第八話『なのは様、絶不調』

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
時空公国がある西大陸、その西大陸の中では東の端っこに海鳴領は存在する。
名前の通り海は近いし、そこそこの広さがある領内だが、海に面した地域も多いので水害も多い。
当然そうなれば対策も必要になるし、安全に航行するための造船技術も必要になってくる。
 
 
 
 
「だからこんなに揺れが少ないんだね」
「波が高いわけやないけど、それにしたってあんま揺れてへんし」
 
 
 
 
感心したように頷くフェイトちゃんとはやてちゃん。
意外と知られていない海鳴の特殊技術、実際に船に乗るのが初めての二人は現在進行形でその一端を体験中だ。
そう、この造船技術と航行技術もまた海鳴の繁栄を支えてるんだな。
なんせ土地柄、交易での税収が半端ないし。
 
 
 
 
「ある意味私らの食卓を支えてる、と」
「分かりやすいような分かりにくいような……微妙なたとえだね、はやて」
「食事は大事やで、フェイトちゃん」
 
 
 
 
間違いない、と言い切るはやてちゃんに、私とフェイトちゃんはちょっと顔を見合わせて苦笑する。
なんか微妙に話がずれてるけど、さすが八神家の食卓を預かってきたはやてちゃん。
絶品の手料理は海鳴にきてからも健在で、多忙でろくに会えない中数少ない癒しの一つになっていた。
あぁでも、少なくともこれからの半年はのんびり一緒にいられるし、
宿泊まりも多いだろうから作ってもらう機会はちょっと減ったりするかもしれない。
 
 
 
 
「まぁ自炊出来るとこではしたるよ〜? なのはちゃんが作ってくれてもええけど」
 
 
 
 
え、私?
 
 
 
 
「あ、それいいかも。私もなのはの手料理久しぶりに食べたいな」
 
 
 
 
……むぅ。
 
 
 
 
「今時の出来る旦那さんは料理も上手いって言うし、なぁ?」
 
 
 
 
片やニコニコ、片やニマニマ。
こういうところは素直なフェイトちゃんと違って、はやてちゃんはちょっとばかし意地悪だ。
そこがまた可愛いんだけど。
まぁ私だって料理が出来ないわけじゃないし、
はやてちゃんには遠く及ばないけどちゃんと食べれる物は作れるから、機会があったらそのうちやろう。
二人とも喜んでくれそうだし。
 
 
 
 
「そやけどほんと、入ってくる風が気持ちええね〜」
「そうだね、海風はべたつく感じの時もあるんだけど、この辺はそうでもないんだね」
「私は海鳴離れてからはずっとミッドやったからなぁ〜、海鳴の風もやけど、こういう空気、好きやなぁ〜♪」
 
 
 
 
開け放たれた窓から入ってくる心地い空気にはしゃぐはやてちゃん。
フェイトちゃんもその隣で、目を細めて青い空と海を眺めている。
微笑ましい光景だ。
 
 
 
 
「天気もしばらくよさそうだし、良い船旅になりそうだね」
「嵐にでもなったら笑えんし、穏やかでよかったわぁ」
 
 
 
 
のんびりまったり、そんな表現がしっくりくる部屋の雰囲気。
ずっと離れていたし、ようやく一緒にいられると思ったら仕事で忙殺、
あげくの果てに慌ただしく出立準備とここに至るまでが長かった。
追放処分は腹立たしいけど、悪い事ばかりじゃないのが幸いだ。
だって二人ともほんとに可愛い。
というか、この数週間でさらに可愛く、綺麗になってきているのは気のせいだろうか。
色眼鏡と言われればそれまでだが、本当にそう思う。
心なしか周りの空気までなんだかキラキラ光って見える。
あぁ交じりたい、ものすっごく交じりたい。
 
 
 
 
「なのは……まだダメそう……?」
 
 
 
 
うん、ダメ、無理。
 
 
 
 
「なんか、段々目が死んでってる気がするんやけど……」
 
 
 
 
ほんの僅かな意思表示さえまともに出来ない今の私。
それでも心配そうな顔をする二人に声をかけようと口を開きかけ……うぇっぷ。
 
 
 
 
「あぁほら、無理しなくていいよなのは」
「悪化するだけやてなのはちゃん」
 
 
 
 
そう言われ更に心配をかけてしまった。
口を開こうとしたり、ふるふると首を振ろうものなら強烈な吐き気が込み上げる。
遥か昔、まだ幼く船に乗り慣れていなかった頃の記憶が蘇える。
あの頃のように、私は今客室の一つにて船酔いで撃沈していた。
…………なんで?
 
 
 
 
「こっちが聞きたいくらいやわ」
「うん、船酔いの心配があったのは私とはやての方だもんね……」
 
 
 
 
そう言って二人は苦笑する。
うん、そうだね、私も二人の心配はしてたけど、自分の心配はこれっぽちもしてなかったよ。
二人の為に用意したはずの酔い止め薬をまさか自分で飲む羽目になるなんて……うぅぅ。
 
 
 
 
「でも少し顔色よくなったね、薬が効いてきたのかな?」
「酔ってから飲んでるからあれやけど……少しでも効いてくれたら嬉しいわ」
 
 
 
 
フェイトちゃんの手が横たわる私の頬に触れ、はやてちゃんの手が優しく私の髪を撫でる。
目を閉じればなおのこと二人を近くに感じて、その安心感からか気持ちの悪さも多少和らぐ。
出だしでいきなり躓いて、出発前に思ってたのとはまったく違う状況だけど、こんなに二人と穏やかな時を過ごせるのなら悪くない。
元老院の追放処置は腹立たしいし、何かしら裏があってのことだと分かっているが、今ぐらいはこんな時間を過ごしたっていいはずだ。
ずっとずっと求め続けた私の居場所、二人の温もり。
それこそ雨が降ろうが槍が降ろうが手放したりなんかしないんだ。

『海賊だぁぁぁ!!』

そう、例え海賊が来ようとも…………って、海賊?
 
 
 
 
「海賊って……この辺そんなに海賊が出るような海域だったっけ、なのは……きゃぁっ!?」
「わわっ、船の揺れが……!?」
 
 
 
 
ドォォン! と響く砲撃の音。
船の近くに着弾しているのか、回避行動と砲撃で起こった波で船が右へ左へ、大きく揺れる。
そのせいで寝ていた私はまだしも、フェイトちゃんとはやてちゃんは危うくベッドから転がり落ちるとこだった。
ムカムカ。
 
 
 
 
「ど、どうしようはやて?」
 
 
 
 
断続的に続く砲撃に揺れが増す。
より船に近いところに着弾し始めたらしい。
……ていうか、私の大事なお嫁さんが怪我でもしたらほんとどうしてくれるつもりかな。
イライラ。
 
 
 
 
「ど、どうするて、やっぱここは迎撃に出るしかな……きゃっ!?」
 
 
 
 
はやてちゃんが立ち上がりかけたところで、一際大きく船が揺れる。
慌てて起き上がり私は倒れそうになったはやてちゃんを受け止めた。
 
 
 
 
「あ、ありがとうなのはちゃん……って、起きあがったら具合が……」
 
 
 
 
……ぷち。
 
 
 
 
「あ」
「なの……」
 
 
 
 
起き上がった拍子に、一緒に堪忍袋の緒も切れたらしい。
まぁ元々あんまり長くも無ければ丈夫でもないけれど。
私の表情を見てそれを察したらしいフェイトちゃんとはやてちゃん。
二人から制止の声がかかる前に私はドアを蹴り開け、船内を駆けると甲板へと躍り出た。
……え、船酔い?
あはは、私の可愛いお嫁さん二人を危ない目に合わせた連中への天罰が先に決まってるじゃない☆
 
 
 
 
「ちょっとまだ距離があるけど……余裕だよね、レイジングハート?」
『All right. Load cartridge』
 
 
 
 
役割を心得た愛機はあっという間にその準備を整える。
本当はスターライトブレイカーかエクセリオンバスターくらいは撃ちたいんだけど……距離があるので自粛。
 
 
 
 
「ディバイン……」
『Divine Buster Extension』
「バスタァーッ!!」
 
 
 
 
体調不良で全力全開!……には届かないけれど、相応の威力を持った私の魔力光が一直線に海賊船に伸びていく。
狙いを過たず海賊船に着弾した次の瞬間。
 
 
ドオォォォォンッ……!! 
 
轟音と共に海賊船は木端微塵に砕け散った。
 
 
 
 
……中の火薬に引火したくさいけど私のせいじゃないと思いたい。
 
 
 
 
「なのは! ちょっとまっ……あぁっ!?」
「なのはちゃ……うぁちゃー……」
 
 
 
 
デバイスを手に追いついてきたフェイトちゃんとはやてちゃんも周りの船員同様、あー……って顔で空を舞う海賊船の破片を見つめていた。
……うん、まぁやりすぎた気もしないではないけど気にしたらダメだよね?
海に投げ出された海賊船の乗組員の捕縛……というか救助はこの船の船員に任せればいいし、私の出番は終わったのだから問題はない……はずだ。
まぁとりあえずあれだ、部屋に戻ってさっきの続きをすればいいよね、うん、そうしよう♪
……なんて思いつつ二人の方へ勢いよく身体を反転させたのがまずかった。
 
 
 
 
「……うぷ」
「ちょ、なのはちゃんここは我慢や!」
「わわ、しっかりつかまっててなのは! 今部屋に連れてってあげるから!!」
 
 
 
 
事が終わったらあっさり、やぁ、と帰ってきやがりました私の船酔い。
分かってた、分かってたけど、なんかものすごくカッコ悪い。
というか最近やたらついてない気がする……うぅぅ。
私、なんか悪い事したかなぁ……?
 
 
 
 
「あかん、青ざめてきおった……」
「しっかりなのはっ!!」
 
 
 
 
フェイトちゃんに抱えられ、急速に遠のく意識の中私は思った。
フェイトちゃんの胸、柔らかいなぁ〜……って。



...To be Continued


2011/3/17


リリカルなのはSS館へ戻る

inserted by FC2 system