黒い傘とピンクの傘と

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ・・・・」
 
 
 
 
そう呟いたのは誰だったか。
だけどきっと、それはクラス皆が思ったことで。
 
 
 
 
「あぁ〜・・・・降ってきちゃった〜」
「本当だー」
「私傘持ってないよ」
「僕も〜」
 
 
 
 
一人が言い出すと、クラス中から次々にそんな声があがる。
今日の降水確率は30%だった。
それだっけあれば、降るよね、普通は。
なんて思うヴィヴィオも、傘を持ってきていない一人だったりするのだけれど。
重たい辞書があるからと、折り畳み傘を置いてきた自分の決断が恨めしい。
 
 
 
 
「はい、静かに、まだ授業は終わっていませんよ」
「はぁーい」
 
 
 
 
ざわめき始めた教室が、先生の声で元へと戻る。
でもその視線は、黒板と校庭をいったりきたり。
見かねた先生は、抜き打ち小テストという荒業で、生徒の関心を授業へ戻したのであった。
・・・・あ、これこの間、ママが爆発させたやつの基礎理論だ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
キーンコーンカーンコーン
 
 
 
 
「終わったー」
「早く帰ろ〜」
「静かに、はいじゃあ今日の授業はここまでです。雨が降ってるから、皆気をつけて帰ってくださいね」
「はぁーい」
 
 
 
 
一日の終わりを告げる鐘が鳴って、先生の話が終わると、皆教室から飛び出していく。
ヴィヴィオもそうしたいところだけど、今日は傘を持ってきていないし、さてどうしよう?
 
 
 
 
「あれ、ヴィヴィオちゃん傘無いの?」
「珍しいね」
「うん、今日は置いてきちゃった」
「私達の傘に入ってく?」
「うーん、嬉しいけど、二人とも方向違うし悪いよ」
「でも、ヴィヴィオちゃん帰れなくなっちゃうし・・・・」
「平気だよ、小降りになったら走って帰れるし、誰かに連絡してもいいんだし」
「んー、そっかぁ、じゃあヴィヴィオちゃん、また明日ね」
「バイバイ」
「うん、ごきげんよう」
 
 
 
 
一緒に傘に入れてくれるという級友二人は、残念ながら家の方向が反対で、
送ってもらうと、とても遠回りになってしまうので遠慮した。
二人に手を振って、その背中を見送ると、重く垂れ込めた雨雲を見つめ溜め息をついた。
さて、本当にどうしよう?
見た感じ、止んでくれそうな気配が無い以上、濡れて帰るか、誰かに迎えに来てもらうしかないわけで。
 
 
 
 
「うーん・・・・でもなぁ・・・・・・」
 
 
 
 
幸いにして、今日は珍しくなのはママとフェイトママが揃ってお休みで、
連絡をすれば、きっとすぐに迎えに来てくれると思うんだ。
だけど、久しぶりにお休みが重なったママ達は、きっと今頃いちゃいちゃしてるとも思うわけで。
はやてちゃんは砂糖が吐けるって言うけれど、
私はママ達が仲良くしてるのはやっぱり嬉しいから、出来ればあんまり邪魔したくないなぁ、って思う。
・・・・妹とかも欲しいし。
でもそうすると、はやてちゃんとかにお願いするしかないんだけど、それもなんか申し訳ない。
 
 
 
 
「うー・・・・ん?」
 
 
 
 
もういっそ走って帰っちゃおうか、と考え始めた私の視界に、
大きな黒い傘とピンクの傘が、並んでゆっくりと歩いてくるのが見えた。
そして、もしかしてが確信に変わると、私は昇降口を飛び出した。
雨に濡れるのも構わずに走ると、黒い傘が慌てたように揺れて、同じように駆け寄ってきた。
 
 
 
 
「・・・・フェイトママ!」
「ヴィヴィオー、もう、どうしてあのまま昇降口にいないのぉ?あー、ほら濡れちゃってるしー」
「えへへー、ごめんなさぁい」
 
 
 
 
黒い大きな傘は、やっぱりフェイトママで、駆け寄ってしがみつくと、私の髪をハンカチで拭きながら、頭を撫でてくれた。
 
 
 
 
「ふふふ、ヴィヴィオはフェイトちゃんが来てくれて、嬉しかったんだよね」
「なのはママ!」
「あぁっ、ヴィヴィオ、傘から出たらまた濡れっ・・・・あー・・・・・・・」
 
 
 
 
フェイトママのすぐ後ろから現れたピンク色の傘は、もちろんなのはママ。
フェイトママの傘を飛び出して、今度はなのはママに抱きつくと、後ろからフェイトママの困ったような声が聞こえた。
あぅ、ごめんなさいフェイトママ。
 
 
 
 
「もー、これくらい濡れたうちに入らないよ、フェイトちゃん」
「ダメだよ、そう言ってなのはも昔、風邪引いたじゃない」
「あー・・・・あれは調子に乗って、空飛んじゃったせいだと思うんだけどなぁ」
「ほら、いいからヴィヴィオ、こっち向いて」
「はぁーい」
 
 
 
 
フェイトちゃんは過保護だよ、なのはは放任しすぎ、なんて会話が聞こえるけど、
なんだか二人ともニコニコしてるから、ヴィヴィオも嬉しい。
 
 
 
 
「さ、じゃあ帰ろうか?」
「うん」
「そうそう、今日の夕飯はハンバーグでーす」
「ほんと、ヴィヴィオお手伝いする!」
「あはは、じゃあヴィヴィオにはお肉を丸めてもらおうかな」
「やった!」
「おっと、こーら、急に動くと危ないとヴィヴィオ」
「あ、ごめんなさい、フェイトママ」
「ふふ、帰ったら皆で一緒にお料理しようね」
「うん!」
 
 
 
 
髪を拭き終わると、フェイトママが抱き上げてくれて、黒い傘とピンクの傘が並んで揺れ始める。
今日の夕飯の話とか、その後はヴィヴィオの学校の話とか、お話するのは全然普通なことばかりだけど、
それでもヴィヴィオは、こんな時間が大好きです。
 
 
 
 
「そっかー、小テストあったんだぁ・・・・ヴィヴィオ、爆発って何?」
「あっ」
「いや、その、ちょっと新しい術式を試してたらボボンッと・・・・にゃはは」
「・・・・なのは、後で詳しく聞くから」
「ふぇ?ふぇぇぇぇ〜・・・・・」
 
 
 
 
でも時々ちょっと、大変です。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

原稿の合間に元気よく違う作品を書いてるキッドです、ごきげんにょー・・・・げふぅ。

うぅ、むりー、もうむりぃー、とかうんうん唸りながら夜中の2時から朝の7時まで原稿に取り組んでおります。
いや、だって、この時間って静かだから一番はかどるんだよ?(やめれ)
まぁ、必然的に睡眠やら生活やら不規則になるから、なおさらぐったぐたなんですけどねー(笑)

さて、本日のSSはそんな訳で現実逃避の結晶です(笑)
いや、今朝二本目の書き下ろしを仕上げた時点で雨がザーザー降ってたので、こんなネタがご降臨されちゃいました。
ヴィヴィオ視点でのお話は、ヴィヴィオの日記を覗けば初めてですよね、確か?
気持ち的には小学校1年から2年くらいで書いてるので、ヴィヴィオの日記よりは成長した感じに描けていればと思います。
あぁ可愛いよ、ヴィヴィオ(をぃ)

いや、近々発表しますが、現在書いてる原稿がフェイなのの初々しい本なので、ヴィヴィオ分が最近キッド足りなくて(苦笑)
sweet本を作るときには、絶対にほのぼの家族書き下ろしを一本入れよう、うん(笑)

まぁしばらくは、こんな感じでまったり更新しつつ、死ぬ気で原稿書いてますので、
適度に生きてるか確認してやってくださいましm(_ _)m

2008/4/8著


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