それでもきっと構わない












「バレンタインデー?」
「そやで?」




今日の仕事もそろそろ終わり〜♪
と足取りも軽く報告に戻ってきていたなのは、現在の仕事の上司であるはやてから渡された包みを前に固まった。

何これ?
だからチョコ。
なんでチョコ?
そういう日やから。

というやり取りが交わされようやくそこでなのはも気がついた。
今日が二月十四日。
俗に言うバレンタインデーだということに。




「……なのはちゃん、忘れてたんか……?」
「あ、あはは、いや、最近ちょっと曜日と日付の感覚が……」
「……ボケるには早いでなのはちゃん」
「あぅ……」




疲れてるんちゃう?と苦笑するはやてに大丈夫と首を振る。
そう言えば確かにここのとこ忙しくはあったものの、はやてと組んでの仕事だったためいつもより充実していたなのはは、自身の疲れをあまり気にしてはいなかった。
それどころかむしろ元気……過ぎて毎日楽しく訓練や任務に勤しむうち日付の感覚が希薄になっていたのだろう。
結果、はやてにチョコレートをもらうまでバレンタインデーの存在を失念するという事態に陥った。




「まぁバレンタインなんてミッドにはないしなぁ〜、そもそも地球、いや日本のお菓子屋の戦略やし」
「にゃはは……まぁそうなんだけどね……」




お菓子屋の戦略、には違いないのだが、それはそれこれはこれ。
なのは達にとってはお世話になった人や大切な人にチョコレートをあげるもの、と染みついた風習になっている。
ミッドに来てからも毎年仲間内や話を聞いた元六課メンバー達なんかと交換したりと、楽しみの一つだったりする。
……忘れてたけど。




「……少し頭を休めることをお勧めするわ、高町一尉」
「うぅぅ、ぜ、善処します八神司令……」




ほんまに休んでなー?と言うはやてにはぁーい、と明るく答えるなのはは本当に気にしているのか疑わしい。
いっそ無理やり休みの一つでも組み込んでやろうかとはやてが思うのも無理はない。




「それにしても、はやてちゃん凄いね、毎年必ず手作りなんだもん」
「そらまぁちゃんと愛情込めとるからな」
「えへへ〜、ありがとうはやてちゃん」
「そやのになのはちゃんからのお返しがないなんて悲しいわ〜」
「ふにゅ、ご、ごめんねはやてちゃん……明日、明日必ず持ってくるから!」
「明日はもうバレンタインやないもーん」
「ふぇぇ、そ、そうだけど〜……」




うりうりとなのはをいじめるはやてはとても生き生きとしていて楽しそうだ。
対するなのはもそんなはやてに苦笑しながらも実はそれほど嫌ではない。
仕事はもちろん上との折衝に奔走することも多いはやてと、こうしてじゃれ合うことははやてにとってもちょっとした気分転換になると知っているから。
ここにフェイトがいればもっと楽しかったに違いない。
そう、フェイトがいれば……フェイト?




「……って、あぁぁぁぁーっ!?」
「うぉっ、な、なんやなのはちゃん、どしたん?」
「ふぇ、フェイトちゃんって今日の上がり何時だろ!?」
「えー? 知らんけど……多分また遅いんちゃう?」
「そ、そうだよね……ま、間に合うかな……」




残業なしでこのまま帰って、途中で材料買ってヴィヴィオにも手伝ってもらって……そしてフェイトちゃんが帰ってくる、よし行ける。
任務の時も斯くやという厳しい表情で唸るなのは。
それでもミッションコンプリートの目処が立つといつもより更に三割増しの笑顔でぱぁっと笑った。
たぶんファンクラブの子達が見たら倒れそうな勢いで。
それ隊員達に見せたらあかんでなのはちゃん……とはやての頬が軽くひきつる。
ここが執務室でよかったと心底思う。




「あ、あの、じゃあはやてちゃん、私これで……」
「残業な」
「ふぇぇぇっ!?」
「冗談や、うざいからはよ帰って」
「うざ……って、酷いよはやてちゃん!?」
「なら残業するか?」
「あぅ……か、帰らせていただきます……」




さっさと帰り〜、い、言われなくても帰るもん!
なんてやり取りをして入ってきた時よりもかなりばたばたとなのは出て行った。
きっとこれから帰り支度をして車をかっ飛ばして帰るに違いない。
今日もただいまと言って遅くに帰ってくるだろうフェイトにチョコレートを渡すために。
予定調和。
分かってはいたことだけど……




「……今年もなのはちゃんは私の本命チョコには気付いてくれませんでした、と……」




あぁ不毛やなぁ、意味ないなぁ、でも好きなんやもーん。
……でも、だけど。
気付いてもらえなくてもチョコレートに包んだ気持ちくらいは渡せる今日を自分はそれ程嫌ってはいないのだろう、と一人になった執務室ではやては誰にともなく苦笑する。
毎年毎年飽きないものだ。
重病にも程がある、とまた笑った。


――振り向いてもらえなくても君がいい。


きっと絶対言わないけれど。



 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

お久しぶりですキッドです。
……ほんとに久しぶりすぎて何から書いていいか状態です(苦笑)
てことでとりあえず過ぎちゃったけど、季節物を〜ということでバレンタイン書きました〜。
どこでなのはやになってしまったのかキッドにも分かりませんw
と言ってもフェイなの前提なのではやてさんが不憫……似合うんだもんはやて師匠切ない系。
そしてフェイなのは、
予定よりも早く帰ってきたフェイトさんを前にあたふたしながら
「おかえり、でも早いよフェイトちゃんのバカ!」「ただいま……って、えぇぇっ!?」
とかやってればいいと思います。なのはさん理不尽。でも可愛いから問題ない。
とりえずそろそろ落ち着いてきたので更新増やせればなーと思う今日この頃。
……原稿のデスマーチが終わったら、ね;;

2014/3/1


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