世界の果てまで2














「……というわけで突然だけどしばらくいさせて欲しいんだ」
「……また突然ね、まぁいつものことだけど」


ずずず、と出されたお茶を啜りながら言うなのはに、正面に座ったアリサは思いっきりしかめっ面をして見せた。
フェイトのプロポーズ攻勢から迷うことなくとんずらしたなのは。
どこに行こうか少しだけ迷ってから、結局自身の城からも近く信頼もおけるアリサの居城へとやってきていた。
種族も同じで歳もなのはと近いアリサは恰好の避難所だった。
理由が理由なので全然歓迎されてはいないけど。


「あんたも妙な奴に好かれたもんね……」
「……あんた『も』って?」
「あぁ、いや、別に……」


ごにょごにょと口ごもるアリサ。
珍しく歯切れの悪い親友になのはは首を傾げるが、突っつくと蛇どころかもっと怖いものが出そうなのでやめといた。
触らぬアリサちゃんに祟りなし――だ。


「ごほん……それでその人間が諦めるまでここに居座る、ってことでいいのかしら?」
「居座るなんて人聞きの悪い……親友が遊びに来たのに」
「厄介事と一緒じゃない」
「にゃはは、まぁそうだけど」
「もう少し静かに遊びに来なさいよ」
「うぅ、それは私だってそうしたいけど……今回はほんとしつこくて」
「根性だけは間違いなく一級品ね……」


はぁ、と二人揃って溜息をついた。
根性どころか、顔も剣の腕も、ついでに言えば結界破りの腕も一級品なのだが、今のなのはにとっては災厄以外の何者でもない。
追いかけられるのはまんざらでもないが、あそこまで凄いと逆にちょっと引いてしまう。
どう見繕っても相手には困りそうにないのに、なんでまたなのはにそこまで固執するのか。
その辺が謎なだけに対処も中々難しかった。


「……まぁもの好きはどこの世界にもいるわよね」
「ひどっ! それは酷過ぎるよねアリサちゃん!?」


どう考えても分からないことは考えない。
そう判断したアリサは、なのはごとばっさりと切り捨てた。
確かに間違ってはいないが、言われた方は嬉しくない。
それでも有効な反論が何一つ出来ないなのはは、とりあえず文句を言うしか出来なかった。
実際にはただの一目惚れであり、
その辺は運命感じちゃったフェイトにしか分からないことなのだから、気にするだけ損なのも確かなのだが。


「事実でしょう?」
「うぐぐ……と、とにかく、そういうわけだから、しばらくよろしくねアリサちゃん」
「はいはい、まぁあんたがどこに行ったかなんて知らないわけだし、ほとぼりが冷めるまでいたらいいわよ」
「うん……十年くらいすればフェイトちゃんだって諦めるよね♪」
「……十年もいる気なのあんた?」
「え、十年なんてすぐだよ?」
「あんたがいる十年は絶対にうざいわよ」


十年――人間にすればとてつもなく長い時間だが、確かになのは達ヴァンパイアにとっては瞬きする程度の時間である。
あの勢いだと一、二年ならフェイトも粘るかもしれないが、それが十年、二十年となれば話は別だ。
その点についてはアリサも分かるが、十年も毎日なのはと一緒とかたまらない。
早くフェイトが諦めてくれればいいと思う。


「うぅぅ、十年はもちろんただの目安だけど……さっきからちっとも優しくないねアリサちゃん」
「ほぉー、突然やってきたアホな友人を追い返しもせず、お茶まで出して話を聞いてあげてるこのあたしが優しくないと? へぇー?」
「はわわ、いやその、だってさっきから色々酷い……いたたっ!? げんこつっ!? ぐりぐりは痛いよアリサちゃんっ!?」


めきょきょっ、と悲鳴をあげるなのはの頭。
いっそこのまま本当に頭カチ割りたいとアリサは思った。
トラブルメーカーな友人を持つと楽じゃない。


「……まぁ、とりあえずしばらくは様子見ね」
「いたた……うん、落ち着くまでよろしく「なのはっ!!」おねがい、しま、す……あぁぁぁぁ」


ようやくぐりぐりから解放されたなのはが頭を下げた直後、バタンッと開かれた扉から話題のフェイトがやってきた。
驚きで固まったアリサとなのはにお構いなしでずんずんと寄ってくる。


「迎えに来たよなのは♪」
「ふぇ、ふぇ……フェイトちゃんっ!?」
「まったく、あちこち探して苦労したよなのは? もちろん君を追いかけるのは嫌じゃないけどね」
「……ちょ、こらっ待ちなさい! 家主に断りもなしに上がり込むなんていい度胸じゃない!」


爽やかさ全開で近寄ってくるフェイト。
もはやまともに機能していないなのはを救うべく、アリサがフェイトの前に立ちはだかる。
アリサちゃんカッコいい!――とか内心でなのはは叫ぶが、もちろんフェイトにそんな声は聞こえない。


「ん? あぁ、許可は君の奥さん? に取ったけど……?」
「……は?」
「ちょ、アリサちゃんいつの間に結婚なんて……」
「ばっ、した覚えがないわよそんなも……」
「アリサちゃん?」
「ふぐっ!? す、すず、か……?」


ぎぎぎぎぎっ、と無理矢理声の方へ顔を向けるアリサ。
そこにはニッコリと微笑む人間の少女の姿があった。
ひくっ、とアリサの頬が引きつる。
なのはとフェイトにはなんてことない微笑みなのだが、アリサには違って見える。
どうやら面倒事に好かれてるのは、なのはだけではないらしい。


「案内してくれてありがとう、すずか」
「ふふ、気にしないでフェイトちゃん。ちょうど私もアリサちゃんに会いたいと思ってたから」
「す、すず……」
「私の友達のフェイトちゃん、邪険にしたりはしないよねアリサちゃん?」


笑顔じゃない笑顔がアリサの精神を直撃する。
最近の人間はやっかいなのが多いのだろうか?


「えーっと、アリサ、ちゃん?」
「……ごめん、なのは」
「なーっ!?」


ふいっと逸らされるアリサの視線。
それはなのはの運命を物語っていた。
曰く――捨てられたーっ!?


「さてなのは、私と一緒に……」
「ふ、ぐ……あ、アリサちゃんのばかぁっ! 浮気者ぉーっ!!」
「わわっ、こ、今度はどこ行くのなのはっ!?」
「ちょ、誰が浮気……」
「アリサちゃん?」
「ちがっ……!?」
「もっと遠くに行ってやるぅーっ!!」
「遠いの!? って、置いてかないでよなのはぁーっ!!」


うわぁーん! とアリサの居城から飛び去るなのは。
結局フェイトには見つかるわ親友には捨てられるわで良い事が一つもない。
なんだか軽く背後が修羅場ってる気もするが、助けてなんかやるもんかー……と、そのまま飛んでいくなのはであった。



 
 

...To be Continued 
 
 


というわけでも一つ続くよー♪

2010/12/29


リリカルなのはSS館へ戻る

inserted by FC2 system