仮面の奥で














ねぇ、今度はいつ帰ってくるの。
いかないでよ。
……そんな言葉を飲み込んで私は笑う。
「いってらっしゃい、フェイトちゃん」
「いってきます、なのは」
この瞬間の貴女の笑顔だけは、私のものに違いないから。
 
 
 
 

 
 
 
 
気持ちを隠して笑うようになったのはもうずっと前から。
笑ってれば、皆心配しないでしょ?
だからずっとずっと、私は笑っていなくちゃいけない。
……でもどうしてかな。
最近は上手く、笑えない。
胸の奥に、何かが引っかかって、とてもとても、苦しくて。
でも心配なんてして欲しくないから、いつも必死に笑ってる。
ねぇフェイトちゃん、私はちゃんと、笑えてるかな?
 
 
 
 
「……なんて顔しとるんよ」
「……はやてちゃん」
 
 
 
 
屋上でフェイトちゃんをいつものように見送った。
戻った教室は次の移動授業のためとても静かで、ちょっとだけ、油断をしていた。
教室のドアの方からかけられた声に、びくっと肩が弾む。
捉えた視界では、彼女は眉をひそめとても渋い顔をしていた。
 
 
 
 
「次は理科室じゃなかったっけ?」
「筆箱忘れてな、戻って来たんよ」
「そうなんだ……」
「なんや、違う拾い物もあったみたいやし」
「あはは……ご迷惑おかけします」
 
 
 
 
そう言ってニカっとはやてちゃんは笑う。
心配をかちゃってダメだな、って思うのに、気づいてもらえることが、嬉しい。
はやてちゃんは手早く自分の机から筆箱を回収すると、私の手を引っ張って歩き出す。
 
 
 
 
「ただでさえ足らん出席日数が余計危なくなったらあかんしな」
「うーん、悩みの種だね」
「蒔きたくて蒔いてるんとちゃうけどな」
「うん、まぁ……」
「あ、今フェイトちゃんのこと考えたやろ?」
「ふぇ、ど、どうして分かるのはやてちゃん」
「なのはちゃんが分かりやすいんや。出張が最近多いから、フェイトちゃん出席日数大丈夫かな〜って顔や」
「う……」
「ついでに、でも寂しいな〜、って感じやろか?」
「うぅぅ……」
 
 
 
 
はやてちゃんはいつもの調子で私の考えをスパスパと当てていく。
そんなに顔には出してない……はず。
それでも気が緩んだところからバレてしまうのは、はやてちゃんの人柄がなせる技か。
私自身、はやてちゃんには甘えが出てしまっている気がする。
 
 
 
 
「単身赴任の旦那を待つ新妻の心境、ってやつやない?」
「うーん……あ、でも卒業したらリアルにそんな感じになりそう……」
「そやなぁ……よし、ほんなら私が部隊を作ってなのはちゃんとフェイトちゃんも呼んだるわ」
「はやてちゃんの部隊?」
「せや、ほんで部屋も二人一緒にしたる、どや、最高やろ」
 
 
 
 
はやてちゃんに言われて想像する。
私とフェイトちゃんの部屋を。
……うん、凄くいいかも。
 
 
 
 
「いいね、凄く楽しみ」
「お、その気になったようやな。ちゃんと叶えたるから、任しとき」
「うん、待ってるよ」
 
 
 
 
学校の廊下で交わした軽口。
はやてちゃんにしてみれば私を元気付けようとしてくれただけかもしれない。
でも私は結構、本気でいいなって思ってしまった。
それから数年後、このやり取りをはやてちゃんが覚えていたのか定かではないが、はやてちゃんは約束をまもってくれた。
新しい隊舎、新しい部隊。
そこでフェイトちゃんと暮らすようになるのは、もうちょっとだけ先のお話。
 
 
 
 

 
 
 
 
「ただいま……」
「お、おかえりフェイトちゃん。なんか、凄い疲れてそうだけど、大丈夫?」
「……な」
「な?」
「なのはぁぁぁぁっ!!」
「ちょ、えぇぇぇぇ!?」
「会いたかったよー。あぁ、なのは分が補充されてく……」
「あはは、もうフェイトちゃんってば……」
 
 
 
 
ぎゅーっと抱きついてきて離れないフェイトちゃんの頭を撫でる。
フェイトちゃんは嬉しそうに私に擦り寄ってきて、なんだか子犬みたいで凄く可愛い。
 
 
 
 
「……うーん、もっと早く同棲しちゃってもいいかもね」
「ぶっ、ど、同棲!?」
「部屋を借りるならミッドかな?」
「同棲……なのはと同棲……」
「あれ、顔が赤いよフェイトちゃん? 可愛いなーもう」
「な、だ、だってしょうがないじゃん! なのはがいきなり同棲なんて言い出すからだよ!」
「そっか、フェイトちゃんは嫌なんだ……」
「まさか! 私だって一緒に暮らした……あ」
 
 
 
 
言ってからしまった、というように口を押さえるフェイトちゃん。
顔どころか耳まで真っ赤になってしまった。
 
 
 
 
「ふふ、そっかぁ〜、フェイトちゃんは私と一緒がいいんだ?」
「あぅぅ……聞かないでよ……もぅ……」
 
 
 
 
赤くなってそっぽを向くフェイトちゃんに、胸の痛みが溶けていく。
きっとまた、フェイトちゃんが旅立つ時に痛むけど、そのたびに貴女が溶かしてくれるから。
笑顔で、おかえりなさいって言うことができる。
きっとどれも本当の私。
全部フェイトちゃんにあげるから……
 
 
 
 
「でも……」
「ん?」
「いつか一緒に住みたいね」
「……うん」
 
 
 
 
私のこと、ちゃんと受け止めてねフェイトちゃん。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

出だしと後半の温度差なにこれ。
どうも、長らく更新をサボってたキッドです。
あ、夏コミスペースいただきました。(8/16日曜日・東・ユ24aです)
新刊のネタに頭を抱えてます、きゃー。

ちょっと鬱っぽいのが書きたいとか思ったらはやて師匠の登場で持ち直してしまいました。
師匠は偉大です。
時系列的には中二くらいかな。思春期は色々悩みも多いので書いてて楽しいです(ぇ)
若いっていいなぁ、と思いながら書く時点で年をとったなと思います(苦笑)

2009/6/7


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