第十一話『なのは様、母になる!』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

こんにちはごきげんようぐーてんもるげん、今日も全力全開な高町なのはです。
若干十九歳ですが時空公国の端っこ、海鳴領で領主様やってます。
偉いんです。
今追い出されてるけど。
 
 
 
 
「それで?」
「これはどういうことなんやろか、なのはちゃん?」
「あー、えぇっとぉ……」
 
 
 
 
でも残念なことに、今私の目の前でお怒りスイッチが入ってるフェイトちゃんとはやてちゃんに、そんな権威なんて通用するはずもない。
いやもちろん普段から通用しないし、振りかざす気も無いけどね。
でもお願いだから私の話も聞いて欲しい。
 
 
 
 
「……誤解だよ?」
「でもママって言ったよ?」
「相手が誰かはよ言いや」
 
 
 
 
違った。
聞いてはくれるけど、これっぽっちも私の話を信じてくれないだけだった。

東大陸への巡礼の旅に出て早四ヶ月。
最後の承認のサインももらったし、後は宝玉を手に入れて海鳴に帰るだけ、というところでこの地方の風土病、ハニア熱病にかかったフェイトちゃんとはやてちゃん。
その二人を直す薬草の為、ついでに宝玉も手にいれる為に私とティアナがアギ・リニ渓谷に向かったのは三日前。
群がる魔獣をぶっ飛ばし、も一つおまけにガーディアンの魔法像……というか放し飼い状態だったっぽいドラゴンもどきを消し飛ばして薬草と宝玉を取ってきた。
そして無事にフェイトちゃんとはやてちゃんに薬を投与することができ、目を覚ました二人をこの手に抱き締めた。
守ることが出来た幸せを離すまいと二人にすり寄った直後、思わぬ方向から思わぬ形で巨大な爆弾が着弾した。
アギ・リニ渓谷の奥地で私が見つけ、連れ帰ってきた女の子。
その子が一時だけ目を覚ましたのだ。
左の赤い瞳に右の緑の瞳のオッドアイ。
居場所を確認するように彷徨っていたその視線は私を見るとぴたりと止まった。
 
 
『……ママ?』
 
 
そして放たれた言葉に空気が凍った。
私のスターライトブレイカーも真っ青な破壊力を持った一言だった。

……その結果、再び眠りについてしまった女の子に聞けない分全ての質問、否、詰問は私へと向けられた。
どう記憶を掘り返してもその少女のことは出てこないし、それらしい、というかフェイトちゃんとはやてちゃん以外の女の子と致した記憶も全く無い。
だから私じゃない、誤解だと言っているのだけど、フェイトちゃんもはやてちゃんも信じてくれない。
日頃の行いと言われればそれまでだけど、今回に限っては全力で濡れ衣なのに。
 
 
 
 
「み、み、み、見損ないましたなのはさん! は、はやてちゃんとフェイトさんがいるのに浮気だなんてっ!!」
 
 
 
 
それに加えて、小さい身体でぷりぷり怒っているリインまで頭の上にいる始末。
まさに針の筵ってやつだろう。
……いや待って待って、普通に誤解なのに皆私にどうしろっていうの!?
 
 
 
 
「真実を話すべきだと思います」
「ティアナまでっ!?」
 
 
 
 
それでもただ一人冷静な部下ならば助け舟を出してはくれまいか、と視線を向ければ、これまた手酷く切り捨てられた。
わ、私の血縁じゃないって気がついてるくせになんだって助けてくれないかな!?
……渓谷でからかったの根にもってる、とか?
可愛いから可愛いって言っただけなのになぁ……
 
 
 
 
「どうでもいいこと考えてるとその頭吹き飛びますよ?」
「そんな物騒な……って、ふぇぇっ!?」
 
 
 
 
いきなりそんな事を言うから、てっきり私の考えを読んだティアナがクロスミラージュでも構える気かと思ったら、殺気は違うところから飛んできた。
振り向いた視線の先で光る金と白のコントラスト。
とても綺麗だと思うけど、自分に向けられていることが分かるのでそんなに悠長に構えてられない。
私から回答を得られない(いや私は答えているけどね?)事に業を煮やしたフェイトちゃんとはやてちゃんが、ついに実力行使に出ることにしたのだろう。
 
 
 
 
「うっ、ぐす、ばかばか、なのはのバカ! どうして私達じゃないのぉー!?」
「きっちり『お話』聞かせてもらうでなのはちゃん……」
 
 
 
 
コォォォォ、と金と白の魔力が狭い病室で渦を巻く。
私どころか病院も吹き飛んじゃうとか、病み上がりで全力全開は身体に悪いよとか、言いたいことは色々あるけど、このまま吹き飛んだら喋る口も無くなってしまう。
正真正銘命の危機だ。
冤罪でこんな目にあうなんてあんまりだ。
こうなったらもうこれしかない。
 
 
 
 
「〜〜っ!! フェイトちゃん! はやてちゃん!」
「なの……きゃっ!?」
「ふわっ!? な、なんや急に……」
「信じてくれるまで何回だって言うよ……私が愛してるのはフェイトちゃんとはやてちゃんだけだよっ!!」
 
 
 
 
だからお願い私を信じて!
そう叫んで二人をぎゅっと抱き締める。
説得に失敗したら消し済みかもと背中を冷や汗が伝うけど、叫んだ想いに嘘はない。
可愛い女の子は大好きだ。
でもフェイトちゃんとはやてちゃんはもっと大好きで大切で特別なのだ。
 
 
 
 
「「……」」
「……えーっと、フェイトちゃん? はやてちゃん?」
 
 
 
 
私の腕の中で微動だにしない二人。
重苦しい沈黙にまさか失敗だったのだろうか、と私は恐る恐る二人の様子を窺う。
 
 
 
 
「ぐす……なのは……私もなのはを愛してるよぉ〜……」
「フェイトちゃん!」
「なのはぁ〜……」
 
 
 
 
疑ってごめんね、ううん大丈夫だよ、と言いながらフェイトちゃんと抱き締め合う。
どうやら信じてくれたらしい。
さすがフェイトちゃんだ。
魔力の残滓がバチバチビリビリいっててちょっと痛いけど気にしない。
ほらこれも愛ゆえにだよ。
ザンバー握ったままなのは怖いけど。
 
 
 
 
「……で、それで私まで誤魔化せるやなんて思うてへんよな?」
「……ですよねー……」
 
 
 
 
だけど問題はこのはやてちゃん。
正直多少なりとも勝算があったフェイトちゃんと違ってはやてちゃんはかなり手強い。
冷静で聡いところもまた魅力的だけど、その分敵に回ると恐ろしい。
いや別にただの誤解だから二人が落ち着いて話を聞いてくれればいいだけだし、そう考えると十分はやてちゃんも取り乱してるってことなんだろうけど。
 
 
 
 
「そういうはやてちゃんもまた可愛い……あ、いたっ、刺さってる、シュベルトクロイツが刺さってるぅーっ!?」
 
 
 
 
ぐさっ、ではないけど、ちくっとは刺さってる感があるはやてちゃんの十字杖。
可愛いと言った私に対しての照れ隠しも含まれていることは若干赤くなった頬を見れば分かるけど、尖ったもので首筋を刺すのはちょっと勘弁してほしい。
 
 
 
 
「と、とにかく、私と血がつながった子じゃないのは確かだよ!」
「……ほんまに?」
「うん! 女の子は大好きだけど、あれやこれや隅々まで知ってるのはフェイトちゃんとはやてちゃんだけだから……いったぁーっ!? はやてちゃんシュベルトクロイツは打撃武器じゃないよっていうかフェイトちゃんも電撃はしびびびびっ!?」
 
 
 
 
可愛い女の子も綺麗なお姉さんもマドモアゼルは皆好き、いやマダムでももちろん好きだけど服の下までは知らない訳で……とか思ってたらつい余計な事を言いすぎた。
ゴンッと十字杖が脳天を直撃したと思ったらフェイトちゃんの電撃までコンボできた。
頑丈さには自信があるけどこれはちょっときびしうにゃあぁぁぁ〜!?
 
 
 
 
「またどうして自分から余計な事を言うんでしょうね」
「いや、だって、その方が分かりやすいかと……」
「マゾなんじゃないですか?」
「無いよそんな性癖!?」
 
 
 
 
人よりは激しいが照れ隠しだと分かる規模で攻撃を続けるフェイトちゃんとはやてちゃん。
さっきのは誤解だけど今のは私のせいなのでそれを甘んじて受けているだけなのに、ティアナは随分酷いことをさらっと言う。
自分の主君を変態さんにしたいわけ?
そんな汚いものを見るような白い目でみなくてもいいじゃない確かにわぁー二人とも可愛いー♪とか思ってるけどさ!
 
 
 
 
「いえ、もう十分変態だと思います」
「疑いの余地すらなく!?」
「ち、違うよ、なのはは変態さんじゃないよ!」
「そや! ちょぉ頭のネジが一本も無いだけや!」
「そうです! 元々じょーしきが無いんですから変態さんとか存在しないです!」
「……」
 
 
 
 
フェイトちゃんとはやてちゃん、リインまでがティアナの変態認定を否定してくれているのに、涙が止まらないのはなぜだろう。
肯定してくれた方がマシだよねこれ!?
いやそれもやっぱり嫌だけどさっ!?
 
 
 
 
「なのは! わ、私はなのはがどんなになのはでもずっとついて行くからね!」
「そやで! どんなにしょーもなぁても最後まで二人で面倒見たるからな!」
 
 
 
 
だから安心して、と微笑む愛しい二人。
揺るぎない二人の言葉に嬉しいやら悲しいやら、とても複雑な気持ちで頷くしかなかった。



...To be Continued

2012/3/24


リリカルなのはSS館へ戻る

inserted by FC2 system