世はすべてこともなし?














帰宅して早々に見上げている天井。
ベッドから見上げるそれは意外と高い。
綺麗な白い壁に照明が瞬く。

……あ、蜘蛛の巣みっけ。
 
 
 
 
「……フェイトちゃん」
「ん?」
「なんか逃避してない?」
「うん、してるかも……」
 
 
 
 
ボーっと天井を眺めていた私に対して、深々とため息をつくなのは。
いやいや、普段気づかないからこそ、大掃除の時のために場所の検討をだね……
……ようするに、今の状況から考えれば逃避以外の何者でもないわけだけど、うん。
 
 
 
 
「だってね、なのは」
「なに、フェイトちゃん」
「積極的なのは嬉しいんだけど……」
「うん」
「……どうして仕事から帰ってきて早々に、私は押し倒されているのかな?」
 
 
 
 
のんびり天井を見上げながら逃避をすることになった理由、それは今現在私の上で四つん這いになっている妻の所業にある。
あぁ今日も疲れたな、と帰宅したのがついさっき。
出迎えてくれたなのはと軽くキスをするとそのまま寝室へと引っ張られ、気がつけばなのはに押し倒される格好になっていた。
嬉しいけどいきなりでびっくりですよ、なのはさん。
 
 
 
 
「うぅ……だって……」
「だって?」
 
 
 
 
普段と逆でなのはが上になることはそう多くない。
零れ落ちてくる亜麻色の髪を梳きながら問いかけるとなのはの顔に赤みが増す。
私を押し倒した時点から赤かったが、今は耳まで真っ赤になっている。
それがまた可愛いな、なんて思いながらなのはの言葉に耳を傾ける。
 
 
 
 
「フェイトちゃんが、ちゃんとお休みとってくれないから、その、相談しに行って……」
「うん……」
「そうしたらはやてちゃんが……」
「はやてが?」
「『それやったら、動けへんようにして強制的に休んでもらったらええやん♪』……って言うから……」
「……ほほぅ……」
 
 
 
 
しどろもどろになりながらも一生懸命話すなのは。
私の身体を心配してのことだと分かり、より一層愛おしさが増す。
……しかし、君は人の奥さんに毎回毎回何を吹き込むのかな、はやて。
そろそろ一度、お花畑へ行ってみる?
 
 
 
 
「心配、かけちゃってたんだね、ごめんねなのは……」
「あ、う……わ、私は、フェイトちゃんがちゃんと休んでくれればそれで……」
「ふふ……大丈夫だよ、なのは。明日はちゃんとお休みをとったから」
「えぇっ!? そ、そうなの……?」
「うん、仕事も一区切りついたからお休みの申請してきたよ、明日から三日間」
「あぅ……そっか……」
 
 
 
 
もぎ取った三連休。
今日残業をしてまでマッハで報告書を仕上げたのはそのためだ。
海に出ている時よりも、本局にいる時は書類仕事に忙殺されてしまうことが多いから。
でもそんなことは知らなかったなのはは、こうして身体をはっているわけで……私の上でわたわたしているのが可愛くて仕方が無い。
 
 
 
 
「うん、だから心配しなくても大丈夫だよ、なのは」
「う、うん、ごめんねフェイトちゃん、今どくから……にゃっ!?」
 
 
 
 
私が優しく微笑んで告げると、慌てて私の上からどこうとするなのは。
私はその腕を掴むと、腰に手を回してあっという間に体勢を入れ替える。
驚いた表情で目をぱちぱちしているなのは。
なのはの視界にはさっきまで私が見上げていた天井がうつっていることだろう。
うん、この体勢は落ち着くなぁ。
 
 
 
 
「ねぇなのは……ヴィヴィオは?」
「え、あ、はやてちゃんちに預かってもらってる、けど……」
「そうか、それは好都合だね」
「……ふぇ?」
 
 
 
 
どうやらヴィヴィオははやての家にお泊りらしい。
今回の提案者がはやてである以上、おそらくそうだとは思っていたけど。
え、え? と状況についていけていないなのはににじり寄る。
光を反射して輝くなのはの髪を一撫でしてその耳元で囁いた。
 
 
 
 
「せっかく可愛い妻が誘ってくれたんだから……夫はそれに応えるべきだよね?」
「っ!? ふぇ、フェイトちゃんっ!?」
「大丈夫……ちょっと腰が立たなくなるかもしれないだけだから♪」
「ちょ、それちっとも大丈夫じゃなっ……んんっ!?」
 
 
 
 
慌てて私の腕から逃れようとするなのは。
甘いよなのは、スイッチの入った私は無敵だよ?
唇を塞いで舌を絡めると、なのはの抵抗が軽くなる。
愛しているよなのは、世界中の誰よりも。
やがて、細められていた蒼が完全に閉じられると私達はシーツの海へと沈んでいくのだった……
 
 
 
 

 
 
 
 
「……お、その顔やと首尾は上々やったみたいやな」
「おかげさまでね」
 
 
 
 
翌日、私がヴィヴィオを引き取りに行くと、出迎えたはやてはニヤリと笑った。
どうやらアドバイスをした時点で、こうなることは予測済みだったようだ。
 
 
 
 
「なのはちゃんは?」
「……起き上がれなくて寝てるよ。代わりに休暇届け出してきた」
「おぉ、それはよかった。なのはちゃんもきちんと休みとってもらわなあかんからな〜」
「ま、それはそうなんだけどね……」
 
 
 
 
私の状態を心配したなのは。
そのなのはに相談を持ちかけられたはやてはなのはの状態も心配だった。
ゆえに、こうなることを見越してあんな提案をしたのだろう。
内容はどうであれ、その気遣いは嬉しく思う。
内容はどうであれ、ね……
 
 
 
 
「ところではやて、なのはからメッセージを預かってるんだけど……」
「……なんや、嫌な予感がするし、開けんでもええかな」
「ダメだと思うな……」
「う、やっぱあかんか……」
 
 
 
 
私がなのはから預かってきた電子メッセージ。
メールでもいいのになぜかなのはは私にこれを持たせた。
はやてが恐る恐る開くと、そこには一言。
 
 
 
 
『はやてちゃんのバカ』
 
 
 
 
という文面が踊っていた。
これ以上ないほどストレートだよ、なのは。
 
 
 
 
「これは……ちょおなのはちゃんのご機嫌とらなあかんなぁ……」
「うん、じゃないと私も、家に入れてもらえそうにないんだよ……」
「はは……早急に検討せな……」
「あはは、だよね……はぁ」
 
 
 
 
世はすべてこともなし。
……とは、現実には中々いかないものである。
私とはやては、顔を見合わせてはははと力なく笑った後、深く長いため息をついたのであった。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

なのはさんを押し倒してるフェイトさんが書きたーい!
とか年末に言ってたらなのはさんがフェイトさんを押し倒してました。
結局ひっくり返されるけど。
そんな年明けからイチャイチャな夫婦のことしか考えてないキッドです、ごきげんよう。

まともな長さのSSは随分久し振りな気がします。
まぁ締め切りやら胃腸炎やらきゃーな出来事が多かったですからね(苦笑)
とりあえずまぁそんな感じで、今年ものほほんと書いていきますので、よろしくお願いいたします(笑)
連載と次のイベントの原稿書かなきゃ……ひょえぇー(汗)

2009/1/4


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