第十三話『なのは様、全力全開!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


上る上る上る、襲い来る召喚獣を消し飛ばし、魔法像を切り伏せる。
そうしてはやてとフェイトが最上階に辿りついた頃には、ツヴァイフルンクが放つ光で一面が虹色に輝いて見える状態だった。
 
 
 
 
「そこまでや!」
「間に合った……!」
『邪竜の復活……絶対にさせません!』
「……ふっ、貴様らか……」
 
 
 
 
はやて達の声を受けて、テルウェイが悠然と振り返る。
その顔に焦りの色は浮かんでいない。
はやて達が辿りつこうと、ツヴァイフルンクの復活を露とも疑っていないのだ。
 
 
 
 
「ツヴァイフルンクはじきに目覚める……貴様らに止めることは不可能だ。まして力の一端を使える私にも触れることすら貴様らには出来んだろう」
「ふっ……ふふふ、こっちにもなのはちゃんの部屋からぱくってきたチートアイテムがあるんやで! 触れられんのはお互いさまや!」
「いや、はやて、それはちょっと展開的にどうかと思うんだけど……」
 
 
 
 
ばばーん!と堂々となのはの部屋から拝借してきた某忍さんの置き土産、いつぞやにヴィータとシグナムを退けた歪曲場シールド発生装置ポケットタイプをはやてはどや顔で突き出した。
確かにこれなら相手の攻撃もそう易々とは通らない。
手出しが出来ないのはこちらも同じなので自信満々でそれを言うのもどうかと思うが。
 
 
 
 
「ふん……だからどうした。いずれにしろ貴様らに打つ手はない」
「それは、どうかしらね」
「へっ?」
「何……?」
「あ、貴女は……」
 
 
 
 
さてこっからどうしよう、と内心冷や汗をかいていたはやてとフェイトはその女性の登場に驚いてまじまじと見つめてしまった。
 
 
 
 
「セレネさん!」
「ルーナさん! ……え?」
「は?」
「どっちも違うわ」
「「はぁっ!?」」
 
 
 
 
それは自分達の知っている人物だったからだが、ここで出てくるとは思っていなかった。
途中で遭遇しなかったので、てっきりゆりかごの方にいるものだと思っていたのだが、そうではなかった。
けれど女性は否定する。
彼女は『ルーナ』でも『セレネ』でもないからだ。
 
 
 
 
『あー! なのはさんがナンパしてた女の人ですぅー!』
「なんやてー!?」
「そ、そうなのっ!?」
 
 
 
 
唯一、その現場を見ていたリインは叫んだ。
よりにもよって敵方の人物をナンパするとは何事かと憤懣やるかたない。
現実とはだいぶかけ離れているのだが。
 
 
 
 
「……なぜお前がここにいる、アルテミス……ゆりかごはどうした?」
「撃墜間近です。じきに公国の空中要塞によって跡形もなく消え失せるでしょう」
 
 
 
 
さらっとそう口にするアルテミス。
これにははやてとフェイトだけでなく、テルウェイも驚きを隠せない。
 
 
 
 
「馬鹿なっ!! 聖王はどうした! いくら奴らの力が強くともこうも早くゆりかごが落とされるはずがない!!」
「いませんよ、最初から」
「何……?」
「聖王なんていないんです、あの船には」
 
 
 
 
古代ベルカの最後の王。
聖王はもういない。
あそこにいたのは幼く小さい、けれど母親によく似た優しさを持った新しい命の芽。
いつか花開き咲き誇る次代の息吹。
 
 
 
 
「何のために聖王の器を用意したと思っているのだ……!レリックと融合した聖王ならば多少の役には立ったものをお前は……っ!!」
「……もううんざりなんです」
「なんだと……」
 
 
 
 
世界を破壊し席巻した聖王のゆりかご。
そして国を滅ぼし大地を焼いたツヴァイフルンク。
島が消え母が死んだエフェソスの悲劇……そんなものはもううんざりだった。
 
 
 
 
「だから決めたんです、『彼女』の分まで復讐しようと」
「復讐ならしているではないか!」
「私のとは違うわ……私の復讐、私の願いは……悲劇しか生まない『ゆりかご』と、『邪竜ツヴァイフルンク』の完全消滅……」
 
 
 
 
もう二度と、この力で悲しい思いをすることがないように、誰も苦しまずにすむように。
母が死に、父を壊し、そして『アルテミス』の命を『二度』吸った邪竜がこの世から消え去ること……
 
 
 
 
「それこそが私の望み……仮初めのこの命とこの身体の存在理由……」
 
 
 
 
はっとフェイトが『アルテミス』を振り仰ぐ。
まさか貴女は、私と同じ――
 
 
 
 
「……もう終わらせる時が来たんです……『お父様』。貴方の大切は人はこんなことを望んでいない……!!」
「……黙れ……黙れ、黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!」
「っ!?」
 
 
 
 
テルウェイの叫びに呼応してツヴァイフルンクが更に光度を上げていく。
復讐はテルウェイの全てだった。
復讐はアルテミスの全てだった。
願ったのは全ての破壊。
願ったのは悲劇の終焉。
互いに届けたい想いは相手には受け入れられない、誰よりも近く誰よりも遠い存在、まるでメビウスの輪のように。
 
 
 
 
「……『アルテミス』はこんな事を望んでなんかいなかった! 『お母様』がいなくても、優しい『お父様』と暮らしていけたらとそれだけを願っていたのよ、お父様!!」
「っ!? うあぁぁぁぁぁぁっ!!」
「あかんっ!?」
「光がっ!!」
 
 
 
 
テルウェイを媒介にツヴァイフルンクの魔力が渦を巻く。
身体から血が噴き出してもテルウェイは止まらない。
……もうそれしかテルウェイには残されていないのだ。
 
 
 
 
「お父様!!」
「違う! 終わるのは世界の方だ!!」
 
 
 
 
世界の終焉はテルウェイのすぐ目の前にある。
邪竜復活のための最後のピース、それが埋まろうとしたその瞬間、巨像が急速に光度を下げた。
 
 
 
 
「っ!?」
「な……なぜだ! ここにきてどうして……これは、この力は……っ!!」
 
 
 
 ◇
 
 
 
「……ま、間に合、った……」
「ぜーはー……も、もう走れな、い……」
 
 
 
 
ぐはっとティアナとスバルは突っ伏した。
宝玉の発動をしっかりと見届けてから。
 
 
 
 
「ギリギリだったな……」
「二人のところが一番遠い場所になっちゃったから……」
 
 
 
 
シャマルとザフィーラの前で光る黄色い宝玉。
 
 
 
 
「焦ったぁー」
「なんとかなった、のか」
 
 
 
 
恭也と美由希の前で発動する赤い宝玉。
 
 
 
 
「まだだ、完全には封じていない。だがこれなら……。ふむ、やはり俺を殺しておくべきだったな、テルウェイ」
 
 
 
 
魔法塔を取り囲むように、三方向から光の柱が天へと伸びていた。
 
 
 
 ◇
 
 
 
「今やフェイトちゃん!」
「うん! プラズマスマッシャー!」
「クラウ・ソラス!」
「がぁぁぁっ!?」
 
 
 
 
動きの止まったテルウェイを見て、はやてとフェイトの直射砲がツヴァイフルンクの巨像に命中する。
『鍵』の宝玉を取り出すか、ダメージを与えればツヴァイフルンクは一時的に停止する。
その瞬間なら破壊か再封印のチャンスがある。
 
 
 
 
「おのれ……おのれぇぇぇぇっ!!」
「っ!?」
 
 
 
 
けれど邪竜は止まらず、テルウェイも倒れない。
 
 
 
 
「終わらんぞ、ここで終わるわけにはいかんのだぁぁっ!」
『Exploit』
「いけないっ!?」
「あぁぁっ!?」
「なん、や、これ……力が……!?」
「うぉぉぉぉっ!!」
 
 
 
 
ツヴァイフルンクがフェイトやはやて、アルテミスの力を吸って再びその光度を上げていく。
封印の力が働いている状況下でなければディオニスのように肉体ごと取り込まれていたかもしれない。
それでも抵抗する力を奪うには十分だった。
 
 
 
 
「くぅっ……」
「なんとか、止めなぁ……」
「なの……は……」
「なのは、ちゃん……」
 
 
 
 
零れ落ちたその言葉に応えるように、光の奔流がツヴァイフルンクに直撃した。
 
 
 
 
「ぐはぁぁっ!!」
「え……」
「今の……」
 
 
 
 
助けてと伸ばされる手があるのなら、いつだって、どんな時だって飛んで行く。
 
 
 
 
「は……遅かったじゃない……」
「ちょっと魔獣だらけで道が混んでてさ」
「あ……」
「あほ……待っとったで……」
 
 
 
 
きっとそれが、高町なのはという存在だから。
 
 
 
 
「く、うぅぅぅっ! 邪魔を、するなぁぁぁっ!!」

『Exploit』
 
 
 
 
それでもテルウェイは諦めず邪竜の力を発動する。
全てを奪い去る光の暴虐。
 
 
 
 
「効かないよ! そんなもの!!」
 
 
 
 
けれどなのはには届かない。
代わりに腕の『お守り』が眩いばかりの光を放つ。
 
 
 
 
「これが最後よ、なのは!」
 
 
 
 
なのはを中心に光が広がる。
それはテルウェイも邪竜ツヴァイフルンクの巨像さえも飲み込んだ。
 
 
 
 
「ここで決める! レイジングハート!」
『Blaster third』
「ぬぉぉぉっ!!」
「させない!」
『Ring Bind』
「なのはちゃん!」
『Frierenfesseln』
 
 
 
 
数瞬、フェイトがテルウェイを、はやてがツヴァイフルンクの動きを阻害する。
その数瞬が決定的なチャンスを生む!
 
 
 
 
「全力、全開っ! スターライトォ……ブレイカァーッ!」

「ぐ、おぉぉぉぉっ!?」

「ブレイク……シュートッ!!」
 
 
 
 
ドオォォォォン!!
 
 
「あぁぁぁぁっ!!」
 
 
 
 
重低音を響かせながらなのはの魔力がツヴァイフルンクの巨像へと殺到する。
腕に焼ける程熱さを感じるがなのはは魔力の放出を弱めない。
三秒、五秒、そして十秒が過ぎた時変化が起こった。
「う、あ、あ、あぁぁぁぁぁっ!?」
ツヴァイフルンクの巨像に亀裂が走る。
四肢を広がり胴を抜け、顔にまで達したその瞬間。
 
 
 
 
パキイィィンッ……
 
 
 
 
破砕音と共にツヴァイフルンクの巨像は跡形も無く消し飛んだ……
 
 
 
 
「つぁ……!?」
 
 
 
 
全てを出し切ったなのはが落ちてくる。
どこと言わず全身が激痛に悲鳴を上げている。
特に痛んだ左の腕から役目を果たした『お守り』が焼き切れた。
 
 
 
 
「なのは!」
「なのはちゃん!」
 
 
 
 
フェイトとはやてがなのはの身体を受け止める。
ブラスターの痛みに呻きはするが、それ以上の怪我は見受けられずフェイトとはやては息をついた。
 
 
 
 
「終わった……の?」
「粉々やで……いくらなんでももう……」

「……まだだ」

「っ!?」
「そんな!?」
 
 
 
 
倒れ伏したまま、それでも意識は残していたテルウェイが呻くように言った。
まだテルウェイの身体に僅かばかりツヴァイフルンクの力が残っている。
 
 
 
 
「貴様らを、道連れにするくらいはできるっ!!」
「なぁっ!?」
「自爆する気っ!?」
 
 
 
 
最後の魔力がテルウェイを中心に急速に膨れ上がる。
脱出するだけの力はフェイトにもはやてにも、なのはにさえ残されてはいない。
ここまできて……っ!!
そう、思った時、なのはの背に手が触れた。
温かい、人間の手が。
 
 
 
 
「アル、テミス……」
「なのは、フェイトさん、はやてさん……ありがとう。戻ったら、あの子にもよろしく、ね……」
「まっ……」
『Transfer』
 
 
 
 
ふっ、となのは達の前からアルテミスが、そしてアルテミスの前からなのは達がかき消えた。
 
 
 
 
「アルテミスーッ!」
 
 
 
 
光に包まれた魔法塔は、轟音と共に砂漠へと沈んでいった……



...To be Continued

2012/7/15


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