お約束














5月。
春も過ぎて緑が眩しいこの季節になると、毎年決まってあるものが発生する。
それはゴのつく恐怖の大魔王……も無くは無いが、北海道以外の全世帯共通のお悩みの方ではない。
 
 
 
 
「なのは……」
「……フェイトちゃん」
 
 
 
 
ある時は後輩のみならず学校の憧れ、またある時は若手NO1の呼び声も高い優秀な執務官。
そしてまたある時は恋人の前で制服の胸元を肌蹴させる女子中学生……フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。
目下、そのお悩みはそんな彼女をも直撃していた。
 
 
 
 
「……暑い……」
「……知ってる……」
 
 
 
 
ぼんやりと呟くフェイト。
それにまたうんざりした声音で返すなのは。
 
 
 
 
「暑い、ね……」
「知ってるってば……」
 
 
 
 
大事なことだから二回言いました、と言わんばかりのフェイトに、なのはもテーブルへ突っ伏した。
そう、この時期のお悩みと言ったらこれ。
季節度外視の異様な暑さ。
別に冬も過ぎたんだから暑くなってくれたって構わない。
でも物には順序ってものがあるわけで、春と梅雨をすっ飛ばして夏になるのはいただけない。
夏服の準備とかその他もろもろが必要なのだ人間には。
 
 
 
 
「毎年のことやん……慣れや、慣れ」
「……無理…………」
「最近諦め早いなフェイトちゃん……」
「だって暑いんだもん……」
 
 
 
 
そうしてまた、ぐたっと椅子に身体を預けた。
聖祥の王子様、などときゃーきゃー騒ぐ学生達にこの姿を見せてやりたいとなのはとはやては心底思った。
 
 
 
 
「……まぁ、それはそれで可愛いとか言い出しそうやし、なのはちゃん的には独り占めの方がお得やな」
「……はやてちゃん」
 
 
 
 
くくっ、と背を丸めてはやてが笑う。
その姿をジロっと力なく一瞥したなのはは溜息をついた。
まるっきり外れではないのが少し悔しい。
 
 
 
 
「まぁええやん、梅雨に入れば多少はマシや」
「梅雨に入ればね……ん?」
「んぉ、梅雨とはちゃうけど降りそうやな」
 
 
 
 
ふと目を向ければ外はいつの間にか曇り空になっていた。
日が陰って冷たい風が吹き始める。
慌てて洗濯物をしまうはやてをなのはも手伝う。
 
 
 
 
「これで全部?」
「そやね、布団は出してへんし……」
「あ、降ってきた」
「ギリギリセーフやな。ありがとうな、なのはちゃん」
 
 
 
 
二人が洗濯物を取り込むのを見計らったかのように雨が降り始める。
とりあえず、と暫定的にお風呂場に吊るして戻ってくると、室内の気温はさっきよりも下がっていた。
涼しい、を通り越してむしろ寒い。
 
 
 
 
「うぁ、寒い……」
「結構たくさん降ってきたからね」
「フェイトちゃん……」
「こっちへおいでよ、なのは」
 
 
 
 
私が温めてあげるよ。
……なんて晴れ晴れとした笑顔で言われたなのはは、なんとなくちょびっとイラッときた。
さっきまであんなにぐだぐだだったのに、なんかいつの間にか王子様に戻っている。
 
 
 
 
「お、なんやフェイトちゃん復活か」
「……はやてちゃーん」
「んー?」
「身体貸してー?」
「ぶほわぁっ!?」
「なのはっ!?」
 
 
 
 
なんか凄い言葉が聞こえた。
そうフェイトとはやてが思った時には、トコトコと近寄ったなのはにはやてはすっぽりと包まれていた。
……ゆたんぽ?
 
 
 
 
「あー、はやてちゃんあったかい♪」
「えー、あー、んー……?」
「なななな……」
 
 
 
 
ぎゅ、と抱きつかれればはやてだって悪い気はしない。
それになによりあったかい。
が、しかし、目の前でぷるぷると震えているフェイトを見ればそんな気分も遥か彼方へ吹き飛んだ。
 
 
 
 
(……あかん、死ぬかも……)
 
 
 
 
ギラっと親友の目が光った瞬間、はやて自分の命の危険を間近で感じた。
若くして云々もだが、死因が親友達の痴話げんかに巻き込まれたからだなんて虚しすぎる。
 
 
 
 
「はや……」
「フェイトちゃん」
 
 
 
 
声を発しようとしたフェイトを遮ってなのはがフェイトの名を呼んだ。
絶妙なタイミングでかぶせられ、ぐっ、とフェイトは言葉に詰まる。
その様子をじっと見つめてからなのはは言った。
 
 
 
 
「フェイトちゃんはあとでね?」
「はぅ……」
 
 
 
 
その言葉にがーん、と、やったー、がない交ぜになったような顔をするフェイト。
有無を言わせぬなのはの言葉には頷く他無いのだが、喜ぶべきなのか悲しむべきなのかフェイトにとっては本当に悩ましい。
反対にしてやったりななのははとても機嫌がよさそうだ。
 
 
 
 
(……とりあえず生きながらえそうやけど……)
 
 
 
 
フェイトの様子に一応命の危険は去ったようだが、なのははもうしばらくはやてを離す気はないらしい。
おかげで背中のふくらみが気になって仕方がない。
 
 
 
 
(梅雨に入るまでこんな気候なんやろな……)
 
 
 
 
役得もあるが命の危険も付き纏う。
身の安全と洗濯物の敵、自分で選ぶ訳ではないがどっちも微妙だと溜息をつく八神家の主であった。



 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

5月中にいつものぐだぐだなフェイトさんを書こうと思ったんですが、
先日一気に気温が下がってさむーい!だったのでこんな内容になりましたごきげんようw
ちなみに場所は放課後のはやてさんのお家です。宿題中。
役得ととばっちりなはやてさんでしたw

2011/6/3


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