世界の果てまで1














「雪、か……」
 
 
 
 
暗く重い空から真綿のような雪が舞い落ちる。
その光景を女性は部屋の中から眺めていた。
少しずつ白く染まっていく木々に目を細める。
寒いのは苦手だが、その美しさは嫌いではなかった。
 
 
 
 
「この城も覆い隠してくれればいいのに……」
 
 
 
 
そう溜息をつき、大広間へ向かう女性。
高町なのはという名の彼女は、今とてもとてもある事が理由で困っていた。
そのせいか、深い蒼の瞳も今は少し沈んで見える。
では何が彼女をそんなに困らせているというのか。
 
 
 
 
「なのは」
「……フェイトちゃん……」
 
 
 
 
なのはが大広間に出ると、そこには彼女の予想どおり一人の女性が待っていた。
腰に届く程長く美しい金の髪に、鋭さと不思議な落ち着きを秘めた紅い瞳。
フェイトと呼ばれた彼女はなのはが姿を目にすると、柔らかく微笑んだ。
同性のなのはでも、一瞬ドキリとしてしまう程美しい微笑み。
 
 
 
 
「……また来たの?」
「つれないね、なのは。君に会うためだけにここまで足を運んでるのに」
 
 
 
 
けれど、鼓動が跳ねたのはその一瞬だけ。
何事もなかったように向き直ったなのはの口から出たのは、かなり投げやりな言葉だった。
返すフェイトもまた、つれないと言いつつそんななのはの反応を楽しむかのように笑っていた。
ちっとも堪えた様子のないフェイトに再び溜息をつくなのは。
目下、彼女の悩みの原因はまさに今目の前にいるフェイトのことだった。
 
 
 
 
「何回来たってダメだって言ってるのに……」
「うん、私も諦めはいい方のはずなんだけど、今回はどうしても無理みたいなんだ」
 
 
 
 
だから……と、しっかりタメを作ってからフェイトは言った。
 
 
 
 
「私と結婚しようなのは!」
 
 
 
 
……爆弾発言だった。
 
 
 
 
「……しないってば」
「……えぇー……」
「えぇー……なんて不満そうにしてみてもダメだもん」
「今日も即答とか……酷いよなのは」
「毎日人の家にあがり込んでそんなこと叫ぶ人の方が酷いよ普通……」
 
 
 
 
むぅ、と不機嫌をアピールするフェイトに、なのははげんなりと呟いた。
そこにロマンスなんて欠片もない。
初めてフェイトと出会った時とはえらい違いだとなのはは思う。
出会った瞬間には確かにちょっぴりときめきがあったはずなのに、一体どこで間違ってしまったのか。
気がつけば毎日こうして求婚されるようになっていた。
理解できない。
 
 
 
 
「大体こんな風に毎日来られても……」
「それは私がなのはを愛してるからだよ」
「うぅ、い、意味分からないし……」
「愛に理由なんて不要だよ」
「あぅぅ……」
 
 
 
 
じりじりと詰め寄ってくるフェイトに合わせ、なのはもじりじりと後ずさる。
なんで自分が引かなきゃいけないのかと思っても身の危険には代えられない。
もちろん本来であれば立場は逆のはずなのだけど。
 
 
 
 
「なのはは私のこと、嫌い?」
「だ、だからそういうことじゃなくて……」
「じゃあどういうこと?」
「ど、どうもこうも……私がフェイトちゃんと違ってヴァンパイアだからって、もうずっと言ってるじゃない!」
「うん」
「……」
「気にしないよ?」
「……だ〜か〜らぁ〜……」
 
 
 
 
けろっとそう言うフェイトになのははがっくりと肩を落とした。
ダメだ、まるっきり通じてない。
好かれるのは嬉しいが、同性云々以前に異種族の恋人……どころか伴侶を持つ気はなのはにはさらさら無い。
ましてや人間なんて短命な種族ではあっという間に独りぼっちだ。
だというのに、初邂逅以来毎日こうして求婚にくるフェイトにめげる気配は微塵も感じられない。
人避けの結界まで張っているのに、毎回くぐりぬけてはなのはの居城までたどり着く。
おかげでなのはの結界の腕だけは飛躍的に上がったが、
同時にフェイトの結界破りの腕も上がったらしく、まったくの無意味に終わっているのが現実だった。
あぁ、フェイトの血を見て美味しそうだな、なんて思った初邂逅が懐かしい。
でも現実はこのままいけば間違いなく食われる方だ。
 
 
 
 
「毎日新鮮な血が手に入るって幸せじゃない?」
「そう、だけど……」
「誰かを襲う必要も無いわけだし」
「いや、代わりに私が危険なわけで……」
「大丈夫だよちゃんと毎日優しくするから」
「……どこをどう信用したら……?」
「……全部?」
「無理だってばぁっ!?」
 
 
 
 
真面目な顔で瞳だけギラつかせられても信用なんてできっこない。
既に毎日が貞操の危機なのに。
 
 
 
 
「きっと毎日楽しいよなのは♪」
 
 
 
 
もう十分濃ゆい日々だ。
 
 
 
 
「さぁなのは、今日こそ私と……」
「う、うぅぅ……うわぁぁーっ!」
「あ、ちょ、待ってよなのはどこ行くの!?」
「知らない知らない! フェイトちゃんのいないところに行くんだもーんっ!!」
「えぇぇぇっ!?」
 
 
 
 
フェイトのキラキラとかえも言われぬギラギラについに耐えきれなくなったなのは。
外套をひっつかみバコンと窓を蹴破るように開けると、雪が舞う空へと飛び出した。
後ろでフェイトの叫び声が聞こえるが、気にしてなんかいられない。
なのはは一目散に安全な場所を求めて逃げ出したのだった。



 
 

...To be Continued 
 
 


シリアスに見えてちっともシリアスじゃないとかまぁいつものことですww
つづくよー☆まぁ、またそのうち。

2010/12/25


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