寒い朝でも














眠い、寒い、ツライ。
そして何よりとにかく寒い。
寒いったらほんとに寒い。
 
 
 
 
「うー……」
 
 
 
 
凄く大事なことなので三回言ってみたものの、なんだか余計寒くなっただけな気がするのはなぜだろう。
気の持ち様とかはやてちゃをも言ってたしここは暖かくなるようなことでも考えるべきなのだろうか。
 
 
 
 
「暖かくなるもの暖かくなるもの……すー……はっ!?」
 
 
 
 
かっくん、と落ちた意識をぎりぎりで呼び戻す。
あぶない、毛布から出るために頑張っているとこなのに寝てしまってはどうにもならない。
あぁもう、なんで冬の朝ってこんなに寒いのかな!
 
 
 
 
「フェイトちゃんいないし!」
 
 
 
 
半ばやつあたり気味に隣にいないパートナーの名前をくわっと叫ぶ。
そう、フェイトちゃんは昨日帰ってこなかった。
長期航行からは戻ってきているものの、イコールお休みできるわけじゃない。
煩雑な書類仕事は多々あるし、執務官という役職柄あちこちの部署からひっぱりだこだ。
フェイトちゃん綺麗だし。
 
 
 
 
「……むぅ」
 
 
 
 
そこまで考えてまたちょっとイラッとする。
きっとまた昨日も駆り出された部署で皆の視線を集めていたに違いない。
当の本人はきっとその意味にも気づかずに。
見ないで、なんて言うつもりはない。
でも私のフェイトちゃんだから、と言いたくなる時がないわけじゃない。
 
 
 
 
「……起きよ……」
 
 
 
 
そしてようやくもそもそと毛布の中から這い出すことに成功すると、なんだかぐちゃぐちゃしてきた思考を振り払うように立ち上がる。
……どうやら思った以上にフェイトちゃんが隣にいなかったのがショックだったらしい。
いないことの方が多いのに、戻ってきてる時くらいは一緒にいたいなって思っちゃう。
娘ができてもその思いは変わらない。
大切に思う人の場所が増えただけで、それで今まで大切に思ってた人への愛情が目減りするわけじゃないんだと知った。
 
 
 
 
「つまりフェイトちゃんがいないと困るんです……くしゅんっ」
 
 
 
 
毛布から這い出した先でまたぼやけば、今度こそ私の口からはくしゃみが飛び出した。
暖房をつけて寝たって暖かい空気は上へ上へと向かうもの。
天井付近はきっと暖かいのだろうけど、下の方はそうもいかない。
春が近づきだいぶ暖かくなってきたはずだけど、合間合間にこうしてひたすら寒い日があるのはなぜだろう。
そういう気候だから、と言われればそれまでだけど、お断りしたいなーというのが本音である。
……油断するとベッドの中に逆戻りしちゃいそうだし。
 
 
 
 
「ダメ、二度寝危険、今日もお仕事」
 
 
 
 
そんな弱気な思考を首を振って追い払う。
万年人手不足の管理局、おいそれと遅刻や欠勤なんて出来るはずもない。
寒いから休みますなんてなおのことありえない
 
 
 
 
『Good morning,Master?』
「うん、おはようレイジングハート!」
 
 
 
 
こういう日はちょっと無理矢理にでもテンションをあげていこうと、明るい声でレイジングハートに呼びかけて伸びをする。
そんな私の気持ちを察してか、レイジングハートも小さな羽を広げて浮かび上がると何も言わず寄り添うように私の肩に降り立った。
 
 
 
 
「今日の訓練は陸士部隊に直行だっけ?」
『Yes, a car is a near place』
「そっか、じゃあ車で行こうかな」
 
 
 
 
今日の予定をレイジングハートと確認しながら私は手早く教導隊の制服を身に纏う。
慣れ親しんだ白と青のそれを着ると、いつも私の精神はカチっと音を立てたようにお仕事モードへと移行する。
十二年も続けているのだからもう条件反射の域だと思う。
 
 
 
 
「うーん、でも車だと午後は本局によるから帰りが遠回りだね……」
『If it is it……』
「レイジングハート?」
『……I look at the state of Vivio』
「……へ?」
 
 
 
 
フェイトちゃんに運転させてばかりでは、と私も免許をとったので、場所によっては車で出勤することも多くなった。
だから今日も直行で向かう陸士部隊に車で行こうかとレイジングハート相談をしながら寝室を出たのに、階段を下りている途中で急に押し黙ったレイジングハートは、何故かヴィヴィオの様子を見に行くといいだして、二階へと一人(?)で飛んで行ってしまった。
……ヴィヴィオの様子、って……何が?
 
 
 
 
「もぉー、なんなのレイジングハートってば……あれ?」
 
 
 
 
時間的にまだ寝ているはずのヴィヴィオの様子を何故見に行くのかとか、そもそもその前の変な間は何とか、聞きたいことはあったけど、こういう時のレイジングハートは意外に頑固で、聞いてもあまり教えてくれない。
誰に似たんだか、と少し頬を膨らませて階段を下りた私は、ふと一階の部屋が暖かい事に気がついた。
あれ、私暖房つけて寝たんだっけ?
 
 
 
 
「んー……あっ」
 
 
 
 
記憶にないなーと首を捻りながらキッチンへ向かうと、その答えはすぐに見つかった。
黒い制服とその背中で光る眩い金色。
 
 
 
 
「フェイトちゃん……」
「……ん? あぁ、おはようなのは」
 
 
 
 
愛用のマグカップとコーヒーを手に振り返ったフェイトちゃんが私を見てふわりと笑う。
ちょっと疲れた、って顔で、でもとても嬉しそうに。
 
 
 
 
「……うー……」
「どうしたのなのは?」
 
 
 
 
ちょこん、と首を傾げるフェイトちゃん。
あ、その仕草可愛い。
……いやいや、そうじゃない。
 
 
 
 
「……フェイトちゃん、ずるい」
「……え?」
 
 
 
 
コーヒーが? と言われて、そうじゃなくてと首を振る。
……だってだって、こんなのずるい。
さっきまで私はすごくフェイトちゃんに会いたくて、目がさめていないのが寂しくて、早くフェイトちゃんに会いたいなって思っていたのに、こんなにあっさり私をあったかくしてくれちゃうなんてずるいと思う。
こんな風に部屋を暖かくしてくれていたり、朝ご飯の準備をしてくれていたり、フェイトちゃんみたいに私は今日、まだ何もしてあげれてないのに、なんでそんなに嬉しそうに笑っちゃうかなフェイトちゃん。
私の方がずっとずっと、フェイトちゃんでいっぱい幸せになっちゃってるんだからね、ちゃんと分かってるフェイトちゃん?
 
 
 
 
「……えーと……それってつまり……なのはは私が大好きだと……あいたっ」
 
 
 
 
それは言わないお約束ってやつなの、とぺちっとフェイトちゃんの肩のあたりを軽く叩いた。
さらにふにゃふにゃっと笑うフェイトちゃん。
 
 
 
 
「……私の方がフェイトちゃんのこと好きだもん」
「む、私の方がなのはを好きだよ」
「私だもん」
「絶対私」
「フェイ……んむっ」
 
 
 
 
…………
……ちゅーで塞ぐとか卑怯だと思うんです。
 
 
 
 
「……コーヒー……」
「私はなのはだった」
「……うー」
「あはは、ごちそうさまなのは」
 
 
 
 
ばか、っともう一回ぺちっと叩いてから、我慢できなくてフェイトちゃんにくっついた。
胸一杯に広がるフェイトちゃんの香りに離れたくないなって思っちゃう。
どこにいっちゃたのかな、私の鉄壁のお仕事モード?
 
 
 
 
「なのは、遅刻しちゃうよ?」
「……あと五分」
「……お出かけの予定が二時間くらい繰り下がっちゃいそうだよなのは?」
「……ふぇいとちゃんのえっち……」
 
 
 
 
肩にくっつけた頭でぐりぐりするけど、フェイトちゃんはまた嬉しそうに笑うだけだった。
本当にずるいんだから、もぅ……
 
 
 
 
「あれ、そういえばレイジングハートは?」
「……それもフェイトちゃんのせいだもん」
「へ?」
 
 
 
 
……なんのことはない、よく分からないことを言いながら二階に戻って行ったレイジングハートは、フェイトちゃんの帰宅に気がついて気をきかせてくれただけなのだ。
インテリジェントデバイスが凄いのか、それともうちのレイジングハートが凄いのか。
きっと後者だと思えるから誇らしい。
 
 
 
 
「んーっ……よし、フェイトちゃん充電完了!」
「ふふ、どういたしまして……五分で足りたの?」
「フェイトちゃんは五分で足りちゃうの?」
「出来れば一生分くっついていたいかな」
 
 
 
 
可能なら来世とその先も、なんて笑うフェイトちゃんに本当にそうだったらいいなって思って私も微笑む。
世界や時代が違っても、私がフェイトちゃんを、そしてフェイトちゃんが私を見つけてくれたら凄く嬉しい。
もちろん、そのためにはまず今のフェイトちゃんといる時間を大切にたくさん過ごさないとって思うけど。
そんな風にもっともっぽいことを考えながらフェイトちゃんから離れた私は、フェイトちゃんが用意してくれた朝食を綺麗にぺろりと平らげた。
 
 
 
 
「ごちそうさまでした……ありがとうフェイトちゃん♪」
「お粗末さまでした……まぁ、簡単なサンドイッチだけどね」
「美味しかったんだからいいの!」
「あはは、ありがとうなのは」
 
 
 
  
だって本当に美味しかったんだよ、って言ったらフェイトちゃんはまた目を細めて微笑んだ。
……朝からこんなに幸せでいいのかな、私?
 
 
 
 
「今日は外寒いけどね」
「うっ……が、頑張るもん」
 
 
 
 
寒いのは苦手。
寒いのは嫌い。
でもフェイトちゃんが待っててくれるなら頑張れる。
 
 
 
 
「……なのはは本日、帰ってきたらフェイトちゃんを所望します」
「ぷっ……ふふ、いいよ、君の望むままに、なのは……」
 
 
 
 
いつだって一番に、フェイトちゃんのところに帰ってくるから。
 
 
 
 
「じゃあ……いってきます、フェイトちゃん」
「いってらっしゃい、なのは」
 
 
 
 
……ちゃんと私のこと暖めてね、フェイトちゃん?



 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)


4/7リリマジ15の新刊に収録したSSの一つです☆
これと他に8ページのが一本と、4ページの表題作が入ってます♪
表紙だけじゃなくて口絵まで描いてくれた七色さんにマジ感謝!
うだうだが一気に吹き飛ぶ素敵ななのフェイ表紙でございます☆
中身は全力でうちのなのフェイですが(笑)とりあえずなのフェイはお互いを好きするということでーww

2013/4/6


リリカルなのはSS館へ戻る

inserted by FC2 system