娘の企み














「ヴィヴィオー、宿題やったー?」
「んー、もうちょっと待って、これ読んだらやるから〜」
「これ?」
ふと気がつけば、リビングで雑誌を読みふけっているヴィヴィオ。
帰ってきてから部屋に戻った気配がなかったけど、案の定宿題はまだらしい。
友達から借りたのか、それとも自分で買ってきたのかは分からないけど、いかにも女の子という感じの雑誌を手にしている。
 
 
 
 
「……ねぇなのはママ」
「んー?」
「もしなのはママならさ、フェイトママからどこにデートに誘われたら嬉しいかな?」
「……はい?」
 
 
 
 
小首を傾げた娘に、私はずいぶんと間の抜けた返事をしてしまう。
いきなり何を言い出すのかな、うちの娘は。
突拍子のなさが話題のもう一人を思い出す。
出来るなら、そこはあまり似ない方がいいような気がした。
 
 
 
 
「やっぱり楽しいところかな? あ、それともムードのあるところ?」
「えーっと……」
 
 
 
 
矢継ぎ早に質問をするヴィヴィオに対し、返答に窮する。
フェイトちゃんに誘われたら嬉しいところ?
お互い何かと忙しい身。
正直なところ、一緒にお出かけできるならどこでもいいような気がしなくもない。
……まっすぐホテルとかに行かれたら、あまりのムードの無さに怒るくらいはすると思うけど。
 
 
 
 
「そうだね……欲を言えばやっぱり楽しみたいし、ムードも欲しいかな……」
「そっか〜、そうだよね〜」
「それで? いきなりそんなことを聞いたのは雑誌の影響?」
「うん、まぁ……」
 
 
 
 
後ろから覗きこんでみればデートスポットの紹介のページだった。
だからてっきり、それに感化されて身近な私達に置き換えただけなのかと思ったんだけど……
歯切れの悪い返事を聞く限り、それだけではないらしい。
 
 
 
 
「あ、分かった。ヴィヴィオも誰かデートしたい人がいるんでしょ?」
 
 
 
 
ズバリ的中だったのか、ヴィヴィオの頬がさっと朱に染まる。
初恋、かな?
 
 
 
 
「ち、違うよ! 別にそんなんじゃ……何笑ってるのなのはママ!?」
 
 
 
 
可愛い娘の慌てっぷりに思わず吹き出してしまった。
顔を真っ赤にして怒るヴィヴィオの頭を撫でるけど、機嫌を損ねてしまったせいかそっぽを向かれてしまう。
恋なのか恋じゃないかはともかくとして、誰か気になる相手がいるらしい。
……フェイトちゃんが聞いたら泣きそうだ。
 
 
 
 
「もぉー、ママ達のことなのに何で私の話になるのー」
「えー、だって気になるじゃない」
「うー……」
 
 
 
 
興味はある。
ヴィヴィオだって年頃なんだから、好きな人くらいいたっておかしくない。
学院の子だろうか?
それとも他で知り合った人だろうか?
フェイトちゃんなら半狂乱になりそうだけど、私は全然問題ない。
むしろヴィヴィオがどんな人を好きになるのか、中々予想しにくいだけに尚更気になる。
 
 
 
 
「……ダメ、内緒」
「教えてくれないの?」
「だって……なのはママに話すと、フェイトママに筒抜けになりそうなんだもん」
「……そうだね」
「でしょ?」
 
 
 
 
やはりヴィヴィオの懸念もフェイトちゃんらしい。
確かに聞いちゃったら、フェイトちゃんに話しちゃうかもしれない。
初デートが決まっても、後ろからついてこられたりしたらヴィヴィオも堪らないだろう。
 
 
 
 
「フェイトママって、ほんとパパなんだもん」
「あはは、エリオやキャロに対してはお母さんって感じなんだけどね」
「私に対してはなのはママがいるから、自分がお父さんの部分を埋めなきゃ、って思ってるんじゃない?」
「ひょっとしたらそういう部分もあるかもね……でもフェイトママは、ヴィヴィオが大切で大好きだから、いつもちょっと過保護になっちゃうんだよ?」
「……ちょっと?」
「えと……かなり……」
 
 
 
 
気になるのもまた愛していればこそ。
ちょっと……どころか、フェイトちゃんがかなり過保護なのもヴィヴィオを大切に思えばこそだ。
お土産と称して色んな物買ってきたり、スーパーてお菓子買い込もうとかしたりもするけど。
……来週出張だから、後で釘指しておかなくちゃね……
 
 
 
 
「……大丈夫、ちゃんと分かってるよ?」
「ふふ、ありがとうヴィヴィオ」
「うん。……さて、それじゃあ宿題やっつけちゃおうかな」
「どれくらいかかりそう?」
「んー、今日はそんなに無いから、一時間くらいで終わるよ」
「じゃあちょうどいいや。今ケーキ作ってるから、終わったらお茶にしよ?」
「ほんと!? よぉーし、やる気出てきた♪」
 
 
 
 
弾むような足取りで部屋に戻っていくヴィヴィオ。
ケーキ作戦成功、だね。
 
 
 
 
「さ、私もケーキとお茶の用意しなくちゃ」
 
 
 
 
ヴィヴィオが部屋に戻るのを見届けて、私もキッチンへと舞い戻る。
頑張るヴィヴィオに、とびっきりのおやつを用意してあげなくっちゃね♪
 
 
 
 

 
 
 
 
「おーい、なのはちゃーん」
「はやてちゃん?」
「これあげるわ〜」
「ふぇ?」
 
 
 
 
そんな話をした後日、本局で顔を合わせたはやてちゃんは私に合うなり、白い封筒を手渡した。
 
 
 
 
「私の愛が一杯に詰まったラブレターや」
「へー」
「……」
「……」
「……とりあえず開けてや〜……」
 
 
 
 
またいつものように冗談から入るので、突っ込まないでおいたらショックだったらしい。
ちょぴり萎れたはやてちゃんに促されるまま封筒から中身を取り出す。
 
 
 
 
「……? 遊園地つきリゾートペア宿泊券?」
「そうや、相変わらず二人が有給取らへんて、苦情が出とるんよ」
「それはやてちゃんもだよね?」
「それはそれや。まぁそんな訳やから、来月あたり休みとってな?」
「また強引だね……あ、もしかしてヴィヴィオもグル?」
「そうや、私がリサーチお願いしたんよ」
 
 
 
 
封筒の中に入っていたのは、私とフェイトちゃんに休暇を取らせる口実だった。
ふとヴィヴィオとの昨日のやり取りを思い出し、あたりをつけてみればはやてちゃんはあっさりと白状した。
そういえばヴィヴィオが見ていた雑誌もどちらかといえば大人向けのものだった。
 
 
 
 
「でも仕事が……」
「ヴィータ達への根回しはバッチリや」
「もお、どうあっても断らせてくれないつもり?」
「当然やん。チケット、無駄にせんといてな?」
 
 
 
 
ほな〜、と言いたいことだけ言ってはやてちゃんは行ってしまった。
相変わらず抜かりのない優しい親友に苦笑していると、レイジングハートが通信を告げる。
 
 
 
 
「フェイトちゃん」
「お疲れ様なのは、今少しいいかな? あのね、さっきはやてから言われたんだけど……」
 
 
 
 
どうやらフェイトちゃんも既に丸め込まれていたらしい。
 
 
 
 
「くす……」
「なのは?」
「ううん、なんでもない。それで何日にしようかフェイトちゃん♪」
 
 
 
 
そつのなさについ笑みが漏れる。
あぁ、きっとこうして上手いことのせられちゃうんだろうな〜って。
ちなみに後で判明するのだけど、発案は今回ヴィヴィオの方だったとか。
……親友ばかりでなく、娘にも頭が上がらなくなる日が近そうです。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

眠いですごきげんよう。
いやほら、春眠うんたらかんたら……不規則な生活してるだけですね、はい。
のほほんと書いてたらフェイトさんの出番が大幅にカットされてました。
わー……ごめんねフェイトさん、同人に収録させることがあれば加筆するからさww
ヴィヴィオもついにお年頃? ヴィヴィオの日記Rに続く予定〜。

2010/4/24


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