「目標、逃走します!」
「A班とD班は追走を!」
鬱蒼と茂った密林の中を、縦横無尽に走り回る今回の目標。
自律型のロストロギアは、私達の捜索兼捕獲隊から、その圧倒的な素早さで逃げ回っていた。
「・・・・ダメです!追いきれません!」
「振り切られます!」
「・・・・目標、ロストしました。どうしますか、執務官?」
「・・・・はぁ、仕方ありません、今日は引き上げましょう」
作戦の失敗。
それは、私の任務期間が必然的に増えることを意味していた。
「・・・・それでは明日、ポイントβを拠点にこちらから仕掛けます」
「班割りは今日と同じ形ですか?」
「はい、それから明日は私も単独で入ります、何か異論は?」
「ありません」
「では明日の正午から作戦を開始します、お疲れ様でした」
そうしてミーティングを終了すると、全員割り当てられた部屋へと戻っていく。
幸い、逃げられ続けているわりに、全体の士気は高い。
何としても明日こそは捕まえてやる、そんな気迫が感じられる。
明日は私も参加するし、この分なら何とかなるかもしれない。
・・・・いや、明日こそ、何とかなってもらわなければ、いい加減困るのだ。
なぜなら・・・・・・
「・・・なのはぁ〜・・・・・・」
そろそろ私のなのは欠乏症が、ピークに達しているからである。
「会いたいよぉ、なのはぁ〜・・・・・・」
任務について早一ヶ月、その間一度も帰宅することが出来ず、現在に至る。
元々は簡単な護送の任務、すぐに帰れるだろうと、ロクになのは分を補充しないで来たのは、大失敗だった。
護送隊の責任者が引き渡し直前に、誤ってロストロギアを起動、逃走させてしまったのだ。
そして私達はそのまま、ロストロギアの回収のため、この地での任務にあたることになってしまっていた。
不運なことこの上ない。
「うー、なのはは今頃ヴィヴィオとお風呂かな・・・それとももう寝ちゃったかな?」
誰もいなくなった会議室で、だらしなく机に突っ伏しながら、
あれやこれやと、なのはとヴィヴィオのことを考える。
我ながら、部下達にはとても見せられない姿である。
「こういうの、昔はまだ大丈夫だったのにな・・・・・」
昔なら、長期任務や残務も多く、ましてや私となのはでは所属が全く違うため、
一、二ヶ月会えないことだって、それなりあった。
けれど最近は仕事にも慣れ、特に大きな事件も無かった。
何より、六課に移ってからは、毎日がなのはと一緒で、
六課の解体後も、一緒に暮らすようになったため、
すっかり『一人』ということに対する、免疫が薄れてきてしまっていた。
悪いことではないと思うのだが、仕事に支障をきたすようでは問題だ。
・・・・半年や一年の任務とかきたら、本当にどうしよう・・・・・・・・・・・
「そしたら二人にも一緒に来てもらって・・・いや、いっそまたはやてが部隊を作ってくれれば・・・・・」
なんてことをブツブツ言いながらだらけていると、不意にポケットの携帯が震え、着信を知らせる。
そして開いてみれば、それは今正に考えていた愛しい人からのもので。
「も、もしもし!なのは!?」
「あ、フェイトちゃん?ごめんね遅くに、今大丈夫?」
「う、うん、平気、どうしたの?」
あぁ・・・・なのはだ。
なのはの声だぁ〜・・・・・
仕事が終わるまでは!と思ってメールだけですませていたので、声を聞くのも実に一ヶ月ぶりだった。
それだけでも嬉しいのに、なのはは更に爆弾を落としてくれる。
「んー・・・えっと・・・・・ね?」
「なのは?何かあったの?」
「ううん、そうじゃなくて・・・・あのね、フェイトちゃんの声、聞きたっかったの・・・・・・」
「なのは・・・・」
「ごめんね、お仕事まだ終わってないに、迷惑かけて」
「そ、そんなことないよ!私も、なのはの声が聞きたかったから・・・・・」
「・・・・えへへ、じゃあお相子、かな?」
「うん、そうだね」
寂しいのは、必要としてるのは私だけじゃない。
私も、なのはに必要とされている。
なのはの声と一緒に、その事実が染み込んでいく様で、心の中がポカポカと暖かくなっていく。
「あ、ちょっと待ってね、今ヴィヴィオに代わるから、ほらヴィヴィオ、フェイトママだよ」
「フェイトママ・・・・?」
「ヴィヴィオ・・・ごめんね、フェイトママ、まだお仕事終わらないんだ」
「うん・・・はやくかえってきてね、フェイトママ」
「分かってる、終わったらすぐに帰るからね」
「やくそくー?」
「うん、約束」
「えへへ・・・・」
聞こえてくる声に、電話の向こうでニコニコしているヴィヴィオの顔が目に浮かぶ。
帰る前には、何かお土産を調達しよう、うん。
またなのはに怒られない範囲で・・・・・
「あ、あのねフェイトママ、ヴィヴィオあたらしいまほーがつかえるようになったんだよ」
「え、ほんとに?凄いねヴィヴィオ!」
私がいない一ヶ月で、新しい魔法を習得したというヴィヴィオ。
射撃系かな?それとも防御系や移動系かな?
「んとね、あつめて、ドンッ!っていうやつ!!」
「・・・・・え」
集めてドン!って・・・・・え、あれ、
それって、もしかしてもしかしなくても、アレなんでしょうか?
「まだね、なまえつけてないの。フェイトママかえってきたら、いっしょにかんがえてね」
「う、うん、分かったよ・・・・・・・」
「ん・・・・と、いうわけなんだけど、フェイトちゃん」
「なのは・・・・・」
「いや、なんかね、私がやってるの見て、見よう見真似で出来ちゃったみたいでさ、あはは」
・・・・さすが理論じゃなく、感性で魔法を組むなのはの娘と言うべきか。
いや、血は繋がってないけど、時々それ以上の何かを感じます。
色んな意味で。
「だからつい私も、教え込んじゃってさ・・・・」
「そしてしっかり使えるようになってきたと・・・・・」
「うん、まだまだ入口だけどねー、これからもっともっと良くなるよ〜♪」
嬉しそうに、そう語るなのは。
つまりそのテンションで、この一ヶ月仕込んでたってわけね・・・・・
管理局の白い魔王の、二代目の座が見えるよ、なのは。
・・・・・帰ったら他の魔法も、ちゃんと教えよう。うん、それがいい。
「それからね・・・・他にも一杯お話したいことがあるんだよ、フェイトちゃん」
「うん・・・・私も、沢山聞きたいな・・・・・」
「早く、帰ってきてね・・・・?」
「うん、待っててなのは、明日にでも片付けて、すぐに帰るから」
「じゃあ、私とも約束ね?」
「約束する、全部終わらせて、すぐに帰るよ・・・・・」
大切な人がいて、その人達が待っていてくれる、私が帰るべき場所。
昔なら想像することさえ叶わなかった幸せが、今ここにある。
「それじゃあ、そろそろ切るね?」
「うん・・・・おやすみ、なのは」
「おやすみ、フェイトちゃん・・・・」
電話を切ることを名残惜しく思いながらも、私はボタンを押した。
それからしばらくボーっとして、イスに背を預けたまま、大きく伸びをした。
「ん〜・・・・よし!明日こそ終わらせてみせる!」
そしてすぐに帰るのだ。電話越しじゃない、君の下へと。
...Fin
あとがき(言い訳) 結局締め切りの一日前〜♪
えー、お尻に火がつかないと執筆のペースがあがらないキッドです、ごめんなさい(汗)
二本書いたとはいえ、前回の長さと比べれば、今回の方が楽だったはずなんだけどね(^^;)
結局お題『傷』の方は消化出来なかったし(汗)
えー、それでこっちはお題の『声』を題材に書きました。
そんなわけでフェイトさんは長期出張中。サイトの『構ってほしい』に続くような感じの代物。
そしてなのはさんと長い間引き離したので、背後に金色の死神の存在を感じてるキッドです(滝汗)
今後適当に埋め合わせをしないと、フェイトさんが怖いですね(苦笑)まぁまたなんか書きます♪
ではでは、ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございました〜♪
2007/9/17著
イベントお疲れ様でした〜♪終了したのでこちらでも掲載です♪
そんでもってアニメ本編の放送も終了!スタッフ様方、お疲れ様でした〜♪
やっぱり出張が多そうなフェイトさんは、きっと今後、毎回こんな感じになるんだよ(笑)
頑張ってフェイトママ(笑)
2007/9/28著
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