第十二話『なのは様、決意する!』 「……負傷者の収容と通路を塞いでいた瓦礫の撤去、完了しました」 「そう……状況は?」 「重症だった隊員や士郎さん、シャマルさんやザフィーラさんも峠は越えました。アリサさんやすずかさんも思った程ではなく、その、本人たちも明日には現場に復帰すると言っています」 「……アリサちゃん達らしい、ね……」 壊された大通り、黒煙を上げる居城。 元老院に殺到する混成部隊を殲滅し、転送ポイントを利用して海鳴に取って返したなのは達が見たのは、破壊されたメールソンの姿だった。 王城を目指したのだろう、被害を受けたのは城へ続く大通りとその周辺、そして居城が中心だった。 「あの、なのはさん……」 「ん……?」 「……私……」 「……間に合わなかったのは、私達も同じだよ、ティアナ」 元老院から戻れなかったなのは達。 一足違いで、海鳴に戻ってきたティアナ。 戦争なら籠城も出来たが、竜種の前には石の城など紙くずとなんら変わりない。 元老院が進めていた計画の先にいる何か。 その正体を重症の士郎から聞かされ、自分達が何を相手にするべきなのか、なのは達はようやく合点がいった。 浅はかで利己的な元老院議員達などではなかった。 事態はもっと大きなところで動いていたのだ。 「まったく……お父さんももっと早く言ってくれればよかったのに……」 「確証がなかったんでしょう。あれは海の底に眠っていたはずですし、ご自分で止めるつもりだったのかと」 子供たちに負わせる必要はない。 そう士郎は思っていたのだろう。 五十年前の災厄を。 士郎自身でさえ関わっていた訳ではないのに。 「スバルは? 大丈夫?」 「平気です、避難誘導と救出を中心にスバルの部隊は当たっていたので……竜種とは去り際に交戦したみたいなんですが、ヴィヴィオを助け出せなかった、と……」 「そう……」 居城が陥落した直後、避難誘導を終えていたスバルは飛び立つ竜種を追って空を駆けた。 だが一撃を浴びせるも、竜の身体がそれで落ちるわけもなく、もう一頭の炎で撃墜されヴィヴィオの救出は叶わなかった。 治療を受けながら涙を零したスバルをティアナは無言で抱き締めるしかなかった。 「報告によると竜種は一頭が南のリヴァス砂漠に建てられた魔法塔へ、もう一頭が東大陸に消えたとのことです」 「鍵は……塔の方だろうね。ヴィヴィオの方は……」 「おそらく東大陸の方かと。天と地を統べる『翼』……その片方の『器』と言っていたそうですが、それが何かまでは……」 「……分かった、引き続き調査と出撃準備をお願い」 「了解ました……では……」 報告を終え持ち場へと戻っていくティアナ。 その足音を背中で聞いていたなのはは、音が消えると大きく崩れた城の三階部分へと上がっていった。 「……」 奥の一室、二部屋分を使って大きく取られた間取の部屋にその足を踏み入れる。 なのは達の寝室だったそこには先客がいた。 「なのは……」 「なのはちゃん……」 壊された壁、吹き飛んだベッド、床に散らばる玩具の破片…… 少し前までここで暮らすのだとはしゃいでいたヴィヴィオに、三人が揃って違う玩具を与えてしまい部屋の一角に玩具箱が設けられたのはほんの数日前のことだった。 なのはがあげたヴィヴィオのお気に入りの兎のぬいぐるみも、焼け焦げ冷たい床へと打ち捨てられていた。 「私、が……もっと早ければ……あんなやつらに手こずらなければ、ヴィヴィオは……」 「ちゃう……殲滅戦なら私の魔法が……もっと精密な制御が出来れば……」 「ヴィヴィオ……ごめん、ごめんね……」 それぞれが自分を責め、涙を零すフェイトとはやて。 それは二人に声をかけられないなのはもまた同じことだった。 元老院の襲撃を事が起こった後になるだろうと読み違えていた。 一枚岩でなかった元老院を何者かが切り捨てなのは達への足止めに使ってきたのだ。 その結果なのは達は帰還が遅れヴィヴィオは……敵の手によって連れ去られてしまった。 完全な失策だ。 ……だけど。 「……終わらないよ」 「……なのは?」 「なのはちゃん……?」 「……このままでなんて終わらないし、終われない」 踏み躙られた居場所、奪われた大切なもの。 それでも『器』と呼ばれた以上、ヴィヴィオはまだ生きている。 諦める必要は、どこにもない。 「全部取り戻す。鍵も、ヴィヴィオも。だって――」 ママの代わりなんかじゃない……あの子は、ヴィヴィオは―― 「私達の、大事な一人娘なんだから」 この手の魔法は撃ち抜く力。 涙も痛みも、運命さえも。 「私達の翼は折れたりしない」 だから待ってて、ママ達が必ず助けに行くから……!!
...To be Continued
2012/6/9著
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