求めずにはいられない

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その優しい微笑みも、
 
 
 
どこまでも澄んだ蒼い瞳も、
 
 
 
皆に、ではなくて、私だけに向けて欲しい。
 
 
 
だけど、そんなことは無理だと、とうの昔に分かっている。
 
 
 
私自身、分け隔てなく優しい彼女が好きなんやから。
 
 
 
それでも私を見て欲しいと望むのは、
 
 
 
ただただ、彼女が愛おしいと思うから。
 
 
 
貴女の『特別』になりたいです。 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「んー・・・あ、いた」
 
 
 
 
夕闇に染まり始めた教室、ぼーっと空を眺めながら彼女のことを思っていると、
考えとったその本人から、声を掛けられた。
 
 
 
 
「はやてちゃん、一緒に帰ろ♪」
「んあ、あぁ、なのはちゃん。他の皆はどないしたん?」
「フェイトちゃんはお仕事で、アリサちゃんとすずかちゃんは習い事だよ」
「ん、ほんなら今日は二人っきりやな〜」
 
 
 
 
二人っきり、その事実が嬉しくて、でも悟られるわけにはいかないから、
冗談で茶化して、ニシシと笑う。
そやのに、なのはちゃんは笑って返してくる。
油断したら、期待してしまいそうになるやんか。
 
 
 
  
「ふふ、そうだね♪・・・・ねぇ、はやてちゃん、何を見てたの?」
「んー?別になーんも。ただぼーっとしとっただけや」
「・・・ほんとに?」
「ん、ほんまに。・・・・・どないしたん、なのはちゃん?」
「ううん、なんでも無い、ごめんね」
「別に謝らんでもええよ?」
「うん」
 
 
 
 
見られていた。
その事実に一瞬跳ね上がりかける鼓動を抑えて、顔には出さずに声にする。
なのはちゃんは鋭い。痛みや苦しみには、特に。
せやから、余計なことを話して悟られてもあかん。
そう思ったのに、はぐらかした私を見る瞳は悲しげで、誤魔化しがもう遅いことを告げられる。
 
 
 
 
「・・・・そない気になるん?」
「・・・うん」
「・・・・空見とったんや」
「空・・・・?」
「せや、ほんで空飛んどるなのはちゃんのこと考えとった・・・・って言うたら信じる?」
 
 
 
 
嘘では無い。
確かに、空を飛ぶなのはちゃんのことを考えとった。
誰よりも空が似合う彼女の、遠く、高い空を。
手を伸ばしても届くような高さやなくて、けれど一緒に飛ぶことも出来なくて。
いっそ、この腕の中に閉じ込めてしまえたら、・・・・そう考えとる自分に吐き気がした。
自由な彼女を、愛しいと思うとるはずやのに。
 
 
 
 
「・・・・はやてちゃんがそう言うなら、私は信じるよ」
「ん、ありがとう・・・・なんかな?」
「うん・・・・でも私はごめん、かな?」
「んー?なして?」
「だって、はやてちゃんの表情を曇らせてるのは、私ってことだよね?」
 
 
 
 
違う、それは違うんや、なのはちゃん。
なのはちゃんが悪いことなんて一つもあれへん。
私が、しょうもないことばかり、考えてもうてるだけなんや。
 
 
 
 
「また・・・・心配かけちゃってる?」
「心配は、いつもしとるよ?私もフェイトちゃんも、皆も・・・・」
「そっか・・・・・」
「なにせ、誰かさんがほんまに無茶ばっかするんやもん」
「あ、あはは・・・・あー、ごめんなさい・・・・・・・」
「謝るより、もちっとおとなしゅうしてくれると、ええんやけどな〜」
「でも、私・・・・航空魔導師だよ?」
「せやかて限度っちゅーもんがあるやろ、まったく」
 
 
 
 
心配はしとる。
最前線で、いつも無茶をするエースを。
無茶して、怪我して、今度こそもう帰ってこないんやないかと、心配になる。
せやけど、さっき考えとったのは、そんなに純粋なものやないんよ、なのはちゃん。
きっと、もっと歪で邪で、醜い感情。
 
 
 
 
「心配はいつもしてる、ってことは、違うことを考えてたの?」
「・・・・なのはちゃんは妙なところで鋭いから困るわ、ほんま」
「えーと、誉めてる?それとも貶してる?」
「さぁ?どっちやろな」
「むぅ、意地悪だよ、はやてちゃん」
「あはは、ごめんて、せやけど拗ねとる顔も可愛えで?」
 
 
 
 
せやから、ちょっとずつ話をずらして、誤魔化そう。
そう思うとるのに、なのはちゃんはそれを許してはくれない。
ほんま、こういう時は鋭くて、困るわ。
 
 
 
 
「・・・・そうやって、結局教えてくれないつもりなんでしょ」
「んー?・・・・知らん方がええことも多いで?」
「・・・・はやてちゃん」
「・・・ごめんて、降参するからそない怖い顔せんと、な?」
 
 
 
 
知らんほうがええよ。私がどう思っとるかやなんて、ほんまは。
空を飛ぶなら、その空ごとなのはちゃんを独占したい。
誰の手にも、目にも、触れさせたくない。
私を真っ直ぐに見るその瞳も、拗ねた様な怒った様なその表情も、ほんまは誰にも見せたくなんかないんや・・・って、
そんな、重いだけの感情は。
 
 
 
 
「さて問題です、以下の例題から問1について答えなさい」

「・・・・はい?」

「額へのキスは友情のキス」
「は、はやてちゃん!?」
「瞼の上へのキスは憧憬のキス、頬へのキスは厚意のキス」
 
 
 
 
せやから、簡単には教えない。
 
 
 
 
「そして唇へのキスは・・・愛情のキス」
 
 
 
 
言葉にしつつ、その唇をなぞる。
指先に伝わる、柔らかな感触に引き付けられ、
それでも、僅かな自制心でもって口付けの場所をそらす。
 
 
 
 
「問1、現在私が口付けたい場所はどこでしょう?」
「え・・・・え、え、えぇ!?」
 
 
 
 
突然の事態に思考がついていってないんやろ。
うろたえるその表情がおかしくて、吹きだしそうになる。
 
 
 
 
「・・・・正解はここ」
「手の平・・・・?」
「そっ。さて、問2、これにより推測されることについて答えよ。・・・ま、考えへんでもええよ、これは」
 
 
 
 
なんとかその衝動を抑えて笑いかけると、私はなのはちゃんの手の平に口付けた。
そして目を白黒させとるうちに、問題を出して立ち上がった。
 
 
 
 
「さー、ほんならそろそろ帰ろか?結構遅くなってもうたし」
「え、あ、うん・・・・」
 
 
 
 
手の平へのキスは・・・『懇願』のキス。
 
 
 
 
「・・・・そない深刻ならんでもええて。大したことやないんやから」
「はやてちゃん・・・・」
 
 
 
 
気づいて欲しい、まだ気づかれたくない。
 
 
 
 
「・・・・私、ちゃんと調べて、考えるからね」
 
 
 
 
そんな、相反する思いを抱えた私の、最初の一歩。
踏み出してしまった、最初の一歩。
私を見て欲しい、私を想って欲しい、私を・・・『特別』にして欲しい。
私の願いを叶えられるのは、なのはちゃんだけやから。
そしてもしも、叶うのならば・・・・・
 
 
 
 
その心を、私にください。

 
 
 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

『その心の内側を』のはやてVer、いかがだったでしょうか?
今回は、セリフはそのままに、視点を変えてお送りしました。
なので、タイトルは二つで対になるようにつけました。
お互いその心の内側を求めながら、自覚がある師匠と、自覚がないなのはさんという形で書かせていただきました。
まぁ、ちょっとまとまり切らなかった感じもあるので、その辺は善処したいと思います。

一応これで終わりですが・・・ひょっとしたら続くかも?
このあと、意味を調べたなのはさんが色々思い悩み・・・・みたいな。
未定ですが、続きましたら、またどうぞよろしくお願いします(笑)

 

2007/9/12著・2007/9/19掲載


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