好きだからこそ、伝えない


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
どうしてそれが聞こえたのかは分からへん。
いや、そもそも普通に考えたら、幻聴やって済ます確率の方が高かったんやと思う。
せやけど、それでもなんや気になってもうて。
気がついたら、無人のはずの倉庫の方へ足が向いてしもうてたんや。
 
 
 
 
ひっく、ふぇ・・・うっ・・・・
 
 
 
 
倉庫へと続くドアを開けると、中からはすすり泣くような声が聞こえた。
非常灯にのみ照らされた室内は明るいとは言えず、奥を見通すことは出来ない。
せやけど、私には分かっとったんや。
そこで誰が泣いてるんか・・・・な。
 
 
 
 
「なのはちゃん・・・・泣いとるん?」
「・・・・っ!?はやて・・・ちゃん・・・・・」
「ん・・・・どないしたん?」
「あ、はは・・・・大した事じゃ、ないんだよ?」
「・・・・大した事あるやろ?泣いとるんやから。話してみ?」
「ほんとに、大した事じゃないんだよ・・・ただ、今日の私がちょっと、おかしいだけで・・・・・」
 
 
 
 
そう前置きして、なのはちゃんは話してくれはった。

今日は何故か、朝起きた時から既に不安定やったこと。
たまたま本局に用事があったこと。
ほんで、本局で同じように出向いて来ていた、フェイトちゃんを見かけたこと。
でもフェイトちゃんの周りには、執務官候補生の子達がいて近づけなかったこと。
そして、その中の子達がフェイトちゃんの腕にふざけて纏わりついたこと。
それを見て、逃げるようにして六課まで戻って来た、っちゅーこと。
まぁ、要約するとこんな感じやったみたいで。
フェイトちゃんは優しいから、振り払えなかったんやろうけど、
まさかそれをなのはちゃんに見られてるなんて、思わへんかったんやろな〜・・・・。
 
 
 
 
「・・・ね、大した事じゃないでしょう?」
 
 
 
 
まだ涙の残る瞳で、そう言って笑おうとするなのはちゃん。
せやな、確かに大した事やない。
それでも・・・・や。
 
 
 
 
「あ・・・はやて、ちゃん・・・・・」
「せやけど・・・大した事やったんやで、なのはちゃんにとっては」
「それ、は・・・・」
「・・・今は、私しかおれへんのやから、我慢することないんやで?」
「はやてちゃん・・・・」
「大事な人の事なんやから、気になるんは当たり前やろ?しゃーないやん」
 
 
 
 
コンテナに腰掛けるようにしとったなのはちゃんを、抱き締めながら言う。
いつもと違うて、私がなのはちゃんを抱きかかえるような形になっとって。
腕の中に閉じ込めたなのはちゃんは、私にしがみつくようにしてまた泣き始めた。
 
 
 
 
「はや、て・・ちゃ・・・ふぇ・・・うくっ・・・・」
「あーよしよし、もうー、なのはちゃんはほんまに、フェイトちゃんが好きなんやね〜・・・・・」
 
 
 
 
なのはちゃんをあやしながら、自分の言葉に胸がチクリと痛む。
あかん、地雷踏んどるやないか。

やけどその一方で、優越感を感じとる部分もあって。
きっとこの後、なのはちゃんは何でもない顔をして、フェイトちゃんに接するはずや。
でもフェイトちゃんは知らない。
この腕の中の温もりも、なのはちゃんの涙も、今は私のものやってことを。

・・・・・ほんまにあかんな、歪みすぎや、私。
 
 
 
 
「んん・・・はやてちゃん・・・・・」
「ん・・・なんや、もうええん?お望みやったら一晩中でもこうしとるのに」
「ふふ、それじゃあお仕事出来なくなっちゃうよ、はやてちゃん」
「うーん、さすがに部隊長と隊長が揃って早退は洒落にならへんな」
「うん、グリフィス君が泣いちゃうよ?」
「それはそれで試練とちゃう?」
「もう、はやてちゃんったら・・・・・」
 
 
 
 
なのはちゃんと、冗談を言い合いながら笑い合う。
笑うてくれて、ホッとしとる反面、少しの寂しさを感じてアホ、と自分を窘めた。
この話は、これでおしまい。
 
 
 
 
・・・そのはずやったのに。
 
 
 
 
「ふふ、そろそろ仕事に戻らないとね。つき合わせちゃってごめんね、はやてちゃん」
「かまへんよ〜、部隊長言うても大した仕事してへんし〜」
「まったく・・・はやてちゃんは嘘吐きなんだから」
「はは・・・そうやね〜・・・・・」
 
 
 
 
せやけど、立ち上がって外へ向けて歩こうとしていた、なのはちゃんの背中を見た瞬間、
自分では、もうどうにもならくなってもうて、気がついたらその背中に手を伸ばしとったんや。
 
 
 
 
「はやてちゃん?」
「・・・・・・えへん・・・・」
「え・・・・?」
「・・・フェイトちゃんはもう止めてもうて、私にせえへん?」
「・・・・!!?」
 
 
 
 
私の言葉に、後ろから抱き締めたなのはちゃんが、息をのんだのが背中越しに分かる。
それでも途中で言葉を止めることが出来なくて。
 
 
 
 
「それとも、いっそこのまま浮気してしまおか?」
「な!はやてちゃん何言って・・・!?」
 
 
 
 
なのはちゃんのその声には応えず、目の前で露わになっている項に軽く舌を這わせキスをした。
 
 
 
 
「やっ・・・・はやてちゃ・・・・・・っ!?」
 
 
 
 
拒絶の声を上げるなのはちゃんの項を強く吸うと、なのはちゃんから声にならない吐息が漏れた。
 
 
 
 
「このまま・・・・続けてみよか?」
「はやてちゃん・・・・やめっ・・・・・」
 
 
 
 
「・・・・な〜んてな?」
「・・・・えっ?」
「少しは気い晴れた?」
 
 
 
 
パッと抱き締めていた身体を離し、ニカッと笑うと、
事態についていけずにいたなのはちゃんは、からかわれた事にようやく気がついたらしく、
顔を真っ赤にして怒り出した。
 
 
 
 
「・・・・!?は、はやてちゃんっ!!」
「なはは〜・・・・かんにんな〜、痕はつけてへんし〜」
「あ、当たり前でしょう!もうっ!!」
 
 
 
 
そうやって怒っとる顔も可愛えんやけど、気づいてへんから困るんやって。
せやけど・・・・私は嘘吐きやないとあかんから、さっきまでの思いも全部、覆い隠すように言葉を紡ぐ。
 
 
 
 
「まぁあれや、また何かあったら慰めたるから、遠慮なく言うたってな〜♪」
「け、結構ですからっ!?」
 
 
 
 
ビクッと後ずさったなのはちゃんは、そのまま凄い勢いでドアの向こうに走って行ってもうた。
そのまま廊下を走ったらあかんでー?
そんな風に、ほんまはどうでもいい規則を思い苦笑すると、私はそのまま側の壁に腕をついてもたれかかった。
自然とため息に近いものが漏れる。
 
 
 
 
「・・・あかん、さっきは危なかったわ〜・・・・・・」
 
 
 
 
なんとか誤魔化せたものの、本音がボロボロ漏れたあたりは、ほんまにどないしょ思うたわ。
私、アホやなぁ〜・・・・
 
 
 
 
「10年も隠しとったくせに、今更やで、ほんま・・・・・・」
 
 
 
 
出逢ってから、あっという間になのはちゃんに惹かれてもうた。
せやけど隣にはフェイトちゃんがおって・・・・
なのはちゃんが気づくより前に、その心の中にフェイトちゃんがいる事に気がついてしもて・・・・・
 
 
 
 
「自覚する前に、奪ってもうてもよかったんやけど・・・・な」
 
 
 
 
けれど結局は、なのはちゃんの背中を押すことを選んでもうて、
今日までの、嘘吐きな自分を創り上げてきてしもうた。
それに、打算が無いわけじゃなかったんよ?
フェイトちゃんにかて、埋められへんもんはある。
そやから、フェイトちゃんが埋められへんもんは、私が全部埋めたろ思うて。
傷つけるより、その思いに浸りたくて。

そうやって、痛みは嘘と打算で覆い隠して、今日までずっと来たんやから・・・・
 
 
 
 
「・・・・おっしゃ、気合入れていくで〜!!」
 
 
 
 
両手で頬を叩いて、少し大げさに気合を入れる。
 
 
 
 
今日も明日のその先も、嘘吐きで、ずるい自分でいる、その為に・・・・・・

 

  
 

...Fin


 


あとがき(言い訳)

コミケから生還しましたキッドです、ごきげんよう〜♪(笑)
そして1本目からシリアスだし・・・(汗)
うーん、いや、でもねぇ、私やっぱりはやて師匠となのはさんの絡みも好きなんですよー。
でもフェイトさんとなのはさんの絡みも好きなわけでー・・・そして自然こうなるわけでして(汗)

ちょっとこの作品と、今後予定しているこの作品の系列を短編から切り離して、
独自に三角関係シリアスverを書いていこうかな〜、とかも思ったり。
・・・スタートしてない連載も抱えてるのに、ネタばっかり降ってきて本当に困ります(- -;)
とりあえずこんな感じで、ちょっと痛めのSSに今回なりましたが、皆様大丈夫でした?
師匠ファンに怒られないか、ちょっとドキドキです(汗)

あと更にフェイなのと別パラレルで師匠となのはさんもずらずら書きたいです。
それからなのはさんを襲っちゃう師匠とか、逆に
襲われる師匠とか師匠とか師匠とk(殴)
・・・最近Rやら18に全く抵抗が無くなってきた自分が怖いです(滝汗)
まぁそういうのも含めて、真剣な彼女達の恋愛を余すことなく、描いていけたな〜って思ってます。
そんな感じですが、まぁこれからも皆様よろしゅうに(笑)

2007/8/22著


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