貴女だから(前編)


 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
知らなかった、こんな表情をする彼女を。

知らなかった、こんな風に声を荒げる彼女を。

知らなかった、こんなにも想われていたことを。

・・・そして、こんなにも彼女が苦しんでいたことを・・・・・・・
 
 
 
 
 
 
 
 

 
フェイトちゃんの様子がおかしい。
朝一番に顔を見てそんなことを思った。
なんとなくだけど、少し思いつめたようなピリピリした空気が伝わってくる。
 
 
 
 
「ねぇちょっと、フェイトどうしちゃったのよ?」
「なんや、ちょおピリピリしとるし」
「う、うん、私にも分からないんだけど・・・・」
「フェイトちゃんだって機嫌の良くない時くらいあるだろうけど・・・・」
「なんかそういう感じとも違うわよね・・・・なのは、あんたなんかしたの?」
「えぇぇっ!?と、特に何も・・・・」
 
 
 
 
何かって言われても、昨日は別々に帰ったから特に何もなかったし・・・・・
あ、でも一緒に帰るの断ったのがまずかったとか?
 
 
 
 
「えっと、一緒に帰ろうって言われて、用事があったから、その断ったんだけど・・・・」
「うーん、それかしらね?」
「でもそれくらいなら普段でもあるよね?」
「うん、管理局の仕事が入ってる時とか用事のある時とか・・・・」
「せやったら、ちょお様子見てみるしかないんちゃう?」
「うん・・・・・」
「あーもー!あんたがしょげてどうするのよ!辛気臭い顔禁止!!」
「ご、ごめんアリサちゃん・・・・」
「きっと大丈夫だよなのはちゃん。落ち着いたらフェイトちゃんも話してくれるだろうし、アリサちゃんも心配してるだけだから」
「す、すずか!私はそんな別に心配なんて・・・!」
「ふふ、ほら席につこう?もうすぐ先生来ちゃうよ?」
「ちょっ、お、押さないでよすずか・・・!」
 
 
 
 
すずかちゃんに押されていくアリサちゃん。
相変わらず仲がいいな・・・・
私は横目でフェイトちゃんを見るけど、フェイトちゃんからは変わらず拒絶に近い空気を感じる。
やっぱり、私が何かしちゃったのかな・・・・
 
 
 
 
「チョップ!」
「へぶっ!?・・・は、はやてちゃん?」
「あかんてなのはちゃん、アリサちゃんに辛気臭い顔禁止って言われたばっかりやろ?」
「あ、う・・・・・」
「まぁ気持ちは分からんでもないけど・・・・それで、昨日の用事ってなんやったん?」
「え、えっと、前に生徒会の勧誘が来てたでしょ、その時来てた先輩に話したいことがあるって言われて・・・・」
「ほんで告白されてきた・・・と」
「えっ!どうして分かるのはやてちゃん!?」
「あんな、なのはちゃん、分からん方がおかしいて。告白やなかったらわざわざ呼び出したりせえへんて」
「でも私はまた生徒会の話かと思ったから・・・・」
「それやったらなおさら個別に呼び出したりせえへんわ。なのはちゃん、鈍すぎるんも考え物やで?」
「ご、ごめんなさい・・・・」
「しかし、そうすると・・・や。ちょおフェイトちゃんの様子、気をつけた方がええかもしれんね?」
「はやてちゃん?」
「いや、私の思い過ごしかもしれへんけどな・・・・ととっ、あかん先生来てもうた。とにかく気をつけてな、なのはちゃん」
「う、うん、ありがとうはやてちゃん」
 
 
 
 
はやてちゃんはそう言うけど、でも何を気をつけたらいいんだろう?
フェイトちゃんが何か思いつめてそうなのは分かるけど、それ以上は何も分からないし・・・・

結局のところ、私ははやてちゃんが何を言いたかったのか、きちんと理解していなかった。
鈍すぎるのも考え物、と言われたけどまったくもってその通りだった。
後日、私はこの時のことをもの凄く後悔することになったのだから。








「あの、フェイトちゃん・・・・」
「なのは・・・・」
「一緒に、帰ろう?」
「・・・うん」
 
 
 
 
あの日からあっという間に1週間が過ぎた。
今でもお互い全体的にぎこちない。
ひょっとしたら2、3日経てば何か話してくれるかも、という甘い考えは通らなかったらしい。
今までなら手を繋いで帰るけれど、この1週間は一度もそうしていない。
今日もお互いに手を差し出すことなく、無言のまま、並んで歩き出した。
 
 
 
 
「・・・・」
「・・・・」


二人とも廊下や階段を下りる間も一言も発せず、何も喋らないまま下駄箱についた。
うぅ、沈黙が重い・・・・
でも、いい加減ちゃんと聞かないと、だよね。
 
 
 
 
「あの、フェイトちゃ・・・・」
「高町先輩!」
「はぇっ!?」
 
 
 
 
意を決してフェイトちゃんに語りかけようとしたところで呼び止められる。
見覚えのない顔だけど・・・1年生かな?
 
 
 
 
「あの、これ、今日の調理実習で作ったんです!その、よかったら貰ってください!」
「え、あ、ありがとう・・・・」
「は、はい、それじゃあ失礼します!」
「あ、ちょっと・・・・」
 
 
 
 
ずずいっと突き出されたクッキーを思わず受け取ってしまった。
まともにお礼を言う間もなく、その子はあっという間に走っていっちゃうし。
とりあえずこのまま持ってるわけにはいかないんで、クッキーを鞄にしまったんだけど・・・・
後ろを振り向くと、なぜだかフェイトちゃんが強烈な冷気を発していた。
 
 
 
 
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
「・・・・・」
 
 
 
 
お、怒ってる、なんだかよく分からないけど怒ってるー・・・
そのままどうしていいか分からずオロオロしてたら、フェイトちゃんは無言で先に行っちゃって・・・・
私も慌てて靴を履き替えて後を追った。
 
 
 
 
「フェイトちゃん待って!」
「なのは・・・・」
「フェイトちゃんどうして怒って・・・・」
「なのはは・・・優しすぎるよ・・・・・」
「えっ・・・・?」
 
 
 
 
フェイトちゃんに追いつくと、手を握って彼女の歩みを止める。
怒っている理由を聞こうとした私に向けられたのは、
怒っているというよりも、どこか泣きそうなフェイトちゃんの顔だった。
 
 
 
 
「・・・・なのはは全然分かってないよ」
「あの、フェイトちゃん・・・・?」
「さっきのあの子がどんな気持ちで、なのはにそれを渡したのか分かる?」
「どんなって・・・・」
「この間なのはに告白したあの人だって、どんな気持ちでなのはを呼び出したか本当に分かってる!?」
「え!?フェイトちゃんなんでそれを知って・・・・」
「私が!!」
「・・・・」
「・・・・・私が、どれだけなのはのことを好きか・・・・分かってる?」
「フェイト、ちゃん・・・・」
「あんな風に誰かに笑いかけてなんか欲しくない、他の誰かを想って欲しくなんかないの!」
「あ・・・・」
「勝手なことを言ってるって分かってる!だけど、それでも私は!!・・・・なのはが好きなんだ」
 
 
 
 
激情とも呼べるほどの感情を吐露するフェイトちゃんの瞳からは、大粒の涙が零れ落ちる。
泣かないで欲しいのに、その涙をぬぐってあげたいのに、
私の腕はまるで鉛のように重く、とても動いてはくれそうになかった。
私は悲しそうな、苦しそうな顔をして涙を流し続けるフェイトちゃんを、ただ呆然と見つめていた・・・・
 
 
 
 
「だから・・・なのはには応えて欲しい・・・・私の、気持ちに・・・・・」
「わ、たし、は・・・・・」
「・・・・ごめんね、なのは。ただの友達だったのに、こんなこと言って・・・好きになっちゃって、ごめんね・・・・・」
「フェイトちゃん・・・・・・」
「だけど、私は本気だから。今すぐじゃなくてもいい、ちゃんと考えてから、なのはの答えを聞かせて欲しい・・・・」
 
 
 
 
そう言うとフェイトちゃんは、一度だけ私を抱き締めてから、踵を返した。
それはまるで、もう二度と触れ合うことが出来ないことを惜しむかのような抱擁で。
なのに私は、離れていく温もりに手を伸ばすことも出来ず、その背中を見送った。
一人になった身体はなぜかとても寒くて、
その寒さに、私は身動きもとれず、自分自身を抱き締めるようにして立ち尽くすしかなかった。
 
 
 
  


...To be Continued


あとがき、ならぬなかがき(笑)

セリフの途中でフェイトさんと一緒にテンパったキッドです、ごきげんよう(汗)
本当ならこの長さで完結させるつもりだったんですが・・・予定より長くなったんで、前後編に分けました。
1、2日中には後編もUPできるように頑張りたいな〜って感じです(- -;)
でもちょこっと当初の設定いじったりしてるんで予定と内容が変わってきてる気が・・・・こ、これからどうしよう(マテ)
うーん、まぁきっと、なるようになりますよー(ぇ)えっと、とにかく頑張ります(^^;)

あ、それからご指摘いただきました文章ミスを1件修正しました。他にも何かありましたら、皆様突っ込んでくださいましm(_ _)m

2007/7/22著


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