいないなら、フェイトちゃんはこの二階にはいないということだ。
となるとやはり書斎に入った後、一階に下りたのだろう。
 
 
 
 
「私も本読んでたから気付かなかったんだよね」
 
 
 
 
うんうん、と頷いてフェイトちゃんを探すために階段を下りて行く。
そう、はやてちゃんに借りた本が面白くてついつい熱中していたから気付かなかっただけだ。
けして私が鈍いからというわけではない。
ほら誰しも集中してる時は、周りの音なんて聞こえなくなっちゃうものだよね。
 
 
 
 
「……むぅ」
 
 
 
 
そんな誰に言い訳してるんだろう、と思うようなことをつらつらと考えながら階段を下りて行く。
そして一階につくと、一番可能性が高いと思われるリビングへ顔を出した。
 
 
 
 
「フェイトちゃーん、あのねー……って、やっぱりいない?」
 
 
 
 
ドアから顔だけ覗かせて、いるのを前提に声をかけたけど……今度もそこにフェイトちゃんの姿は見当たらない。
当然返事も返ってこないので、二回続けて浮いてしまった言葉にむぅと唸る。
 
 
 
 
「うー、どこ行っちゃったんだろうフェイトちゃん……んん?」
 
 
 
 
ひょっとして買い物か何かで外に出ちゃったのかな?
そう首を捻った拍子に、視界の端を見なれた金色がかすめていった気がした。
んんー?
 
 
 
 
「ひょっとして……あ、いた」
 
 
 
 
まさかと思い、こちらからは影になっていたソファの背から覗きこむと、ようやくフェイトちゃんを見つけることが出来た。
書斎から持ってきたのだろう、片手に本を持ったまま、ソファの上で気持ちよさそうに寝こけている。
……ちょっと可愛い。
 
 
 
 
「なんだっけ、無防備なのがまた可愛いとかなんとか……」
 
 
 
 
いつもキリッとしてる人がふとした拍子に見せる部分や、他人には見せない無防備さっていうのがまたツボなんやー……
とかなんとか、この間はやてちゃんがアニメを見ながら言っていた気がする。
つまりこういうことだろうか?
確かに安心しきった様子で、すかーと寝ているフェイトちゃんは可愛いし、うちでだから見せる姿なんだって思うと、やっぱり嬉しい。
 
 
 
 
「うーん……でも別にそれだけが好きってわけじゃないんだけどなぁ……」
「うん、なのはママはフェイトママの全部が好きなんだもんね」
「そうなの、時々ちょっと困るところもあるんだけど……って、ヴィヴィオ!?」
「うん、ただいまー」
 
 
 
 
フェイトちゃんのほっぺをつんつんしながらその姿を眺めていると、突然横合いからヴィヴィオの声が聞こえた。
えっ、と振り返るとにこにこしながらただいまーと言うヴィヴィオ。
どうやら一人でぶつぶつ言いながら、フェイトちゃんを眺めていたのを見られていたらしい。
 
 
 
 
「あ、でも私ちゃんとただいまも言ったし、足音もしてたからね。なのはママには聞こえてなかっただけで」
「あぅ……」
 
 
 
 
こっそり帰ってきたわけじゃないよー、と言われてしまえば、それはつまり私が、その、フェイトちゃんのことしか考えてなかったということで。
それはその、ちょっと色々恥ずかしいと言いますか……ふぇ、フェイトちゃんがこんなところで寝てるのが悪いんだよっ!!
 
 
 
 
「責任転嫁って言わない、それ?」
「うぅぅ……」
「フェイトママはよくやるけど、なのはママがやるのは珍しいね」
「だって……こんなにぬくぬくとフェイトちゃんが寝てるせいだもん……」
 
 
 
 
などどちょっと拗ね気味に言う私に、もぉーなのはママ可愛い〜、と抱きついてくるヴィヴィオ。
ソファの横で私はしゃがんでいたから、ヴィヴィオがおぶさるような形で乗っかっている。
うーん、大人モードの時は私より背が高いからあれだけど、普段はまだ小さいし最近は恥ずかしがってくっつく回数が減ったから、これはこれで新鮮かもしれない。
 
 
 
 
「ふふ、なぁにヴィヴィオ、ごきげんだね」
「そりゃあごきげんですよー、ママ達が仲良しなのは私だって嬉しいもん」
 
 
 
 
そう言って私の背中ではしゃぐヴィヴィオ。
フェイトちゃんが起きてたらまた、うちの娘は世界一ー!とか言いそうだね。
もちろん、私だってそう思うけど。
 
 
 
 
「あ、いけない、私これから練習があるんだった」
「ストライクアーツ?」
「うん、って言っても今日はノーヴェがいないから、アインハルトさんと少し練習するくらいなんだけどね」
「最近は暗くなるのも早いから、気をつけてね」
「はぁーい、じゃあいってきまーすっ」
 
 
 
 
大きく手を振って、わたわたと出かけて行くヴィヴィオ。
最近はまた一段と練習も楽しいみたいで、いつも遅くまで熱心にやっている。
やっぱりライバルが出来ると違うんだなぁって感じ。
案外私達みたいに、アインハルトちゃんがそのままヴィヴィオのパートナーになってくれるなら、それはそれでもいいかなぁ……なんて、フェイトちゃんがまた泣いちゃうか。
 
 
 
 
「さて……ヴィヴィオも出かけちゃったし、フェイトちゃんは寝ちゃってるし……私はどうしよう……?」
 
 
 
 
家でゆっくりしよう、とは言ったけど、別に買い物に出たりしちゃいけない、ってわけじゃない。
フェイトちゃんが寝ちゃってるなら、また本を読むなり外へ出るなりすればいい。
……でもなぁ……
 
 
 
 
「それはそれでもったいないというか……」
 
 
 
 
こんな風にのんびり過ごせる日はそう多くないし、せっかく揃ってお休みなのに、
一人で消化するなんてもったいない気がしちゃうんだよね。
かといってこのままフェイトちゃんの寝顔を見てるだけなのも……深く考えるとちょっと恥ずかしい気もするし。
 
 
 
 
「うーん……」
 
 
 
 
だからと言ってフェイトちゃんを起こすなんて、可哀相な選択肢は当然ないわけで、
さんざん迷った末に、私はソファの下部からベッド用の部分を引っ張り出した。
そして引っ張り出した部分にそのまま、ごろっと横になる。
 
 
 
 
「……」
 
 
 
 
可変式とか最近のソファは便利だな、なんて思いながらフェイトちゃんの寝顔をじっと眺める。
……うーん。
 
 
 
 
「……なんか、違う……」
 
 
 
 
しばらくその上で向きを変えたり少し移動してみたり、落ち着く場所を探してみるけど何かが違う。
これじゃあダメだ、とせっかく引っ張り出した部分をえいやとしまうと、フェイトちゃんの手から本を抜き取り、
ぐいぐいとフェイトちゃんを少しばかりソファの奥へと押しやった。
そして僅かに空いたソファのスペースに私は自分の身体を滑り込ませた。
 
 
 
 
「……うん」
 
 
 
 
ここがいい。
かなり狭いけどやっぱりここが一番落ち着く。
大きめのソファとはいえ、窮屈になってしまったフェイトちゃんにはちょっとごめんなんだけど。
 
 
 
 
「……でもたぶん怒らない……と思う」
 
 
 
 
きっとフェイトちゃんだって、この方が喜んでくれるはず、なんてちょっと自惚れながらフェイトちゃんの隣をキープする。
寝顔を見るのも好きだけど、くっつくのはもっと好き。
せっかくお休みなんだから、少しくらい私から甘えたってたまにはいいよね。
 
 
 
 
「ふぁ……ふふ、おやすみフェイトちゃん、大好き……」
 
 
 
 
騒がしくてもすやすやと眠り続けるフェイトちゃんに、こっそりと呟いた。



...To be Continued


リリマジ12の新刊予定のSSより前半部の抜粋です。
え、あぁうん、ここで終わりじゃなくて続きありますよ?(笑)
ある意味後半はいつも通りのギャグバトルという内容ですが……
うん、おバカなフェイトさんとはやてさんを書くのがうちは一番しっくりくると、後半部を書いててよくわかりましたw
ちなみにタイトルのちゃっかり者、も後半部で明らかになりますw
落とさないように頑張るから生温かい期待でお待ちくださいませ〜(笑)

2011/10/12


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