キスマーク


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おはよう、スバル、ティアナ」
「「おはようございます」」
 
 
 
 
朝の食堂、相変わらず二人は一緒で仲がいいな〜、なんて思いながら私も席につく。
その拍子に流れてくる髪を、少々鬱陶しく思いながら後ろへ流す。
 
 
 
 
「あれ、なのはさん、その髪どうしたんですか?」
「髪型変えたんですか〜?」
「あ、うん、ちょっと気分転換にいいかな〜って」
 
 
 
 
あはは・・・・と、微妙に乾いた笑いが漏れる。
スバルは「なんだ、そうなんですか〜」って、素直に信じてくれるけど、
ティアナの方は、腑に落ちない表情をしている。
それでも、深く聞いてくることはなかったのでありがたい。
まぁ、聞かれたところで、真相は気分転換なんて可愛いものじゃない以上、答えられないことには変わりないのだけれど。
 
 
 
 
「お、スターズは揃っとるな〜、皆おはよーさん」
「おはようございます、八神部隊長」
「おはようございます」
「・・・・おはよう、はやてちゃん」
 
 
 
 
はやてちゃんの能天気な挨拶に、思わず口許がヒクっと引きつりそうになる。
その原因に気がついたのか、はやてちゃんはニヤリと笑う。
 
 
 
 
「ん〜、なのはちゃん、その髪どないしたん?イメチェン?」
「たまには気分転換にいいかな〜って・・・・ね」
 
 
 
 
そしてはやてちゃんは、白々しくもそう聞いてきた。
どうして私が髪を下ろしてなきゃいけないか、分かってるくせに・・・・
そう、事の原因ははやてちゃんなんだから。
 
 
 
 
「そうか〜、なんや新鮮やな〜」
「そうかな〜、あははは・・・・・・」
 
 
 
 
一見にこやかに会話しているが、私の目はきっと、いや間違いなく笑っていないし、
はやてちゃんの方も、明らかに面白がっている。
痕はつけてない、って言ってたくせに・・・・・はやてちゃんの大嘘吐き。
 
 
 
 
「ほんならまぁ、頑張ってな〜」
「ははは・・・・ありがとう、はやてちゃん・・・・・・」
 
 
 
 
そう言って全く悪びれる様子のないはやてちゃんは、手をひらひらさせながら食堂を出て行った。
食事をするわけでもないその姿に、私の様子を見に来るためだけにここに来たのではないかと思ってしまう。
まったく、人をからかうのが本当に好きなんだから・・・・・
はやてちゃんの行動に深く溜め息をつく。それが今日という日の始まりだった。
 
 










 
 
「うぅ・・・・髪下ろしてると、やっぱり何か変だよ〜・・・・・・」
 
 
 
 
朝のやり取りから数時間後、訓練やデスクワーク等今日の仕事を済ませ、自室へ戻る途中、
慣れない髪型での作業のせいで、磨り減った自身の神経を思い溜め息をつく。
部屋まであと少し、部屋に戻ったらのんびりできるから・・・・・・
そう萎えかけている自分を叱咤し、自室へと足を進める。
だけど・・・・・
 
 
 
 
『・・・・・・えへん・・・・』
 
 
 
 
「・・・・っ!?」
 
 
 
 
はやてちゃんの言葉を思い出し、思わず足を止めてしまう。
あれは私をからかっただけだ、この痕だって同じように私をからかうためだけのもので・・・・・
気にする理由など無い、そのはずなのに・・・・・
 
 
 
 
『・・・フェイトちゃんはもう止めてもうて、私にせえへん?』
 
 
 
 
けれど背中越しに囁かれた言葉は、どこか痛切な響きを秘めていて。
痛いほど真摯な想いを、あの瞬間確かに感じた。
それが私に、はやてちゃんの言葉を忘れることを許してくれずにいた。
 
 
 
 
「・・・何考えてるんだろう、私」
 
 
 
 
それでも、首を振ってその考えを振り払い、再び歩き出す。
考えたところで、答えを知っているのははやてちゃんだけなのだ。
まして・・・・・そんなこと、あるはずがないのだから。
 
 
 
 
「まさか・・・・ね・・・・・・」
 
 
 
 
彼女を想ってそう漏らした呟きは、無人の廊下に吸い込まれ消えていった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「・・・・ただいま」
「ん?おかえり、なのは」
 
 
 
 
それから、いつも以上に時間をかけて部屋に戻った私は、なんとも言えない疲労感を感じつつ扉をくぐった。
中では先に戻っていたフェイトちゃんが、モニターに向かって仕事を片付けているところだった。
 
 
 
 
「手伝おうか?」
「ううん、もう終わるところだから大丈夫だよ」
 
 
 
 
そう言っていつもと同じように笑うフェイトちゃんに、なんとなくホッとする。
そのまま私が着替え始めると、背後でモニターを閉じる音がした。
 
 
 
 
「・・・・ねぇなのは、一つ聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「んー、何、フェイトちゃん?」
「うん・・・・今日髪を下ろしてるの、本当のところはどうしてなのかな?」
「えっ・・・・・」
 
 
 
 
帰ってきた時の様子ですっかり安心していた私は、その言葉に素早く反応することが出来ない。
 
 
 
 
「えと、それは・・・その・・・・・」
「私が気づかないとでも思ってるの?」
「え・・・フェイトちゃっ・・・・きゃっ!?」
 
 
 
 
後ろから抱きすくめられ、さっと髪を掻き揚げられると項が露わになる。
当然、はやてちゃんにつけられた痕も、フェイトちゃんには見えているはずだ。
痕がついているであろう箇所を、フェイトちゃんの指先がなぞっていく。
 
 
 
 
「へぇ・・・・誰につけられたのかな?」
「う、あ・・・・フェイトちゃん・・・・・・」
「喋らなくていいよ、分かってるし・・・・・」
「フェイ・・・・ひゃうっ!?」
 
 
 
 
痕をつけられていた箇所を、フェイトちゃんに強く吸われる。
 
 
 
 
「ん・・・・ほら、これで私のものになった」
 
 
 
 
フェイトちゃんはそう言って嬉しそうに笑うと、つけた痕をぺロリと舐め上げる。
項に走る甘い痺れに、私の思考はどんどん奪われていく。
 
 
 
 
「ふぁ・・・・フェイトちゃん・・・・・・」
「そうだ、こっちにもつけておこうか?」
「え・・・やぅっ!?」
 
 
 
 
急に身体を反転させられると、フェイトちゃんの顔が私の首筋へ沈み、
次の瞬間、喉元にも甘い痺れが走り、赤い痕をつけられたであろうことを直感する。
 
 
 
 
「ふふ・・・これでいいかな?なのは、両方とも隠しちゃダメだからね?」
「んぁ・・・・そんな・・・・・・」
「ちゃんと明日は髪も上げるんだよ?簡単にこんなのつけられた罰だからね」
「・・・っ!?・・・・フェイトちゃんの意地悪」
「うん、なのはの可愛い姿を独り占めするためなら、いくらでも意地悪になれるんだ」
 
 
 
 
そう言ってフェイトちゃんは、とても嬉しそうに微笑んだ。
こんな状況なのに、その微笑に捉われて動けない私は、もうすっかりフェイトちゃんに心酔しているんだと思う。
 
 
 
 
「あぁそれから・・・・火ついちゃったよね?大丈夫、ちゃんと鎮めてあげるよ・・・・・・・」
 
 
 
 
耳元でそう囁かれた言葉を否定しようにも、
私に触れ始めた彼女の指先に、全ての言葉を奪われる。
とうに溶かされた理性は何の役にも立たず、
後はただひたすらに、彼女の力強い腕の中で溺れ続けていくだけなのであった・・・・・・

 

  
 

...Fin


 


あとがき(言い訳)

三角関係パート2、前回の師匠視点SSの続きとなっております。
うーん、書いちまったぜ・・・・(汗)
ほんとにこれも連載化しちゃいそうで怖いです(- -;)
高速で全部のSSを仕上げる腕が欲しいですね(笑)

内容的には、はやてさんの気持ちに気づき始めるなのはさんと、
痕をつけられたことに嫉妬しつつも、なのはさんを捉えて離さないフェイトさん、みたいな。
立派に三角関係を表面化させる土台が揃ってきました、さーどないしょか?(苦笑)
書くとしたら次は順番から言ってフェイトさん視点ですかね?
完結まで書くなら、後3本前後書くことになるかと。
・・・え?いや、一応キッドの中では完結までの構想はもうありますよ。
単に書く根性があるかないかだけの問題で(笑)
まぁ、まったり更新には変わりありませんので、皆様気長にお付き合いいただけるとありがたいです(^^;)

んではでは、また次の作品でお会いしましょ♪ごきげんよ〜(キ^^)ノ

2007/8/27著


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