それも愛、これも愛?














左手に巻かれた時計。
春に壊れた前の時計の代わりに、なのはがプレゼントしてくれた物だ。
その時計のディスプレイに刻まれた現在時刻は、既に午後の7時。
夏ならともかく、冬を迎えたこの季節、4時を過ぎれば日が落ち始める。
5時を過ぎればもう辺りは暗くなる。
だというのに、うちの娘は……
 
 
 
 
「なんっっっっっで、帰ってこないのかな!?」
 
 
 
 
半ば叫ぶように出た言葉と共に、吐き出した息が白く染まる。
そう、こんなに寒いというのに愛娘は一体全体、いつ帰ってくるのだろうか。
ましてや今日は大晦日。
せっかくなのはと準備をした夕飯と、その後の年越し蕎麦が待っているというのに、こんな日まで訓練を怠らない娘が誇らしいやら、寂しいやら。
身体と一緒に、心配で心も凍えてしまいそうだ。
フェイトママ泣いちゃうよっ!?
  
 
 
 
「……だから、さっき訓練が長引いて少し遅くなる、ってメールがあったじゃないフェイトちゃん」
「あったよ、あったけど……それからもう30分も経ってるんだよ、遅いと思わない!?」
「だからって、家の前でずっと立って待ってることないと思うよ」
「そう、だけど……でも、ヴィヴィオは可愛いから、どこかで悪い人に……」
「クリスもいるし、ヴィヴィオならそんなに簡単に負けないと思うけど……それに、そんな危ない人だらけじゃ困るよフェイトちゃん」
「うぅ……だって……」
「もぉ……心配してるのは分かったけど、ほどほどにね、フェイトちゃん」
「うん……」
 
 
 
 
玄関から私を見ていたなのはが見かねて、やんわりと私を押し止める。
そうじゃないと、私がいつ娘のところに飛んでいってしまうか分からないからだ。
右手にバルディッシュを握っていることもバレている。
皆に過保護と言われようと、門限は夜6時。
冬に至っては5時。
これは絶対に譲れない。
日没から二時間以上も暗くなった外をウロウロするなんて、誰かが一緒ならともかく、10歳の娘が一人だなんて冗談じゃない。
もちろん、その、玄関先で私が待ってたってヴィヴィオの帰りが早くなるわけじゃないけれど。
そんな私の心情も理解した上で、外でやきもきするのを苦笑の一つで許してくれるなのは。
しっかりと手綱を握られているようで、それが怖いようなくすぐったいような……幸せなのだから、間違ってはいないはず。
 
 
 
 
「……くしゅんっ!! ……うぅ、で、でもやっぱり寒いかも……」
 
 
 
 
そろそろ帰ってくるだろうと、台所に晩御飯を出すために戻ったなのはとは別に、私は玄関の前に居座り続けた。
この寒さに私がギブアップして中に入るのが先か、それともヴィヴィオが戻ってくるのが先か。
更にそれから5分たち、10分たち……15分が経過しようとしたところでようやく待ち望んだ姿が現れた。
 
 
 
 
「ただいまぁ〜……って、何してるのフェイトママ」
 
 
 
 
「おかえり……門限破りの愛娘を待ってたんだよ、ヴィヴィオ」
「あぅ……ご、ごめんなさい」
 
 
 
 
むすっ、と事実を告げると、ばつの悪そうな顔をするヴィヴィオ。
訓練が長引いた、とはいえさすがに遅くなりすぎたという自覚はあるようだ。
本人に自覚がある以上、加えて私から言うことは今のところはない。
私は無事に戻ってきた娘の頭を撫でると、嬉しそうに目を細めるヴィヴィオの手を引いて家の中に入った。
 
 
 
 
「あ、おかえりヴィヴィオ。お腹すいたでしょ、ご飯出来てるよー」
「ただいまなのはママ。うん、もうぺこぺこ。今日のご飯は何?」
「んー? 今日はねぇ……フェイトちゃん?」
「……ぇ?」
「……ねぇ、大丈夫フェイトちゃん。なんだか少し、顔色悪いよ?」
「そ、かな……?」
 
 
 
 
帰宅したヴィヴィオを迎えたなのはと、当のヴィヴィオのやり取りをぼんやりと眺める。
けれど、穏やかな幸せの空気を堪能する私を見て、突然なのはの表情が心配そうなそれに変わった。
確かに寒い中外に立っていたので、だいぶ身体は冷えていたけれど、部屋の中に入ったおかげで今は随分とぽかぽかしている。
別段具合が悪く感じる要素はどこにも……ん?
……ぽかぽか? こんな短時間で?
 
 
 
 
「……フェイトちゃん、熱、あるよね?」
「え、え?」
「……クリスのサーモチェックでも出てる」
「は、ぅ……」
「もぅ! だからほどほどにって言ったのに!」
「フェイトママのバカ!」
「ひぅ、ご、ごめん……わわ、ちょ、ちょっと待って……」
「待ちません。ヴィヴィオ、毛布まくって」
「うん、なのはママ」
 
 
 
 
額に当てられたなのはの手のひらが気持ちよくて、ついうっとりしていたらちょっと棘のある声が耳に届く。
見ればなのはだけでなく、ヴィヴィオもスキャンを走らせたらしく、私は熱があるという診断に落ち着いたようだ。
熱が出ても不思議じゃない状況に、さっきまでわが身を置いていた私としては、最早返す言葉は残っていなかった。
引きずるように二人に寝室へ連れて行かれ、問答無用でベッドに寝かされた。
 
 
 
 
「あの、なのは、ヴィヴィオ? と、年越し蕎麦は……」
「熱が下がらなかったらダメ」
「そんなぁっ!?」
「ほらフェイトママ、薬飲んで」
「暖かくして一眠りすれば大丈夫だよ。風邪とかじゃなさそうだし」
「大人しく寝ててねフェイトママ、私の代わりにクリスがそばについててくれるからね」
「うぅ……ありがとう……」
 
 
 
 
二人の連携プレイに、なすすべなくやり込められる。
私が仕方なく毛布に包まると、大丈夫? というように眉を下げたクリスが目の前にやってきた。
 
 
 
 
「うん、大丈夫だよ」
 
 
 
 
そう笑って応えると、よしよしと私の頭を撫でるクリス。
なんだかなのはやヴィヴィオにそうされているようで、私は穏やかに眠りについた。
 
 
 
 ◇
 
 
 
ぴしっ。ぱしっ。ぽかぽか。
 
 
 
 
「うぅ〜ん……なに〜……?」
 
 
 
 
夢も見ないくらいにぐっすりと眠っていたのに、私の頭を叩く何者かによって、眠りから覚まされる。
そして視界いっぱいに広がるウサギのぬいぐるみ。
 
 
 
 
「うわっ!? ……あ、なんだクリスか……」
 
 
 
 
跳ね起きた私に、おはようというように片手を上げるクリス。
その手がちょいちょいと時計を指し示す。
ディスプレイには23時50分の文字。
どうやら起こしてくれたらしい。
 
 
 
 
「ありがとうクリス、助かったよ」
「フェイトママ、そろそろ……あ、もう起きてた?」
「うん、クリスが起こしてくれたよ」
「そっか、ありがとうクリス」
 
 
 
 
えへん、と胸を張ったクリスやヴィヴィオと一緒に、寝室を出てリビングへ戻る。
ちょうどなのはが蕎麦をテーブルに出しているところだった。
 
 
 
 
「あ、来たね二人とも。うん、フェイトちゃんも顔色いいね、よかった」
 
 
 
 
微笑むなのはに笑みを返す。揃ってテーブルに着き、他愛ない話で今年を振り返りその時を待つ。
愛する人と、愛娘と迎える新年まで、あともう少し……

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

コミケ突発コピー用その一。
心配性なフェイトさんも愛ゆえに、フェイトさんをベッドに押し込んだなのはさん達も愛ゆえに。
よーするに家族でキャッキャうふふだわねww

2009/12/31


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