月影のワルツ

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
煌びやかなホール、着飾った人々。
財界の著名人達が集まるこの場所で飛び交うのは、贅沢な一時ばかりではない。
金、名誉、権力、そんな言葉につられて、人は何処まで醜くなれるものなのだろうか。
 
 
 
 
「・・・・なんにしても、鬱陶しいもんだわね」
 
 
 
 
侮蔑の笑みと共に、そう一言だけ漏らした。
もちろん、聞き咎める者、見咎める者がいないことを確認した上での行為だが。
 
 
 
 
「すずかにばれたら、怒られるかな?」
 
 
 
 
そう思い彼女の姿を探せば、ホール中央で見知らぬ男性と踊る彼女の姿が見て取れた。
ギリッと奥歯を噛み締め、組んだ腕に爪を立てる。
仕方の無いことだ、彼女は月村家の人間であり、こうした公の場に立てば、それ相応の立ち振る舞いを要求される。
そう、そしてそれは自分にとっても例外ではない。
 
 
 
 
「アリサさん」
「はい?」
 
 
 
 
呼ばれて目を向ければ、やはり自分の前にも見知らぬ男性がいた。
いや、見知らぬ、というのは語弊があるか。
つい先ほど、両親といたところで紹介を受けた男性。
ある会社の役員で、若いのに有能で・・・とかなんとか。
 
 
 
 
「よろしれば踊っていただけませんか?」
「ええもちろん、よろこんで」
 
 
 
 
淑女らしく極上の笑顔でもって、受け応える。
例え、笑顔の裏がどうであっても。
ここは、そういう場所なのだから。
 
 
 
 
「さすがバニングス家のお嬢さんだ、お上手ですね」
「ふふ、ありがとうござます」
 
 
 
 
そんな言葉を交わしながら、曲が終わるまで踊り続ける。
笑顔の仮面と、淑女のドレスを纏ったままで。
そして曲の終盤で一度だけ、近くで踊るすずかと目が合った。
 
 
 
 
「・・・・・」
「・・・・・」
 
 
 
 
瞳同士の一瞬の邂逅。
それは、周りの誰も気づかないほど僅かなもので。
けれど私達には、それで充分だったから。
そして程なくして曲が終わると、私達は揃って宴を抜け出した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
お互いタイミングをずらし、
裏庭へ面したいくつものガラス戸の一つから、その身を外へと躍らせる。
出迎えたのは満月と、先にそこへ降り立っていたすずかだった。
 
 
 
 
「お疲れ様、アリサちゃん」
「お疲れ、すずか」
 
 
 
 
顔を見合わせ苦笑する。
ああ、本当に疲れる場所だった。
 
 
 
 
「どいつもこいつも鬱陶しいのよね、下心見え見えで」
「ダメだよアリサちゃん、そんなこと言っちゃ」
「だってそうじゃない、寄ってくる連中なんて私達の名前が目当てなんだから」
 
 
 
 
そういう場所だと分かっていても、決して愉快なものではない。
 
 
 
 
「そんなことないよ、アリサちゃんが綺麗だからだよ」
「・・・・それはすずかのことでしょうよ」
 
 
 
 
あたしが綺麗?
そりゃあそれなりに外見の自信はあるけど、目の前にいるすずか程じゃない。
昔から可愛かったすずかは、絶対に美人になると思ってたけど、
実際大人になってみると、それは自分の予想を遥かに越えたものだった。
今だって、月光に照らされ笑みを浮かべているすずかは、あたしが知ってる何よりも美しい。
 
 
 
 
「ふふ、ありがとうアリサちゃん」
「あたしは事実しか言ってないわよ・・・・」
 
 
 
 
お世辞でも嬉しい、って感じにすずかが笑うから、ついそう言ってしまった。
事実、すずかは綺麗だ。それこそ先ほどのダンスの様に、引っ切り無しに誘いが来るほどに。
 
 
 
 
「・・・・・」
「アリサちゃん?」
「・・・別になんでもないわ、ちょっと嫌なことを思い出しただけ」
 
 
 
 
見知らぬ男性と踊るすずかを思い出し、険しくなってしまった表情を慌てて元に戻す。
その手に、その身体に、別の誰かが触れるのが許せない、
そんな子供じみた独占欲に、我ながら呆れてしまう。
 
 
 
 
「何を思い出したの?」
「だから、大したことじゃないってば・・・・」
「うん・・・・でも、知りたいな」
「・・・・すずかが、他の奴と踊ってたことよ」
 
 
 
 
そんな呆れられそうな独占欲を、なんとか隠そうとしているのに、
抵抗虚しく、結局白状させられてしまう。
そしてそれを聞いて、すずかはいつだって本当に嬉しそうに笑うのだ。
もちろん、今日も。
それがなんだか悔しくて、あたしはすずかの手を引っ掴むと、噴水の前まで引っ張っていく。
 
 
 
 
「ア、アリサちゃん?」
「踊って」
「え?」
「あたしと踊って」
「・・・・うん」
 
 
 
 
すずかが頷くのを確認してから、あたしはその手をとり腰に手を回す。
そして、すずかが私の腕に手を置くと、僅かに聞こえる音楽に合わせてどちらからともなく踊り始めた。
ギャラリーのいない舞踏会。あたし達が望む通りに。
あたしとすずかは、そのまま寄り添い合うように、踊り続ける。
すずかのドレスの白と、あたしのドレスの赤のコントラストが、月光の中に舞う。

けれど・・・・やがて曲は終わる。

現実には、これから先も沢山のギャラリーのいる場所が、あたし達のステージだ。
それなら選択肢は二つ、逃げるか、戦うか。
そしてその二択ならば、あたしの答えは決まってる。
 
 
 
 
「すずか」
「何?アリサちゃん」
「あたし決めたわ」
「え・・・?何を・・・んんっ!?」
 
 
 
 
聞き返そうとするすずかを引き寄せて、その唇塞いだ。
そしてすずかを離すと、不敵に笑ってこう言った。
 
 
 
 
「すずかを誰にも渡さない、って」
 
 
 
 
何処の誰が相手だろうと、あたしはこの最愛の人を、誰にも渡したりなんかしないんだ。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

 

締め切りの5日前ー♪
わーい、今回は余裕・・・・なわけ無いっす。
『傷』と『声』のお題も消化しようと目論んでるので、ちっとも余裕じゃないです(滝汗)
はてさて、締め切りまでに何本書けるやら。

しかし、アリすずが自分にとって、こんなに難産だと思いませんでした。
プロットは随分前から浮かんでたんですが、やっぱり書きなれてないせいかちょっと難しかったです。
かっちょいいアリサさんに仕上がってるといいなーと思いつつ(笑)
ついでにまた誰かが絵描いてくれないかな〜、とか他力本願に浸りつつ終わります♪
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m

2007/9/13著

イベントお疲れ様でした〜♪終了したのでこちらでも掲載です♪

2007/9/26著


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