この手に望む、あの子を


 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
「ごめんフェイトちゃん、タオルケットまくって?」
「んと・・・これでいい?」
「うん、ありがとうフェイトちゃん」
 
 
 
 
フェイトちゃんにお礼を言い、眠っているヴィヴィオを起こさないように、
そっとベッドの中央に下ろすと、その身体にタオルケットを掛け直した。
 
 
 
 
「ふふ、よく眠ってるね」
「遊び疲れちゃったんだよ、きっと」
 
 
 
 
聖王教会からの帰り道、危ないな、とは思ったんだけど、
やっぱり車の中でヴィヴィオは眠ってしまって、駐車場からここまで、
フェイトちゃんと二人で、ヴィヴィオを起こしてしまわないように帰ってきた。
 
 
 
 
「・・・・可愛いね」
「・・・・うん」
 
 
 
 
タオルケットから覗いている、その寝顔はあどけなくて、
時折、夢の中でなにか喋ろうとしているのか、口許が微かに動いている。
そして、小さな呟きが言葉になって漏れた。
 
 
 
 
「・・・ママ・・・・・」
 
 
 
 
その呟きに、胸の奥で何かが微かに軋んだ。
ヴィヴィオの呟きは、本当のママに向けられたものなのか、
それとも、私に・・・向けられたものなのだろうか。
 
 
 
 
「・・・300年も昔なんだって」
「・・・・うん、聖王時代の古代ベルカの人だってね」
「ヴィヴィオのママを探してあげたかった・・・・でもね、フェイトちゃん・・・・・私、私ね・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・少し、ホッしたの・・・・」
 
 
 
 
ヴィヴィオの本当の母親が既に還らぬ人だと知って、彼女の母親を探してあげられないことを残念に思いながら、
あの瞬間、心のどこかで、私は確かに安堵していたのだ。
・・・・本当の母親がいなければ、私はヴィヴィオを失わずに済むのだから。
 
 
 
 
「・・・・最低だね。幸せに出来る自信がない、なんて言って逃げてるくせに」
「なのは・・・・・」
 
 
 
 
母親になる資格はない、自分で言った言葉が重く圧し掛かる。
・・・・当然だ。こんな私に、どうして母親が勤まるというのだろうか。
 
 
 
 
「・・・ごめん、フェイトちゃん。忘れて・・・・・・」
「・・・・・ねぇ、なのは」
 
 
 
 
それ以上言葉を紡げなくなって、背を向けようとした私の指先を、
フェイトちゃんの伸ばした手が包み込んだ。
 
 
 
 
「なのはは一個、大事なことを置き去りにしてるよ・・・・」
「大事な・・・こと・・・・?」
「幸せに出来るかどうかとか、母親の資格とか、そういうのちょっと違うと思う」
「・・・・・」
「なのは、シスターに言ってたよね、ヴィヴィオを必要として、受け入れてくれる家庭を探すって」
「うん・・・・そうだよ」
 
 
 
 
フェイトちゃんは私の手を包み込んだまま、一つ一つゆっくりと言葉を紡ぐ。
その暖かさと、大切な何かを私に伝えるために。
 
 
 
 
「でもね・・・・ヴィヴィオが欲しいのは、暖かい家庭じゃないよ」
「・・・・・・」
「ヴィヴィオが必要としてるのは・・・・大好きな、なのはママなんだよ」
「・・・・だけど」
「・・・与えられるだけじゃ、だめなんだよ。だって、一番必要としてるものじゃないんだもの」
 
 
 
 
・・・・フェイトちゃんは、私を傷つけないように、
だけど、大事なことから目をそらしてはいけないと言うように、沢山の言葉を紡いでいく。
優しく、私の中に届けるように。
 
 
 
 
「私はあの時・・・なのはの手をとることを選んだ。同じように、リンディ母さん達から伸ばされた手をとることも」
「・・・・・・」
「伸ばされた手が、私を必要としてくれて、そして私が必要としていたから、自分で選んで、手をとったんだ」
 
 
 
 
10年前の記憶。
伸ばされた手と、掴んだ手。
それは、お互いが求めたから。
 
 
 
 
「なのはも、ヴィヴィオを必要としてる・・・・そうだよね?」
「私・・・は・・・・」
「なのはがヴィヴィオを必要とするなら・・・なのはが、ヴィヴィオのママだよ・・・・・他の、誰でもなく」
「フェイトちゃん・・・・・」
「・・・焦らなくていいよ?ゆっくり、自分の気持ちと、向き合っていこう?私も、一緒にいるから・・・・」
「・・・・うん」
 
 
 
 
優しいフェイトちゃんの瞳、声、言葉、包まれた手の温もり。
全部が私を包んでくれて、硬く強張った心の奥が溶けていく。
その気持ちと一緒に、涙が溢れて。フェイトちゃんの指先が、その雫を拭ってくれる。
私は彼女の優しさに甘えるように、その肩にもたれかかり瞳を閉じた。
 
 
 
 
答えが出るのは、それでもまだ先のこと。

だけどこの夜、私の胸の奥で、大事な何かがコトリと小さく、音を立てた。

小さく、けれど、力強く。

そう遠くない未来に繋がる、始まりの音を・・・・・

 

  
 

...Fin


 


あとがき(言い訳)

とりあえず22話を見てて、なんとも言えないもどかしさに襲われたので、書いてみました。
ヴィヴィオを必要として受け入れてくれる家庭、とは言うものの、ヴィヴィオが欲しいのは、
大好きななのはママなわけで、ただ暖かい家庭じゃないと思うし、
なのはさん自体が、必死にそこから目をそらしてるような、そんな気がして・・・・がー!っと書いちゃいました。
なんて言えばいいのか、私自身上手く言葉に出来なくて、ちょっとわかりづらくなってしまったかもしれませんが(^^;)
まぁ、こういうのがあって、18話のあのシーンでヴィヴィオの大事さを突きつけられる、みたいな。

なんにしろ、キッドの妄想の産物には違いありませんが(苦笑)
フェイトさんに関してもちょろっと10年前を書いてますが・・・・あれもキッドの見解なので。
フェイトさんの方は、手を伸ばしてもらった方ですが、感覚的には似てるかな〜と思って。
お互いが必要としてるから、その手をとることを、フェイトさん自身が選んだんだろうなって。

うーん、やっぱりキッドの気持ち自体が上手く言葉に出来てない感が、
本文もあとがきも、ちょいでちゃってますが、とりあえずこんな感じで(^^;)
もうちょっと、気持ちを上手く言葉に出来ないものかな〜と、今後も模索は続きそうです。
でも、なんか感じてくれたらいいな〜って、思って書きましたので(^^;)

2007/9/2著


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