動かない














フェイトちゃんの動きがおかしい。
そう気がついたのは、模擬戦の途中、エリオの突貫を避けるために利き腕ではない左手で攻撃を捌いたから。
それだけなら、戦闘の状況次第で起こりうることだけど、なんとなく違和感を感じた。
 
 
 
 
「マッハキャリバー!」
『Wing Road』
「おぉぉぉぉぉっ!!」
「バルディッシュ!」
『Round Shield』
 
 
 
 
ドォォォンッ!!
 
 
 
 
ぶつかり合う魔力に爆風が起こる。
突撃してきたスバルから放たれたナックルダスターを、ラウンドシールドで防御したフェイトちゃん。
だけど、魔法を発動したのはまた左手だった。
いつもなら絶対に右手で発動しているはずなのに……そんな疑問が頭をよぎるなか、オレンジ色の魔力が視界を掠めた。
 
 
 
 
「もらった! ファントム……きゃああぁぁっ!?」
「ティアっ!?」
「余所見している暇は無いよ」
『Trident Smasher』
「えっ!? うわぁぁっ!!」
 
 
 
 
ティアナは死角から飛来した私のアクセルシューターに、
スバルは目をそらした隙に近距離からフェイトちゃんのトライデントスマッシャーを受けて、それぞれ撃墜。
ティアナは私の意識がフェイトちゃんに向いている隙をついたつもりなんだろうけど、そこは私とて魔導師。
意識をそらしたって、シューターぐらい制御できなくては困る。
スバルも、フェイトちゃんの真正面で余所見なんて、してちゃダメだよ?
……まぁ、フェイトちゃんが気になっちゃってる私が言うのも、今回はちょっとあれだけど。
 
 
 
 
「はぁーい、じゃあ今日の模擬戦はここまでー」
 
 
 
 
スターズの二人の撃墜により、今日の模擬戦はここで幕を閉じた。
私が終了を告げると、かろうじて撃墜を免れていたエリオとキャロが、二人へと駆け寄っていく。
 
 
 
 
「スバルさん、大丈夫ですか?」
「ティアナさん、起きれますか……?」
「ふぇぇぇぇぇ……」
「いっつ……くぁぁぁ、悔しいぃぃ! あたしのバカー!」
「てぃ、ティアナさん、落ち着いて……」
 
 
 
 
目を回しているスバルと、頭を抱えて叫ぶティアナ。
成長したとは思うのだけど、こういう時はやっぱりまだまだだなぁ、って思う。
 
 
 
 
「今日の反省点のレポートは後で提出ね」
「それから、しっかり休息をとるんだよ?」
 
 
 
 
そう言って私とフェイトちゃんは隊舎に戻る。
教えることはまだまだ多いけど、皆随分と成長をした。
それに比べて、私の隣を歩くフェイトちゃんは……
 
 
 
 
「フェイトちゃん」
「ん、何なのは?」
「私に言うことない?」
「え……?」
 
 
 
 
え、じゃないでしょう、え、じゃ。
 
 
 
 
「分からないの?」
「え、えと、なのは……?」
 
 
 
 
しらばっくれてるというよりは、本当に何だか分からないと言う表情のフェイトちゃん。
まったくどこまで天然なんだか。
 
 
 
 
「ほら、また左手」
「え?」
「フェイトちゃん、右手、どうしたの?」
「あ……」
 
 
 
 
ラウンジについて、私にコーヒーを渡してくれてのもまた左手。
さっきから利き手である右手を全く使っていない。
なのにフェイトちゃんってば、指摘されてようやく私の言いたいことに気がついたらしい。
普段右手でとる行動まで左手では、右手の方に何かあったと思うのは当然だろう。
 
 
 
 
「右手痛めたの?」
「んー、いや、たいしたこと無いんだけどね……」
「本当に? でも一度も右手使ってなかったし……」
「ちゃんとシャマルにも診てもらったから平気だよ。ちょっと、その……痺れただけらしいから」
「そっか、シャマルさんに……って、痺れ?」
 
 
 
 
フェイトちゃん、今日攻撃を受け損なったりしてたかな?
いや、事前にシャマルさんのところに診察に行ってたってことは、模擬戦の前からだよね?
 
 
 
 
「えーっと、その、ね……」
「うん」
「その、なのはを抱き締めて眠ったのはいいんだけど、知らないうちに腕が圧迫される位置になってたみたいでね……」
「…………」
 
 
 
 
つまり、私を抱き締めてて、腕が圧迫されてて、痺れちゃったものだから、右手が使えない……と。
 
 
 
 
「あー……私のせいかな?」
「ち、違うよ! だってちゃんと首の下に通して抱き締めたもん! 私が途中で寝ぼけてずらしちゃっただけだよ!!」
「あ、うん、そうなんだ……」
「そうだよ、だから別になのはのせいなんかじゃ……」
「んー、でもそれだと、こういうこともあるから寝るときは少し離れてた方が……」
「絶対やだ!」
 
 
 
 
もう大分痺れも取れてきたから平気!
と、フェイトちゃんは叫ぶけど、出動がある日だったりしたら大変だよね。
でもこの様子だと、フェイトちゃんは納得してくれそうに無い。
そりゃあ私だって、フェイトちゃんと一緒に寝られる方が嬉しいけど……うーん。
 
 
 
 
「どーでええぇんやけどぉー」
「うわぁっ!?」
「きゃあっ!?」
「フェイトちゃーん、今日の午後からは何があるか覚えとるー?」
「え、えと、陸士108部隊にシグナムと一緒に出掛ける予定だけど……」
「ほうかぁー、それやったらその腕で運転していくんかぁ〜」
「あっ……!!」
 
 
 
 
突然現れたはやてちゃんは、どうやらこの状況のことをしっていたらしい。
シャマルさんに聞いたのかな?
そのはやてちゃんの言葉に、先程までとは違った意味で慌て始めるフェイトちゃん。
模擬戦さえ終われば何とかなると思っていたのだろう。
しかし車の運転はマニュアル車のため、ギアを変える時は片手で運転したりしなければならない。
 
 
 
 
「とりあず、素直にシャマルに治してもらっといてな〜」
「あぅ……うん」
 
 
 
 
それだけ言うと、すぐに行ってしまうはやてちゃん。
どうやら今日は忙しいらしい。
フェイトちゃんはさっきシャマルさんのところに寄った時、治療はしてもらわなかったわけだけど、
はやてちゃんにああ言われてしまっては、仕方が無い。
今日一日での自然治癒、という選択肢はなくなったしまったのだから。
 
 
 
 
「フェイトちゃん」
「な、なのは……」
「とりあえず、今日から寝る時は離れて寝ようね?」
「そんなぁぁぁ〜……」
 
 
 
 
私の宣告にがっくりと崩れ落ちるフェイトちゃん。
しばらく宥めていると、フェイトちゃんは半泣きのままシャマルさんのところへ向かったのであった。
 
 
 
 
 
<おまけ>
 
 
 
 
で、結局どうなったかというと、その日の夜はもちろん離れて寝た。
別に同じベッドだし、ほとんど距離はないんだから、そこまで違わないと思うんだけど、
フェイトちゃんはぐずりっぱなしで、結局いつもより結構遅くなってから眠りについた。
 
 
 
 
「ほら、なのは、こうすれば大丈夫だよ♪」
 
 
 
 
そしてその翌日、フェイトちゃんが喜々として披露してくれた耐圧用魔法にため息をつくことになるのであった……

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

腕枕はカップルのロマーン!!(笑)
というわけで、腕枕で腕が痺れた、なんてありがちなネタを持ってきました。
いや、酷くなると手が動かないらしいですけど、フェイトさんは愛の力で痺れただけです(笑)
で、頑張って離れてへみたけれど、一日でギブアップしたフェイトさん。
つーか、そこまでしてなのはさんと寝たいのかフェイトさん! ……寝たいんだろうなぁ、うちのフェイトさんは(笑)

さて、とりあえずサンクリと夏の準備進めてます。
虎の穴さんの通販は近々スタート予定……かな?
こまめに告知は出しますので、お暇な時にでもふら〜っと見にきてくださいな〜♪

……ちなみに、本日は我らがはやて師匠のお誕生日です。
そのわりの師匠の出番ちょびっとでしたけど(笑)はやて師匠ー、お誕生日おめでとうございます〜。
で、一体いくつになっ(ラグナロク)

2008/6/4


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