第十一話『なのは様、母になる!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

「保護登録手続きしてきましたよ、なのはさん」
「あぁ、ありがとうティアナ。こっちも出立準備はだいたい出来たよ……足りないヴィヴィオの着替えとか追加の品は今調達に行ってるから」
「なるほど……じゃあ今頃市場は賑やかですね」
「だろうね〜」
 
 
 
 
あれから三十分後、意識を取り戻したフェイトちゃんを宥めて当初の宿へと帰ってきた私達。
いやもうフェイトちゃんのテンションが高くて、ね……なんか色々フィーバーしてて大変だったんだよね……可愛いから許すけど。
そんなこんなで、軽くテンションMAXなフェイトちゃんとそのフェイトちゃんに抱かれたヴィヴィオ、お目付役と言うか保護者というかな感じではやてちゃんとリインが連れだって市場へと繰り出していた。
今頃ヴィヴィオに買いまくろうとするフェイトちゃんとお財布のひもを握っているはやてちゃんがバトルでもしてるんじゃなかろうか?
混じりたい気もするけど、楽しんでばかりもいられない。
 
 
 
 
「……なのはさん」
「ん?」
「……プロジェクトFについて、どう思いますか?」
「……単刀直入だね」
「飾っても仕方がありませんから」
 
 
 
 
前置きも何もなく、さっと切りこんでくるティアナ。
時にひやりとした刀身を思わせる冷静さは味方である分には頼りになる。
 
 
 
 
「簡易検査の結果だけですが、おそらくは……」
「人造魔導師……かな」
「はい……」
 
 
 
 
ひらりと私の手を離れた書類が机に落ちる。
そこに書かれた病院の簡易検査の結果。
ほぼ普通の人間と変わらない数値が並ぶ中、一部の魔力反応に通常と違う数値が表れていた。
幼く素性不明の人造魔導師素体。
それが意味するところはただの迷子や孤児などという背後の見えるものではないということだった。
 
 
 
 
「……ですが、あの渓谷に研究施設らしきものがあるようには見受けられませんでした」
「それは私も同感。あそこじゃないと思う。……だけどどこかで研究は続いてて、あの子はその被験者なんだ……」
 
 
 
 
年相応、とはいえある程度のはっきりした言語と知識、それはつまりヴィヴィオがただ産まれた訳ではなく、元になった誰かの記憶があるということだ。
フェイトちゃん、そしてエリオが産まれたプロジェクトF……簡単に終わらせることは出来ないと分かっていても、公国の闇は深く根強い。
 
 
 
 
「……出来る限り探ってはみます」
「ん……頼んだよティアナ。大変かもしれないけど……」
「大丈夫です、それが私の仕事ですから。なのはさん達が安心してあの子を守れるように、出来るだけ迅速に」
「期待してるよ……気をつけて」
「ええ、なのはさん達も」
 
 
 
 
そうして拳を合わせてふっと笑い合う。
スバルといいティアナといい、ひよっこと言ってよかった頃からは想像もつかないくらいに逞しくなった。
たくさんの人が私の背中を支えてくれる。
こんなに心強いことなんて他にない。
 
 
 
 
「あ、でもフェイトちゃんとはやてちゃんは別格だけど」
「惚気ですね」
「にゃはは♪ ……私達の背中、頼んだよ」
「はい、任せてください」
 
 
 
 
ヴィヴィオと出会ったことで今後がいったいどうなるのか、その素性といい何かとこそこし始めた元老院といい分からないことだらけだけど、退けないし退く気も無い。
私達の未来は私達で掴むんだ。
 
 
 
 
「じゃあ、私はそろそろ行きますね」
「リインとは?」
「元々仕事が終わったらここからは別行動予定でしたから。私は北側経由で海鳴に戻ります。リインさんは中央ルートと転送ポートで」
「そっか……じゃあまた海鳴でね」
「はい」
 
 
 
 
では、と踵を返し伸びた背筋で部屋を出て行こうとするティアナ。
その足がドアのところで不意に止まった。
 
 
 
 
「あ、そういえばなのはさん達はコモススの港から海路の予定でしたよね?」
「そうだよ〜、さすがに海の上を長距離飛行とか厳しいからね。大人しくしばらく船旅かな」
「燃えたらしいですよ、船」
「……はい?」
 
 
 
 
だから船、とティアナは繰り返した。
燃えたって……えっ?
 
 
 
 
「先日定期船から火が出て停泊してた定期船の船は全滅だそうです。係留分だけで誰も乗っていなかったので死傷者はありませんでしたけど」
「いや、えーっと……それってつまり……」
「運行中の定期船が戻るのを待つか、替えの船が来るのを待つか……一番早いのはもう少し南へ行ってパレカスの港からフレイランドを経由して戻るルートですね」
 
 
 
 
予定前倒しで進んでてよかったですね、なんてこともなげに言うティアナ。
ってそういう問題じゃないよね!?
何このタイミングで船が萌える、じゃなかった燃えるとかっ!!
作為的なものを感じるんだけど!!
 
 
 
 
「直接手出しをしても返り討ちにされるのがオチですからね、搦め手できたんでしょう。単純だけど効果的な作戦です。どうやらまだもう少しなのはさん達に海鳴に戻ってほしくない人物がいるみたいですね」
「いっぱいいそうだね……」
「まぁ彼らの大半はそのまま帰ってこないでほしいが本音でしょうが」
「……絶対に帰ってやる……!!」
 
 
 
 
いい気味だと今頃笑っているだろう元老院議員達の姿が目に浮かぶ。
はっはっはー……いい度胸なの、絶対戻って一発ぎゃふんと言わせてやるの……!!
 
 
 
 
「この間一発ぎゃふんと言わせちゃった結果がこの処遇ですけどね……」
「ぐっ……だ、大丈夫、得るものもちゃんとあったし」
「お嫁さんに娘も出来ましたしね」
「おまけに全員可愛いし」
 
 
 
 
娘も出来たのは予想外もいいとこだけど、幸せが増えたことに違いはない。
 
 
 
 
「そういうわけですからルートの変更をお願いします」
「わかった……それにしてもフレイランド……ん、フレイランド? ふ、ふふふふ、そっかそっかー、フレイランドかぁー♪」
「どうかしましたか?」
 
 
 
 
進路変更を余儀なくされた形だし時間も余計にかかるけど、見ようによっては悪いことばかりじゃないかもしれない。
 
 
 
 
「あっと驚く保険が手に入るかもしれないね♪」
 
 
 
 
訝しむティアナにニヤリと笑ってそう言った。
上手くいくかは分からないけど、やられっぱなしは性に合わない。
嬉々として私はフレイランドの地図を広げたのだった。



...To be Continued

2012/3/24


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