世界の大半は幸せで、世は全てことも無し。
……なんて、お伽噺の世界でだってそうはない。
「……以上で任務を終了する。ご苦労だった」
『ハイッ!』
任務終了の言葉と共にカッと靴が打ち鳴らされ周りの局員達が一斉に敬礼をする。
私も同じように形通りの敬礼だけを上官に返す。
こんなものに何の意味があるのか、本心ではそう悪態をつきながら。
だって、何一つ終わってなんかいないのに。
「……フェイト」
「……何、クロノ」
解散してそれぞれの帰路につく局員達。
それに倣う気にはなれなかったけど、その場に留まる気も無かった私も踵を返した。
そこにかけられる上官の……クロノの声。
「……いや、なんでもない。ゆっくり休んでくれ」
「うん……クロノ……お兄ちゃんも」
それはよせと言ってるだろう、そう言うクロノは上官の顔から少しだけ兄の顔になっていた。
だから私も少しだけ妹の顔で言葉を交わす。
お互い舌先に残った苦さを押し隠すように。
飲み込んだ言葉は出口も無いまま心の中にだけ影を落とす。
「……大丈夫」
それじゃあとクロノと別れ、本局の廊下を進みながら確かめるように呟いた。
そう、大丈夫。
まだ平気、頑張れる。
頑張らなきゃ、いけない。
得られる結果が無いに等しい、いや、何一つ得られなくても。
たとえ失うだけだったとしても。
「やらなきゃ……」
私の仕事は、執務官は、たくさんの悲しみと、その痛みと苦しみと向き合うものだ。
そのために私はいる。
私はそのために存在している。
……あぁ、だけど。
それで、世界の何が変わるのか。
「……フェイトちゃん」
「っ……ぁ……なの、は……?」
どこをどう歩いたのか記憶にない。
だけど私の足は正確に駐車場の私の車に向かっていて、車の前でぴたりと止まった。
聞こえる、声。
視界に入る亜麻色と蒼。
「……おかえりなさい、フェイトちゃん」
「……っ……」
その腕に包まれて、心がほどける、音がした。
「怪我、してない?疲れたよね……?」
「……うん……へい、き……」
「お疲れ様、おかえり、フェイトちゃん……」
ただいま、全然へっちゃらだよ、だって痛いのは私じゃないから。
……そう言わなきゃいけないのに、心配かけちゃうだけなのに。
音を立てて崩れた心は熱い雫になって頬を伝った。
「フェイトちゃん……」
「っ、ごめ……ごめん……なの、は……」
「……ここにいるよ、大丈夫……」
何も心配はいらないから、泣いていいんだよ?
そう君が私の背中を撫でるから。
後か後から零れて伝う雫が君の制服を濡らしても私は君を離せない。
「いいよ、全部出しちゃおう?痛いのも苦しいのも、悲しいのも」
「……くっ、ぁ……私の、じゃ、無い……」
「……フェイトちゃんのだよ。優しいから、フェイトちゃん」
擦り切れてボロボロな心と身体で君に縋りつく。
ごめんね、本当は全然、大丈夫なんかじゃないみたい。
どうして世界は、こんなに苦しくて悲しいことばかり溢れてるのかな。
どうして私は、こんなに弱いのかな。
どうにもならないと分かっているのに、そればかりがぐるぐる回り続けて、私の中から出ていかない。
「……でも、やめないんだよね?」
「……うん……やめ、ない……」
それでも……それでも私は、やめない。
手の平の魔法で、何が出来るか、君が私に教えてくれた。
私は、この道を歩いて行く。
だからお願い、どうか。
「一緒だよ、ずっと、フェイトちゃんの傍にいるから……」
「なの、は……なのは、なのは……」
君の隣でだけ、羽を休める事を許してください……
...Fin
あとがき(言い訳) 前回の怜竜いちはちきんからちょいとSSは間が空いちゃいましたごきげんよう☆
ええまぁ締め切りと追っかけっこしてたからですが何かww
ということでまたなんか真面目なの方向のが書けました……なぜw
いつも通りのほほんとしたのを書こうと思ったんだけど、
ニコニコでFate/ZeroのOPをループで流してたらなんとなく浮かんできたのはこんなフェイトさんでした。
人間は最低で卑しくて醜くてたぶん一番薄汚れた生き物なんだろうなぁ、と。
……でも捨てられないのはきっと素敵だと思う瞬間やそんな誰かの背中があるからなんでしょうね。
……うん、真面目な話お終いww
さーまた次の原稿やるぞ〜☆
……9月と10月のデスマーチが早くも始まったのさ……ぐすんぐすん(笑)
2012/8/5著
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