『おはよう、なのは』
『なのは、いってらっしゃい』
『慌てちゃダメだよなのは』
『……好きだよ、なのは』
……フェイトちゃんは、いつも私の名前をたくさん呼ぶ。
『な〜のは♪』
『なのはぁ』
嬉しい時、楽しい時、寂しい時……悲しい時も。
――それから。
『……なのは』
とてもとても愛おしそうに、ふわりと微笑んで、優しい声で。
髪を撫でる優しい手も頬を滑る指先も好きだけど、私の名前を呼ぶフェイトちゃんが私は一番好きかもしれない。
だから、普段と違う呼ばれ方をしたりされるとちょっとだけ、どきっとする。
「高町教導官」
「っ? あ、はい、何でしょうかハラオウン執務官」
次の訓練に向かう途中の廊下で呼び止められて、ちょっとだけ心臓がはねる。
自分のことだと認識するのに一瞬の間があったのはご愛嬌。
呼ばれ慣れているはずの互いの呼称がなんとなく気恥ずかしい。
「来週の演習についてなんですが……」
「そちらでしたら……」
見れば次元航行隊の人も一緒で、フェイトちゃんはお仕事モードなんだなって顔をしていた。
凛々しいのに穏やかな物腰の彼女の姿は通りすぎていく隊員達のため息を誘う。
――かっこいいでしょ?
――素敵でしょう?
言われなくても皆知っているはずのことなのに、言いたくなるのはなんでだろう。
「では本官はこれで」
「あ、はい、お疲れ様です」
「報告書の方はお願いします」
来週の確認と打ち合わせに句切がついて、フェイトちゃんと一緒にいた隊員が敬礼をして戻っていった。
残ったのは私とフェイトちゃんの二人だけ。
タイミングがいいのか悪いのか、廊下の人通りも止んでいた。
なんとなく見つめ合って静止する私達。
お仕事モードから戻るタイミングをはかるみたいに。
「……」
「……」
先に動いたのはフェイトちゃん。
ふわりと微笑んだ先にいるのは私だけ。
上げた手が私に伸びる。
「あ、ハラオウン執務官」
「はい」
その指先が私の頬に触れるか触れないか、というところで背中から声がかかった。
一瞬で切り替えたフェイトちゃんはまたお仕事モードに。
きりりっ、と引き締まった頬が一瞬引き攣ったのは残念だと思っているからなのか。
「次の会議のお時間が……」
「あぁ、分かりました、すぐ行きます」
頷いたフェイトちゃんにはもうさっきまでの余韻はない。
現場が違うことがほとんどなのだから、偶然こうして会えただけでも今日は運がよかったのだと思う。
それでもあと五分、なんて寝起きみたいに未練があるのは私も残念だと思っているから。
「……ふふ」
「フェイトちゃん?」
声をかけてきた隊員さんが去るとフェイトちゃんもその後に続いて……と思っていたのに、
フェイトちゃんはまだそこにいて、なんでだか笑っていた。
「なのは、ここ」
「ふぇ?」
「眉間にしわがよってるよ?」
「にゃっ!?」
なぁに、と私が首を傾げると、ひとしきり笑ってからフェイトちゃんは眉間を指した。
どうやら不満が顔に出ていたらしい。
お仕事なのだから仕方がない、と分かっているのだけれどやっぱり残念な気持ちは消せなくて。
ぐしぐしと慌てて眉間をほぐしていると、さっきは届かなかったフェイトちゃんの指が私に触れた。
「……なのは」
「っ……お仕事中だよ?」
「うん、残念……」
それでも目を細めて微笑むフェイトちゃんに私の頬も自然と緩む。
頬を撫でる手が温かい。
「……今日ね、少しだけ早く帰れそうだから」
「うん……」
「終わったら行ってもいいかな……?」
「もう……なんで断る必要があるの?フェイトちゃんの家でもあるんだよ?」
ぷぅ、とわざとらしく頬を膨らませてみれば、ごめんごめんとフェイトちゃんが笑う。
遠慮なんてされたらヴィヴィオと私が困ってしまう。
「じゃあ……またあとで」
「うん……」
帰宅を約束してフェイトちゃんが私から手を離す。
温もりを失った頬がちょっぴり寂しい。
歩き出したフェイトちゃんの背中を見つめていると、立ち止まってフェイトちゃんが振り向いた。
「?」
「……愛してるよ、なのは」
「ふぇっ!?」
突然呼ばれた名前と愛の言葉に胸が詰まる。
ここ廊下!と左右を見回す私にしてやったり、といった風に笑って、今度こそフェイトちゃんは仕事へと戻っていった。
「うー……フェイトちゃんの、ばか……」
愛してるってちゃんとお返事出来る時に言ってくれればいいのに不意打ちなんて。
私も訓練に行かなくちゃいけないのにフェイトちゃんのせいで頬が熱い。
「……むぅ」
これはもう、今日の訓練が終わったらフェイトちゃんの好きな物をたくさん作ってあげないといけない。
そしてヴィヴィオと二人でフェイトちゃんを迎えてあげるのだ。
「よし、訓練終わったらまずお買い物だね」
頬っぺたをぱたぱたと扇ぎながら軽い足取りで訓練室へと歩きだす。
原動力はフェイトちゃんの笑顔と優しい声。
『ただいま、なのは』
貴女が紡ぐ、私の名前、愛しい声。
ずっとずっと、変わらない温かさを私にくれる。
だから私も伝えるの。
おかえりなさいと、大好きと、それからもちろん、愛してるを。
貴女の声が響くみたいに、私の声が少しでも多くフェイトちゃんに届きますように……
...Fin
あとがき(言い訳)
あけましたおめでとう!w
コミケから早二週間、さすがに50分睡眠で出動したので復活までかかったキッドですw
いや、まだまだ若いよね!(死)
そんな訳で……まだ書いてないクリスマスでも新年でもなんでもなく、ふつーになのフェイになりました。
人が見てないちょっとした隙間時間のオフィスラブっていいでふよねw(をぃ
2013/1/13著
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