茜色の空に

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
赤は好きだ。

あたしの髪の色も魔力光も、はやてがくれた騎士服の色も赤だ。

だから、赤は好きだ。

いや、好き"だった"。

あの日、アイツが蒼空から落ちる、その時までは。

「うー・・・・」
 
 
 
 
朝、あたしは唸り声と共にベッドから起き上がる。
 
 
 
 
「くそ、寝覚めわりぃ・・・・」
 
 
 
 
幾度となく見てきた夢。
それでも最近は見ることもある程度は減ったから、ちょっとばかし油断していた。
 
 
 
 
「ちくしょう・・・・」
 
 
 
 
なのはが落ちた、あの日の夢。
凍えそうな雪の日、でもなのはの方がそれよりもずっと冷たくて。
なのはは、凍り付いたように動かなかった。
そして腕に抱いたなのはから、流れ出る血とともに、命が零れ落ちてゆくのを感じた。
 
 
 
 
「本当に死んじまいそうだったんだよな、あいつ・・・・」
 
 
 
 
まぁ、結果的になのはは一命を取り留め、今はぴんぴんしているのだが。
 
 
 
 
「詐欺だろ、詐欺」
 
 
 
 
あんだけ元気になられると、なんだか騙されたような気になってくる。
もちろん、元気なことに越したこたぁねぇけどよ。
 
 
 
 
「・・・・仕事行くか」
 
 
 
 
しばらくそんなことを色々考えながら、ベッドの上をゴロゴロしていたが、意を決して立ち上がる。
このままだと、余計ぐだぐた考えちまいそうだし、早々に出勤することにした。

・・・・決してなのはの顔が見たくなったからではない。断じて違う。
 
 
 
 
「・・・・ぜってえ違うからなぁーっ!!」
 
 
 
 
ムカつきをそのままに、思いっきり叫ぶ。
あたしの叫びが早朝から、部屋中に響き渡った。

・・・・ちなみに、叫び声ははやて達の部屋にも届いていたらしく、突っ込まれて面倒くさかったのは余談である。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・なんだよ、いねぇじゃん」
 
 
 
 
管理局に着いて開口一番、飛び出した言葉はそれだった。

いや、違う、違うぞ。
たんに今日もまた、アイツの呆けた顔を見て一日が始まるのかと身構えていたところに、
呼び出しがあったとかで、アイツは早々に出かけてしまったらしく肩透かしをくらっちまったから、そんな言葉が漏れただけなんだ。
うん、そうに違いない。
 
 
 
 
「って、誰に言い訳してるんだよ、あたしは・・・・」
 
 
 
 
ついでに、なんか最近独り言が多いなぁと思う。
くそっ、よく分かんねぇけど、きっと全部なのはのせいだ。
 
 
 
 
「よし、帰ってきたら特大アイスを奢らせてやろう」
 
 
 
 
情けない顔で、そんなぁ〜と言うなのはを思い浮かべニヤリと笑うと、あたしは本日の仕事である演習場へと駆けて行った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「さてと・・・・こんなもんかな?」
 
 
 
 
朝は演習場で新人どもと訓練、昼からは書類と格闘。
今日も、わりとよくある一日のパターンだった。
その書類も一区切りつき、ふと時計を見るとすでに夕方になっていて。
 
 
 
 
「・・・・まだ帰ってこないのかよ」
 
 
 
 
なのに、なのはのやつはまだ帰ってきていなかった。
 
 
 
 
「仕事にいつまでかけてるんだよ、アイツ」
 
 
 
 
エースオブエースなんだからさっさと帰ってこいよ、とか、妙なところでのんびりなんだよ、とか、
悪態をつきながら外へ出ると、夕焼けで赤く染まった空が広がっていた。
・・・・・今のあたしは、アイツの飛ぶ空が赤く染まるこの時間帯が、一番怖い。
あの日を、思い出すから・・・・
 
 
 
 
「怪我とかしてねぇだろうな、アイツ・・・・」
 
 
 
 
今朝の夢とも相まって、不安な気持ちがばかりが走る。
 
 
 
 
「・・・・ちょっと確認の連絡をとってみ」
「あーっ!ヴィータちゃんだー!」
「ようか、な・・・・」
「あ、もしかして私を待ってててくれたの?ありがとうヴィータちゃん!」
「・・・・・」
 
 
 
 
そんなあたしの不安をぶっ飛ばし、勝手にしゃべりまくるなのは。
あぁそうだよ、コイツはそういう奴だよ。
 
 
 
 
「・・・・・」
「あれ、どうしたのヴィータちゃん?」
「うるせえ!遅くなったくせにけろっと帰ってきやがって!」
「え、え、え?」
「あたしの心配を返しやがれ!」
 
 
 
 
脳天気この上ない笑顔にカチンときて、思いっきり叫んでやった。
自分の耳さえキーンとなるような音量がおさまった後、あたしは自らの失言にやっと気がついた。
 
 
 
 
「っ!?・・・・そんなに心配してくれてたんだね、ありがとうヴィータちゃん!」
「ち、ちがっ・・・・ちょ、抱き付くなっての!!」
 
 
 
 
案の定なのははだらしなく笑い、あたしに抱き付いてきた。
くそ、だからコイツは嫌なんだ。
 
 
 
 
「えへへ、ヴィータちゃんは優しいね〜♪」
「けっ、なんでも自分の都合のいいように解釈しやがって」
「えー?そうかな〜?」
「ふん、まぁいいさ、お前の脳天気は今に始まったことじゃねぇからな」
「あ、ひどっ、私脳天気なんかじゃないよヴィータちゃん?」
「自覚が無いから脳天気って言うんだよ」
「あぅ・・・・」
「見てて危なっかしくてしょうがねぇからな・・・・あたしが守ってやるよ」
「・・・・ふぇ?」
 
 
 
 
・・・・だけど、こいつが笑ってくれなくなる方が、もっと嫌だから。
 
 
 
 
「だから、あたしが守ってやるって言ってるんだ。ありがたく思え!」
「う、うん、ありがとうヴィータちゃん」
 
 
 
 
赤く染まる空を睨み付けるようにしながら一気に捲し立てた。
最初はちょっと驚いていたなのはも、言葉の意味を理解すると穏やかに笑ってあたしに抱きつき直した。

もう二度と、あの赤く染まる世界になのはを連れて行かせたりはしねぇ。
アタシは鉄鎚の騎士なんだ、大事なもんは、全部まとめて守ってやるさ!

そんな幾度目かの誓いを、あたしはなのはの隣で立てたのだった。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

やっと、なのヴィに手を出したキッドです、ごきげんにょー(ぇ)

とりあえず二人が付き合ってるかどうかとか、その辺の細かい設定は何も考えてません。
たんになのヴィが書きたかっただけです(笑)
キッド、ヴィータちゃんも好きですので♪
もうちょっと出番を増やしてあげられたらな〜と思いますが、中々難しいです(^^;)

内容的には超ありがちなネタなので、よそ様でもやられてるとは思うんですが、うちでも書きたかったので書いちゃいました。
書きたいものが書けなくなったら、筆を置いちゃいますものキッド。
などと相変わらず自己満足を目指しひた走るサイトですが、これからもどうぞよろしく(笑)

2007/12/13著


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