しょうもないことでも














夏と言えば暑い。
暑いと言えば夏。
それはもはや確定といってもいい事項だが、学生には他にも夏の確定事項があったりする。
上げればいくつかあるが、代表的なのはやはり一大イベント『夏休み』というやつだろうか。
大半の学生が羽を伸ばし、青春を謳歌する……はず。
 
 
 
 
「……私らは仕事やったけどな……」
 
 
 
 
ふっ、と自嘲気味にこぼすはやて。
青春なにそれお仕事ですけどな中学生なんてそういないかもしれないが、ご多聞からははやてはもちろん、なのはとフェイトも盛大に漏れ落ちる。
管理局勤めなことを後悔はしていないものの、この歳でそれはどーなんだろう、と思ったことがないわけじゃない。
……なのはとフェイトに関してはなんやかんやで青春してるので、それもまたはやてがええなぁーと思う部分だったりするのだが。
 
 
 
 
「でもちゃうねん。今それはどうでもええんよ」
 
 
 
 
バンバンと机を叩きながらも、手早く書類をまとめ片付けていくその手際の良さはさすが主婦、いやこの場合敏腕捜査官というべきか。
そしてはやては綺麗になった上にまた別の書類を置いた。
国語、とか、数学、とか書かれた色んなプリント一式を。
 
 
 
 
「ふ、ふふふ……」
「……笑顔が怖いですはやてちゃん……」
 
 
 
 
形容するならそのままふふふかニタァのどっちかで。
 
 
 
 
「えぇっと、はやてちゃん……?」
「主はやて……その、宿題が残っていたくらいそう気にすることでは……いえやらねばなりませんが……」
「……ってだからちゃうて! 宿題は全部終わっとるんよー!」
「あ、ああはい、すみません主はやて……」
「え、そうなんですか?」
「リインもてっきり宿題だと思ってたです……」
「……皆私をなんだと思ってるん……?」
 
 
 
 
夏休み最終日になっても宿題をやってない主、と思われていたはやてはがっくりと肩を落とした。
それは違う大きな誤解だ。
宿題はきちんとやった。
仕事の合間やなのは達と集まって等、仕事がある分むしろ頑張って早めにこなしたと言ってもいい。
いつぞやのフェイトみたいに、うっかり自由研究を忘れていてなのはに追い立てられている、等ということもない。
重ねて言おう、宿題は全部やったのだ。
ただ……
 
 
 
 
「授業欠席分の課題が残ってたんよー……」
「あー……」
 
 
 
 
でん、と重なったプリントの束。
一枚一枚は普通にただのプリントだが、重なると結構な迫力がある。
 
 
 
 
「いやなー、夏休みちょい前に出た課題なんやけど、少し長い任務があったやろ?」
「あぁ、そういえば三日程かかりましたね……」
「あの時の分ですか……」
 
 
 
 
滅びた文明の超技術、主にロストロギアと呼ばれる古代遺失物は次元世界の各地に点在し、時として現世でまで猛威をふるう。
実際にはやて自身、一度はその脅威にさらされた身であり、その危険性は身をもって認識している。
そんなロストロギアを探し、追いかけ、回収することも多いはやての任務は多岐に渡る。
単独での法執行が可能な執務官のフェイトの方が、出張やら追跡やらも多いのだが、捜査官は捜査官で動きやすさから現場では結構重宝されていたりする。
そんなはやてが夏休み前に加わった任務は簡単なロストロギアの回収……だけでなく、現地の魔獣とドンパチしたり捜索したりと、何気にハードな内容だった。
ぶっちゃけなのはの方が適任だったかもしれない。
「まぁそんなわけで長引いた分学校に行けんかったわけやけど……その時の課題が、夏休みの宿題と一緒に提出やー、いうんをころっと忘れてたんよ……」
たははー、と笑うはやてにリイン達も揃って苦笑を返す。
しっかり者のはやてにしては珍しい失敗だ。
 
 
 
 
「まぁそんなわけで私は今日一日これやから……」
「承知しました主はやて」
「お家の事はリイン達がやるですよ〜」
「お食事は任せてくださいはやてちゃん」
「ありがとうなぁ〜……」
「……」
「……」
「……?」
「……うん、食事は私も手伝うわぁ〜」
 
 
 
 
ヴィータとザフィーラが局での仕事でいないこのメンツ、いやいたところではやてに次いで家事の経験値が高いのはシャマルなのだが、その味覚、というか料理スキルに関しては相変わらずかなり危険なレベルにある。
シグナムとリインのなんとも言えない表情にはやてもまた苦笑する。
あかん、私が倒れたらうちの食事は崩壊する。
これからのリインが期待できそうな分、昔よりはマシだとは思うけど。
とりあえず洗濯とご飯の下準備をしてくるです〜、といってくれるリイン達に家事は任せることにして、はやては机の課題に向き直った。
厚さ約三センチ。
 
 
 
 
「……何をどうしたら三日でこんな厚さになるんよ」
 
 
 
 
べらっとめくってみれば国語と英語がやたら多い。
そういえばこの日は宿題が多かったと、国語が苦手ななのはが随分と嘆いていた。
幸いはやてにとってはどちらも得意分野なので問題無いが、単純に量がかなり多い。
本当にどうして忘れていたのか。
 
 
 
 
「くぅ……あかん、やってもやっても終わらへん……」
 
 
 
 
一枚、また一枚、と黙々と課題を片付けていくがあまり減っている気がしない。
終わりが見えてくればそこからは早いはずだが、いつだってそこまでは辛いもの。
結局は自分との闘いなのだ。
 
 
 
 
「うぅ、うっかりはフェイトちゃんの専売特許のはずやのに……」
 
 
 
 
どこかでうつってしまったらしい。
ちょ、それ酷くなく!?とか叫ぶフェイトを片隅に押しやってどうにかこうにか数学と理科を終わらせる。
この時点で残りは当初の四分の三。
 
 
 
 
「……いや多すぎやから国語」
 
 
 
 
なのはだったら間違いなく泣きだしているくらいの量がある。
三日でこれとか絶対嘘だ。
普通に上乗せされている。
 
 
 
 
「ええ根性してるわ……」
 
 
 
 
ひと癖あるはやて達の国語の教師はちょっとおかしい、いや面白い人だ。
はやて自身はかなり仲がいいのだけれど、あの先生の場合減らしてくれるどころか喜んで増やして楽しみそうだ。
これくらい八神は余裕だろ?とかしたり顔で言いそうで想像したらむかっと来た。
先生私ら働いてるんやで。
言うわけにいかないから言えないけれど。
 
 
 
 
「日夜頑張る公務員にこの仕打ちはないわー……」
 
 
 
 
はぁ、と溜息をつくがそれでプリントの量が減るわけでもなし、泣く泣くはやては分厚い国語のプリントに取りかかる。
そもそも去年の復習部分まで突っ込んでかさ増しするとかどう言う了見だ。
教師がそれいいんだろうか。
明日絶対に文句を言ってやる。
 
 
 
 
「ん……メール?」
 
 
 
 
ぶちくさ文句をいいながらも、それを燃料にバリバリとプリントを埋めていたはやての手が止まる。
気がつけば携帯がぴかぴかと光っていた。
受信件数は四件。
 
 
 
 
「……ぶはっ」
 
 
 
 
なんやろなー、と何気なく携帯を開いたはやては、一個目のなのはのメールで吹き出した。
なんだこの踊る文章は。
 
 
 
 
「あるんか、こんな絵文字、いや踊る文字が」
 
 
 
 
うねうねと『はやてちゃん課題どう〜?』と携帯の画面で踊るピンクの文字。
はやてが課題漬けだと情報を漏らしたのはリインあたりだろうか?
それでもなのはのこれは絶対狙っているとしか思えない。
 
 
 
 
「いやいや、なのはちゃんの場合は天然にありうるか」
 
 
 
 
なんかもうレイジングハートあたりが協力してそうな気がするけど。
 
 
 
 
「他は……フェイトちゃんにすずかちゃん、もちろんアリサちゃんも、か……」
 
 
 
 
軽く身構えて開いたが、他は至って普段通りのメールでなのはのメールだけが異様に目立つ。
たぶんはやての元気が出るような物にしよう、と思ったのだろうが、時々なのははフェイト以上に斜め上の答えを出してくる。
 
 
 
 
「くっくっく……あかん、さすがなのはちゃんや」
 
 
 
 
一時的に手は止まるけど確かに元気は出る気がする。
 
 
 
 
「お洗濯とか終わったですよはやてちゃん〜……はやてちゃん?」
「……ふふ……いや、もう一頑張りやなって思ってな?」
「ですぅ?」
 
 
 
 
幾分軽くなった気持ちで携帯を閉じて、はやては残りの課題に向き直る。
はやてちゃんふぁいと〜、と踊るなのはの文字。
間に合いそうかと案じるすずかとフェイト。
さっさと片付けちゃいなさいよと蹴飛ばすアリサ。
それぞれ『らしい』文面に笑みが零れる。
明日は久しぶりに全員が顔を揃えるのだ。
 
 
 
 
「……友達って、ええなぁー?」
 
 
 
 
一番の燃料はいつだってきっとこれ。
こうして触れるたびにこんなしょうもない状態でさえ、ええなぁー、って思うのだ。



 
 

...Fin

 
 


あとがき(言い訳)

ということで夏の新刊から抜粋です。あるよねー、宿題とか課題とか最終日にげふんがふんw
はやてさんにしてはきっと珍しいうっかりです。
だって用意周到なたぬき……はわわわ。
はやてちゃんはほんとに友情系SSが似合うと思うんだぁ〜。

2012/8/5


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