急に降るから通り雨と言うわけで。
「ん？」
「わ、降ってきた!?」
「わわ……と、とりあえずあのお店の軒下まで行こう！」
なのはとの下校中、なんだか空が危ないぞ、と思い始めた矢先のことだった。
学校を出るところまでは普通に晴れてたのに……気がついたら空がどんよりとしていて。
ちょっと急ごうか、そう話を切り出す前に降り始めてしまった。
「ふぁー……びっくりした」
「少し濡れちゃったね……」
「うん……ん、もぅフェイトちゃん私より自分のこと拭かないと」
「え、うん……でも気になって」
「むぅ、フェイトちゃんはすぐ人のことばっかりなんだから……」
「いや、だって……それはなのはだからだよ？」
「ぅ……フェイトちゃん、それ、ずるい……」
「ほんとだよ？」
「うぅ……ありがとう……」
「うん♪」
むぅ、と顔を赤くするなのはの髪の雫をハンカチで拭う。
別に誰にでもってわけじゃないし、私が優しいとしたらなのはにだけだ。
「はい、おしまい」
「ありがとうフェイトちゃん。じゃあ次はフェイトちゃんね？」
「え、私は別に……わわっ!?」
自分の分は自分で、と思っていたのだけど、あっさりハンカチを取り上げられてしまった。
嬉しそうに私の髪を拭くなのは。
可愛いなぁと思うけど、されるのはやっぱりちょっと恥ずかしい。
「な、なのは、後は自分でやるから……」
「えー」
「ほらこうして……ね、もう大丈夫だから」
「むぅ……私だってフェイトちゃんに色々してあげたいのに……」
「うぐ……」
私だってしてほしいけど危ないんだよ、主に理性とか理性とか理性とかが。
……うん、まだ大丈夫、落ち着け私。
「こほん、えっと……とりあえず折り畳み傘はあるし、それで帰ろうか？」
「うん、そうだね。早く上がりそうな気もするけど、傘はあるわけだし」
「長引くと帰り遅くなっちゃうしね……ん？」
「フェイトちゃん？」
ほらあれだ、お家に帰っちゃえばあんなことやこんなことも……なんて全然考えてないよ私。
……ほんとだよ！
とかなんとか、誰にともつかない言い訳を心中で繰り返していると気がついた。
確かに持って出た……気がする折り畳み傘。
なのに開けた鞄の中にその姿は存在していなかった。
……え、なんで？
「あれ、おかしいな……？」
「フェイトちゃん、傘ないの？」
「うん……確かに持って出たと思うんだけど……？」
「んー……じゃあ、私の傘で一緒に帰ろ？」
「うん、ごめんねなのは……」
「ううん、むしろフェイトちゃんと相合傘で嬉しいかも♪」
「はぅ……」
にぱぁと嬉しそうに笑うなのは。
ぐらっと揺れる理性と一緒に、花とかきらきらした物が散って見えるのは気のせいだろうか？
あぁもう、どうしてそんなに可愛いのかな君は。
「じゃ、じゃあ私が持つよ……」
「えへへ、お願いねフェイトちゃん♪」
「う、うん♪」
ばくばく言い出した心臓を意識の端へと追いやって、なのはから受け取った傘をさして歩き出す。
家までは十分少々。
長いような短いような、いつもと少し違う下校の風景を楽しむ私となのはだった。
……お家帰ったら我慢しなくてもいいですか？
◇
「……ただいま」
「おじゃましま〜す」
ぎぎぎぎっ、と錆ついた動きで玄関のドアを私は開けた。
背後でにこにこしているなのははとても元気そうだが、逆に私は少しやつれたような気がしなくもない。
それと言うのもなのはが「狭いからくっつかないと濡れちゃう」とか言いながら腕を組んできたり、
そうかと思えば「フェイトちゃんいい匂いがする♪」と擦り寄ってきたりと……がりがり理性を削ってくれたからに他ならない。
これ、天然って言わなかったらなんていうんだろう、ほんと……はぁ。
「おっ、おかえりフェイト。なのはもよく来たね」
「ただいまアルフ」
「こんにちはアルフさん」
「あれ、なのはの傘で帰ってきたのかいフェイト？ ははん、さてはなのはと相合傘がしたくてわざと傘が無いとかいったんだね？」
出迎えてくれたアルフはなのはの傘を一瞥すると、私に向かってニヤリと笑った。
ちょ、何そのはやてみたいな嫌な笑み。
「え、そうなのフェイトちゃん？」
「ち、違うよ！ いや、あの、相合傘は嬉しいけど……じゃなくて！ ほんとに傘無かったんだよ!?」
「そうなのかい？ でもフェイト、朝確かにスポーツバッグに傘入れてやしなかったかい」
「だから鞄には……スポーツバッグ？」
言われてはたと気がついた。
そう言えば今日は持ち帰るものがあったから、スポーツバッグも下げていた。
え、てことは……!?
「……あった……」
「あー……」
やぁ、とバッグから顔をのぞかせた私の折り畳み傘。
君のおかげでなのはと相合傘が出来たと喜ぶべきか、それとも自分の抜け具合を悲しむべきか。
どう頑張っても前者に傾いてしまう自分が情けない。
「えと……わ、私はフェイトちゃんがうっかりさんでも大好きだからね！」
「……ありがとう……」
楽しいハプニングならうっかりだって悪くない。
だけど、うん……せめてもうちょっとだけ気をつけよう、と思うのだった。
...Ｆｉｎ
あとがき（言い訳） 一生いちゃついてればいいぞこんちくちょーとかニヨニヨしつつ書いているキッドです♪
精神リンクが繋がってるアルフさんもとても幸せな日々に違いないｗｗｗ
七色さんと打ち合わせた時、こんな雨の日はきっと相合傘だよ、なんて会話したので書いてみました。
それにしてもフェイトさんのうっかり、いつ直るんだろうね？
直らないでくれると嬉しいなぁ、可愛いし（笑）
2010/10/24著
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