抜けちゃうよ
「フェイトちゃん、抜け毛増えた?」 「へ……?」
二人揃ってお家の書斎でのんびりとコーヒーを堪能する午後、ふと聞いてみれば一瞬だけきょとんとしてから、あぁー……とフェイトちゃんの顔曇った。 その顔は心当たりがある、といったところか。
「……減ってるよね、やっぱり」 「んー、そんなに変わったとは思わないけど」
言われてしげしげとその金色の髪を眺めるけれどこれといって変化は見られない。 私の問いかけも枕とかお風呂とか、そういったところに残されたそれがちょっと増えたかな?っていう程度の感じだし。 むしろ分かるくらい変わっちゃってたらそれはもう一大事だと思う。
「ストレス?」 「んん……なのかなぁ……」 「機密性の高いお仕事も多いしね……」
頭皮をマッサージすればいいのかな?どうだろうね、やってみる?なんて言いながらフェイトちゃんの頭を揉んであげる。 ツボがどうのとかもあるから本当はそういうのも気にした方がいいんだろうけど、素人だしまぁ普通に軽く揉み解し目的でいいだろう。 洗髪してあげる時と似たような感じかな?
「まぁ、うん、ちょっと困った人もいたりするしね……」 「そうなんだ?」 「珍しい話じゃないけどね」
まぁ確かに。 私もフェイトちゃんもこういうお仕事だから色んな人達と関わるし、その都度それなりに色々とあるものだ。 むしろ仕事だからと思える分まだやりようはあるけれど。 それでもフェイトちゃんが口にするぐらいというのはちょっと珍しい気もしなくはない。
「後頭部とか首筋がチリチリする感じ」 「……じゃあ一緒の任務とかになったら大変だね」
やめて、禿げる!と頭をかかえるフェイトちゃん。 抜け毛がひどくなったら要注意。 若くてもな、真ん丸お月さんが表れることもあるんやで……とは若き司令官の言である。 抜けは抜けでも色が抜けちゃうケースもあるみたいだし。
「あ、白髪」 「えぇぇっ!?」
大丈夫、まだ一本だけだから。 めそめそと顔を覆うフェイトちゃんの頭をよしよしと撫でて揉み解しを続行する。 今度シャマル先生に色々教えてもらおうかな。
「ただいまー……って、何してるのなのはママ、フェイトママ」 「あぁ、おかえりヴィヴィオ」 「おかえりーヴィヴィオ。んー……マッサージ?」 「こってるの?」 「頭ってこるの?」 「さぁ?血行促進?」 「育毛?」 「どうなんだろうね」
毛根を労ってるって意味では同じかな?髪を洗う時もガシガシやらないでちゃんと地肌を揉んで汚れとか油を出してあげないといけないって言うし。
「……せっかくだから後で洗ってあげるねフェイトちゃん」 「えっ!?」 「よかったねフェイトママ」 「ヴィヴィオ!?」
じゃあ娘はお邪魔にならないようにアインハルトさん達と練習に行ってきますー、と鞄を置くと再びヴィヴィオは出かけていった。 ちょっと前までなら一緒に入ると喜んでいた気がするのだけど、最近は時々ドライです。
「親離れ?」 「うぅ、それはちょっと嫌かも……はっ、下着を別々に洗われてしまう日が!」
こないこない。
「大丈夫だよフェイトちゃん」
定期的にフェイトちゃんがフェイトパパになるのも仕様といえば仕様かな? まぁお風呂は一人で入っちゃうようになるかもしれないけど。 ただまぁ……
「むぅ……でも私達の可愛い娘だもんね。元気でいてくれればそれで……」 「フェイトちゃんは泣いちゃいそうだよね」 「えっ?」
えっ?えっ?えっ……?と首を傾げるフェイトちゃんに何でもないよと言ってまたよしよしと頭を撫でた。 娘が親離れどころか恋人なんて連れてきた日には抜け毛どころか真っ白になっちゃうんだろうなぁなんて、言ったら想像だけで泣いちゃいそうなフェイトちゃんには冗談でも言えそうにない。 出来ればいつの日か現実になる時までは触れないでおいてあげようと思うのだった。
あとがき(言い訳)
首筋とか後頭部のあたりってストレス感じるとちりちりしない?禿げない?大丈夫? っていうしょーもないお話(笑) 昔左後頭部のあたりに根元黒で真ん中白で毛先黒っていう部分白髪なら見つけたよ。 きっと白い時期にストレスかかってたんだろうなぁって解釈してる(笑) (夏の原稿にはページ合わせが必要だったらこの話も組み込むかもです)
2015/7/31著
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